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第二章 帝国編
第38話 静かなる急襲
しおりを挟むコンコン、と部屋の扉がノックされる音に、シェイラとモリーは顔を見合わせる。
『どちら様でしょうか?』
通常、ルードが執務に集中しているこの時間に、
主不在の部屋を訪れるものはいない。
警戒を滲ませながら声を上げたモリーの言葉に対して馴染みある声での返事が聞こえ、二人してほっと肩の力を抜く。
モリーが扉を開けて予想通り、声の主・ガドが軽い調子でよっ!と片手を上げて顔を見せた事により、シェイラはいよいよ脱力した。
『ガルディアス様……陛下と共にいらしたのでは?
何故こちらに』
『悪いないきなり。
まぁなんだ。その陛下の命令でここに来たわけなんだが……モリー、今少しいいか?』
『私ですか?シェイラ様でなく?』
『ああ……嬢ちゃんに聞いてもいいんだが、
お前さんに話を聞いてくるよう言われてるんでな』
『?……ガド様、どうかなさったのですか?』
自分ではなくモリーに用があると告げるガドに声をかければ、
モリーを少しばかり借りていいか?と問われる。
『……ですが、シェイラ様をお一人にするのは……』
『大丈夫だって!嬢ちゃんも、……一人でこの部屋から出ることはない。
そうだろう?』
『え、ええ。私に構わず話をしていらして下さいモリー。
私はここでのんびり読書でもしてますわ』
妙に強い視線で聞き返されて先日の自分の失態が脳裏によぎったシェイラは、
躊躇いを浮かべるモリーへ慌てて彼との対話を促した。
じゃあ少し借りてくなぁ~!と軽い感じで渋々ついてくモリーを伴い退室していったガド。
はぁぁ~…とため息が漏れる。
(あの言い回し……絶対バレていますわね……)
この調子だと、先日黙って部屋を一人で出た件を敢えてルードに報告していなかったこともおそらくは筒抜けなのだと本日二度目のため息を続けて吐く。
帝国に帰還を果たしてから多忙を極めるルード。
ただでさえ警戒態勢が取られている中、疲れを滲ませながら部屋へと戻ってくる彼にこれ以上の気苦労をかけたくはないとモリーに口止めしてまで黙っていたのはやはり失敗だったかと頭を抱える。
“リオン殿下に会った”
確かに宮内で他人と接触したことまで黙っていたのはは良くなかったのかも知れないが、特に何があったわけでもなく。
またルードからも殿下のことは何一つ聞いたことがなかったので、下手に話してあらぬ疑惑を持たせるのも、と躊躇ってしまったのだ。
後継者争いで皆無残に死んでいった中、両親を除いて唯一生き残った身体の弱い義弟。
時々寂しさを湛える彼の眼差しの色を、
これ以上深くしたくはないと思うのは私のわがままなのだろうか。
兎も角暫く自重しなければと三度目のため息を吐いて、読みかけの本へと手を伸ばすと、ふいに室内でカタン、と小さい音が響いたのを耳が拾った。
『………?』
辺りを見渡せどもなんら変化はなく、視線を本へと戻そうとした段になってー…
くらり……
(!!?)
突如視界が霞んだ。
同時に不自然な眠気が急激にこみ上げ、ガクガクと膝が震える。
なんとか意識を保とうと椅子を掴むが、力が入らず。
遂には膝から力が抜けてしまった。
強烈な眠気に意識を奪われながら掴んだままの椅子とともに床へと倒れゆく最中、
シェイラは視界を覆う黒い布をボゥ……と眺めることしか出来はしなかった。
(……ああ、また心配をかけてしまう。
ごめんなさいモリー、ガド様、ー…ルード………)
心の中で自身の大切な人達に精一杯の謝罪を呟いたのを最後に、
シェイラの意識は完全に途切れた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※次回更新は夜です!!
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