出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

第32話  先帝の病①

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side:ルード



部屋で精霊王を交えた話し合いを終えた翌日から、
早速ルードは護衛の強化に勤しんでいた。
矢継ぎ早に白磁宮への人の出入りのチェック強化やガドへと仕事を振っていく。


『ー…シェイラの護衛はガド、
お前が一人か二人ほど騎士団から見繕って付けろ。
俺の方からも影を一人つける。
……何人か入れ替わったようだから顔を把握するまで少しばかり困ったがな』

『あー、な。
訓練(という名の陛下直属ポジ決定戦な……)で新しく入った奴か。
二人いたが、…ルードの目から見て使えそうか?』

『まぁその辺はこれから働きを見れば分かるだろうが……
とにかく、しっかりと仕事をしてくれればそれでいい。
ただ、シェイラには今までにも指示を出してきた馴染みの奴を付けるがな』

『了解。騎士団の方は引き続き副団長に任せるとして
俺はお前さんの護衛を徹底するとしよう』

『任せたぞ』


足早に歩く二人が現在向かっているのは、実は執務室ではない。
白磁宮を出てその後ろに立つ宮ー…現正皇妃であるルードの母と、
父にして先の皇帝・ルドルフ・バーンズ・カデス・カリスティリアが住う場所へと、
その足を淀みなく進めていた。

『……で?なんで急に、今まで避けていた親父殿と話す気になったんだ?』

『何か違和感を感じてやまない。
表向きは隠居、文官や白磁宮の関係者には病床にある、
そう告げられているのは勿論お前も知っているだろう?』

『ああ、病気の名は明らかにされてないがな……。
しかし先帝閣下が宮へと引っ込んでから実際に彼と会った者は皆無。
どこまで本当なのやら……』

『俺が父について知っていることはあまりない。
が、正皇妃として迎えてより愛してやまない自身の妻だからと
好き勝手させるような馬鹿な男ではなかった筈。
後継争いの折に静観していたのが気に食わなかったから隠居してよりこれまで直接の接触を持たないようにしてきたが、帝国中の令嬢を無理に集めた婚約者選定などといった無茶をも静観しているとは考えにくい。

不安の種となりそうなことは今を機に全て確認してしまうに限る』


これ以上……シェイラを危険に晒すことは、俺自身が一番許せない。
だからあまり気にもしていなかった父親と対面することを考えた。

本当に病気なのか。
今まで息子にすら隠すほどの病とは一体何なのか?

母親の不審な行動の数々といい、何か関係があるのかも。
もしくは一枚噛んでいる可能性も……。

色々と疑い出したらキリのないことばかりなら
いっそ全てまとめて確認してしまえばいい。

そうすれば取れる手段はこちらにはいくらでもあるのだから……。


知らず、足早な歩みを更に早める俺とガド。
二人の居城である宮は目の前だ。


…………………………………………………………………………………


白磁宮に比べてかなり小さな宮であるここは、
先の時代を牽引した皇帝と妃の宮にしては内装一つとってもひどく質素だ。

昼間だというのにどことなく薄暗い宮内を女官の案内で歩きながら、
先帝・ルドルフの居室を目指す。
ガドもここに入ったことがない為、興味深げに宮内を見回している。
やがて女官が宮の中でも奥まった一室の前で足を止めて頭を下げると、
俺は扉に向かって声をかけた。


『親父殿、ベルナードだ。入室の許可を』


…………
………………返事が返ってこない。


『……入るぞ』

部屋の主から応答がないことに女官が態度を全く変えないことに疑問を覚えつつも
そのまま部屋へと入ることに決める。
ガドが扉を引いて開け、中に入ると。
広い部屋の中央に鎮座した大きなベッドにぐったりと身体を沈ませる父の姿が。

ベッド脇に寄って覗き込むと、皇帝時代あれ程大きくがっしりとしていた身体つきも、
頬の肉もげっそりと痩せこけていたことに酷く驚く。
一回りも二回りも小さくなってしまったようだ。
加えて顔色も悪く、
胸の辺りが上下しているのを目にしなければ、正直生きているように見えない。
変わり果てた父の姿を見下ろしながら眉を寄せる。
部屋の端で待機するガドも、俺の様子から父の容態があまり芳しくないことを読み取り渋面を浮かべている。


『……親父殿……』

たまらず声を漏らすとその声が耳に届いたのか、ゆっくりと窪んだ瞼が開いた。


『ベル、ナード……か』

『ああ……久しいな、親父殿』

『本当、に、ひさし、ぶりだな。大きく、なった…っぐっ!』

『!!無理に起きなくていいぞ、そのままで…楽にしてくれ』

『…悪い、なぁ……こんな、情けの…ない……。
本当は、死ぬ、まで、会うつもりは、なかっ、たのだが……』

『……随分とご挨拶だな』


途切れ途切れに嗄れた声を発する父の言葉を正確に耳に捉えて、
その内容に更に眉を顰める。

(死ぬまで会うつもりがないだと?)

会うつもりがなかったから
現皇帝の息子にさえ自身の容態を隠してきたというのか。

ルードの方から距離を置いていたといってもそこまでする理由は……
と衰弱が激しいことを承知の上で聞こうとすれば、入口から声が。


『やっと見舞いに来おったか馬鹿息子め。
……遅すぎるわ』

『……母上くそばばぁ……』



扉に凭れ掛かりながら腕を組んで苦笑いを浮かべる
母・レムリアの姿がそこにはあった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※明日の更新に続きます。
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