出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

第30話  予想外の求婚

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side:シェイラ




皇帝の居室。
シェイラの目前ではモリーやガドが見守る中、
精霊王とカリス帝国皇帝が対談という名の話し合いが行なわれていた。


『ー…つまりは令嬢の内一人が香りで人の正気を奪う類のものを身に纏って
会場入りしたために俺達は正気を失って、
シェイラの身に危険が迫ったと感じた貴殿が姿を現してその香りの元と効果を絶ったと。
そういうことか?』

【そうじゃ、けったいな物を使いおって。
これだから人間という生き物は好かん。
己の力で扱いきれん物をさも自分の力と言わんばかりに平気で使いおる……
愚かな生き物じゃ……】

『それを言ったなら俺もシェイラも愚かしい生き物という事になるが……』

【シェイラは別じゃ!我が友の子にして我が直々に加護を授けた者じゃからのぅ。
人のことわりを外れた力を我欲の為に欲する輩と一緒にするでないわ!
まぁ、主も聞けば皇帝なる人間の国の長をしているだけあって、
人にしては話が分かりそうな奴じゃからして、辛うじて例外においてやるとしよう】

『それはありがとうというべきかな?
辛うじて、という評価が些か気になるが……まぁそれはいい。
シェイラ一人だけ正気を維持できたのも貴殿の授けた加護の効果なのか?』

【うむ、そうじゃ。
なんせ我が加護じゃからの!
かなり強力で基本的にシェイラの身体に害を及ぼすものを防いでくれる。
……例えそれが飢えであったとしてもな。
元々寿命以外でかの娘御が死なんようにと授けた物じゃからして】


幼い頃に授けられた加護。
暗にシェイラが飢えで死ぬ可能性があったことを示唆され、
私は少し青褪めた。
眉を寄せたルードだったがその事にはこれ以上深く聞く事はなく、
つまりはシェイラが毒を飲もうとも寿命以外で死ぬ事はないのか?と精霊王に問うた。


【その通り……と言いたいところじゃがな…。
生憎と力が強すぎれば人という枠から完全に外れてしまう。
というが正しかろう。
先の香りにしても主らより効かなかったというだけで正直かなり危うかった。
それ程までに強力な効果を持った危険なものである事は間違いなかろう】

『だから貴殿が自ら顕現して対処をしてくれたと。
……シェイラの事はいうに及ばんかも知れんが、
人間を代表して俺からも礼を言う。
貴殿が事に当たってくれなければ今頃どうなっていたことやら…』

『ここは素直に礼を受け取るとしようかの。
ふむ、人間にしては殊勝な奴よ。
我が友とその子であるシェイラ以外の人間とは交流を経って久しいが……
人の世が主らのような素直で殊勝な者ばかりであれば
我も今少し人という生き物に好感を持っていたやも知れんな……】


ルードの言葉に満足げな表情を浮かべつつも
何かを思い返すように遠くを見つめるオーギュストの様子に、
シェイラは何か胸にこみ上げてくるものを感じて彼の手にそっと自分の手を重ねた。

ひどく温度のない手ー…
自分が幼い日より姿の変わらないこの人物が、
どれ程の年月人間に失望して孤独に過ごしてきたのかを思えば、
思わず触れずにはいられなかった。

重ねられた手から感じる温もりに照れた様子で目を細めた彼が、
その更に上からもう片方の手でポンポン、とシェイラの手を軽く叩く。


【……ん、なんぞ心配でもしおったか?
精霊王たる我が身を案ずるなど、誠主ら親子は奇特な人間よの…。
思えば主の母ー…我が友エリーシェも心配性であったか。
一人森にて時が過ぎるのを諾々と許容していた我を
“一人ぼっちは寂しいから友になってやる”などと宣いおって……】

『ふふ……!母がそんなことを?』

【うむ、まぁ人にしては整った見目と美しい魂の持ち主であったからの?
そうであればといっそ我が伴侶にと誘ったのじゃが……】

『『えっ!!?』』

【考えてみれば主は友の子……。
それも魂といい、見目といい、彼女によぅく似ておる。
どうじゃ、いっそのこと人の理から外れ、我の伴侶とならんか、ん?】



まぁ!!と両手を口元に当てて成り行きを注視するモリー。
ピュー!とガドの口笛が耳を素通りする。

さらりと前振りなくプロポーズという名の爆弾を投下したオーギュストに、
真っ赤になって固まるシェイラと殺気を漲らせるルード。
先ほどまでのセンチメンタルな空気は何処へやら、
辺りは再び混沌の体を醸し出し始めた。


『オーギュスト殿、貴殿……先ほど俺とシェイラは番だと。
そう言っていたと俺は確と記憶しているのだが……?
(何ぶっこいてんだクソ爺ぃ)』

【ふん……じゃが契りを交わした訳でもなかろう?】

『契っ!?』

【契りを交わさねば他人と同じ。
我が伴侶に立候補したとて何の問題がある?(手を拱いている方が悪い)】

『貴殿のように自由に生きている御仁には理解できんかもしれんことだが、
人間、それもシェイラや俺のような身分ある人間にとって
婚儀を果たす前のは禁忌とされている
(出来るものならとっくにモノにしてるわ!!)
婚約、婚儀を経て後、契りを交わす。
それが普通なんでな、察して欲しいものだ』

【何と面倒極まる……(下らんな)
人生の伴侶を決めるのにそのようにまごついていては、
何処ぞの馬の骨に拐われてしまっても文句も言えまいに
(取られて嘆いても遅いだろう)
シェイラよ、ここはやはり我にしとかぬか?
我を気遣う心優しき主であれば、
悠久の時を我と過ごすのも悪くはあるまい】

『なっ…(引っ込んでろ爺ぃ!!)!!?』

『くははっ!!おいおいあんた面白ぇなぁ!!
おいルードどうするよ?
精霊王が相手ライバルなんて相当手強いんじゃね(ワクワク)?』

『……なにせ相手ライバルは精霊王。
人の理に縛られない最強の存在(スペック的に完全に負けてますね)!!
私はどちらの手をとっても変わらず応援致しますわシェイラ様(ドキドキ)!!』

『お前ら完全に面白がってるだろうっ!!?』

『…………(真っ赤)』


精霊王の予想外の求婚にやんややんやと囃し立てるガドとモリー外野
当の精霊王は顎に片手を当ててニヤついている。
……悪い顔だ。
憤慨するルードとシェイラの返事を注視する面々の強すぎる視線が降り注ぐ中。
シェイラの出した言葉はー…。


『……私などに求婚してくださり光栄でございますわ、オーギュスト様』

『っシェイラ!!?』

【ほう?……では】

『ですが、申し訳ありません。
私はその求婚をお受けする事は出来ません。
私にはもう……隣に立つと決めた大切な方がいらっしゃいますので』

『……シェイラ……』


そう言ってルードを見つめれば、感激したように熱の篭った眼差しにぶつかる。
赤い顔のままその眼差しを見つめ返して微笑んでいると、
なんじゃつまらん、と隣から声が聞こえた。


『オーギュスト様……?』

【親子揃って我の求婚を蹴るとは…誠、主ら親子は失礼よの…。
まぁ半分は冗談じゃ、安心せい。
…共に歩める者が見つかってよかったのう、シェイラ】

『オーギュスト、様……』


にっこりと微笑んだオーギュストにルードとの仲を応援する言葉を送られて
感動に目を潤ませるシェイラ。





しかし周囲は違うようで………。


(((半分は本気じゃない(です)か!!!)))


と心内で一斉に叫んだのだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※次回更新は夜の予定です!!



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