上 下
116 / 161
第二章  帝国編

第24話  交流会⑥〜ヨークデンの娘〜

しおりを挟む

パチパチパチパチパチ……




ルードの独り言が響いた後、どこからか拍手の音が。

音の聞こえてきた方角を見やれば、
赤茶の髪をした令嬢がおかしくて仕方がないといった表情で
笑いながらこちらに向かってきていた。


『あっはははは!!
いやぁ、本当愉快な余興を見せてもらいましたわ陛下!
そしてそちらのご令嬢!!』

『『貴女(君)は……』』

『ああ、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません陛下と美しき方。
ヨークデン家の娘、ニーナ・ヨークデンと申しますわ』

『入場早々見苦しいものを見せて悪いな。
ベルナード・イグニス・カロル・カリスティリアだ』

『陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう。
…そちらの美しいご令嬢も差し支えなくばお名前をお聞きしても?』


『丁寧なご挨拶ありがとうございます。
トリアドス王国・レイランドルフ伯爵家の娘、
シェイラ・レイランドルフと申しますわ』

『なんと!
かの王国で有名な宰相様の御息女であらせられましたか!
こちらこそご丁寧なご挨拶、痛み入ります。
私は貴族ではないのでどうぞお気軽にニーナ、とお呼びくださいな』

『わかりましたわニーナ。
では私のこともシェイラと呼んでください』

『恐れ多いことではございますが…。
ではお言葉に甘えて、シェイラ様と呼ばせていただきます』


どこか芝居がかった口調で挨拶を済ませた彼女ー…ニーナの
礼を知りながら知性と明るさに富んだ物言いに、
シェイラも知らず自然な笑みを浮かべた。
レイランドルフの名を聞いただけでトリアドスの宰相とすぐに思い至るあたり、
流石は頭が切れると評判の大商人の娘、である。
公私の区別が確りとしてるし、
何よりその愛嬌のあるそばかすの散った顔でにっこり笑まれると
長年友好を築いてきた友人のように錯覚してしまう。
先程退場した二人が酷かっただけに余計……。

変わっているといえばもう一つ。
実は彼女、スカートでなくスラックスを履いているのだ。
上は多少レースや刺繍のきいたドレスシャツを着てはいるものの、
下は黒のスラックス。
髪も後ろで一つに束ねている。
まるで令嬢というより青年のようだ。

そんな感想を抱いたシェイラの考えはどうやら当たっていたようで。

『ふふっ!本当気楽に接してもらえるとありがたいですわ。
…こう言っては陛下に失礼になることを承知で言わせていただければ、
私は今回の選定に全く興味が無いのです』

『あら!』

『ほう?』


シェイラは驚きの声をあげ、ルードが口角を上げた。
わざわざ帰らず選定に留まっておきながら皇帝本人に面と向かって
“貴方に興味がない”と直截に告げるとは、
なんとも思い切りがいいというか、豪胆な娘である。
ニヤリと些か人が悪い笑みでルードが声を掛ける。


『では何故帰らず留まったのだ?
振られた身に是非とも教えて欲しいものだな』

『ははっ!!振られたなどと陛下もお人が悪いこと。
このような美姫を連れてきておいて私のような商人の娘程度が相手になるとでも?
(冗談はその美麗すぎるお顔だけにしてくださいな)
貴方様には既にこちらの美姫がいらっしゃることなど、
そのポケットチーフを見れば誰にでも分かります。
あ、いや失礼(分からない方々もいらっしゃいましたね……)。』

『では何故?』

『んー…あけすけに申してしまいますと所謂顔繋ぎですね。
陛下に拝謁できる機会など滅多に無いことですし、
何せこれでも商人の娘ですから!』

『くく…そうか。
では存分に役目を果たすといい』

『ええ、ええ、しますとも。
尤ももう既に果たしたと言っていい気もしますが。
今日の一番の収穫は
シェイラ様という稀有な美姫とお知り合いになれた事でしょうね!
出来れば友人に加えて頂きたいものです』

『うふふ、私などでよろしければ喜んで』

『なんとなんと!!
いやはや、今日は私の人生において最良の日となりそうですわ!!』



シェイラの色良い返事にパァッと顔を輝かせる彼女の純粋な喜びの表情を目にし、
こんな妹が欲しかったわ……と笑みを深めたのだった。
ルードもそんなシェイラの笑みを目を細めて見つめて笑っている。
側でモリーが“ご馳走様です”と小声で呟いたのは聞こえなかったことにしましょう。
でなければまた、顔に血の気が上がってしまうのだから。


こうしてシェイラは、
交流会が始まって初めての友人を得ることが出来たのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

話の展開的にキリがいいのでここまで。
次回更新は二話とも夜になる予定です!


しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

欠陥姫の嫁入り~花嫁候補と言う名の人質だけど結構楽しく暮らしています~

バナナマヨネーズ
恋愛
メローズ王国の姫として生まれたミリアリアだったが、国王がメイドに手を出した末に誕生したこともあり、冷遇されて育った。そんなある時、テンペランス帝国から花嫁候補として王家の娘を差し出すように要求されたのだ。弱小国家であるメローズ王国が、大陸一の国力を持つテンペランス帝国に逆らえる訳もなく、国王は娘を差し出すことを決めた。 しかし、テンペランス帝国の皇帝は、銀狼と恐れられる存在だった。そんな恐ろしい男の元に可愛い娘を差し出すことに抵抗があったメローズ王国は、何かあったときの予備として手元に置いていたミリアリアを差し出すことにしたのだ。 ミリアリアは、テンペランス帝国で花嫁候補の一人として暮らすことに中、一人の騎士と出会うのだった。 これは、残酷な運命に翻弄されるミリアリアが幸せを掴むまでの物語。 本編74話 番外編15話 ※番外編は、『ジークフリートとシューニャ』以外ノリと思い付きで書いているところがあるので時系列がバラバラになっています。

処理中です...