出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

第23話  交流会⑤〜二人の退場者〜

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※視点が途中で切り替わります。

ルード→シェイラ視点

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


side:ルード




警備に当たっている騎士達に扉を開けてもらい入場すると、
とんだ光景が目に入ってきた。


(何だ、あの見苦しい生き物どもは)


小ホールのほぼ中心で、
モリーを伴ったシェイラに向け怒鳴り声を上げているのは
くだんの愚かな令嬢二人だ。
俺が入場したことに気付くこともなくシェイラに食ってかかるその形相は、
とても貴族の令嬢のそれには思えないほど醜悪だ。


(挙句、黙って聞いていればシェイラのことを“地味女”だと?
……どの口が言う)

珍妙な形をしているくせに、と眉を顰めて彼女達に近づいていく。
近づけば近づく程、彼女達の珍妙さが際立つ。
種類は違えども相変わらず趣味の悪い身なりに加えて
髪や顔、ドレスを濃い紫色に所々染めている。
失笑を通り越して言葉も出ない酷さだ。
どうやらその染みとやらが口論の発端であることは間違いなさそうだが…

シェイラと部屋で別れたのはほんの十数分前。
彼女が部屋を出た後自分も着替え、ここにまっすぐ向かってきたその僅かな時間に、
どうしてすぐに問題を起こせるのか。
てっきり問題発言なり行動を起こすのは、
交流会が始まってからだろうとタカを括っていたらこれだ。
二人の頭の悪さにため息が漏れる。

周りには他の三人の令嬢が、
遠巻きに三者三様の視線を彼女達シェイラ達に送って成り行きを静観している。

ニーナ嬢は愉快げに。
ウリミナ嬢は小馬鹿にした顔で。
セルレーン嬢に至っては無表情。


そんなに広くもない小ホールの中で距離をあれ程取っているところを見るに、
騒ぎはシェイラが入場してすぐに起こったのだろう。

つくづく救えん連中だ。


間近まで接近している俺に未だ気付かず怒りのボルテージを上げる二人。
今に手が出そうな気配を察して、
ようやく俺は会話に介入することにした。


『ここはいつから仮装と口論をする場となったのだ』


やはり不要なものはさっさと片付けるに限るな。

………………………………………………………………………………


side:シェイラ




声が聞こえて振り返ると、予想外にも近くにルードの姿を見つけて驚く。
腕を組んで顔も顰めているけれど、
華美過ぎず上品さが際立つ濃紺の装いがとても似合っていて暫し見惚れてしまう。
ポケットチーフがシェイラのドレスと同色同生地であることに照れを滲ませると、
その視線に気付いたルードが一瞬口角を上げた。
頬を僅かに紅潮させるシェイラに満足げな笑みを浮かべると、
すぐさま厳しい顔に戻り二人…ではなくモリーに説明を求めた。


『一体何の騒ぎだこれは?』

『は。これは…』

『『陛下っっ!!』』


説明しようと口火を切ったモリーの言葉を遮って、件の二人が囀りだした。
モリーの方から顔を動かさないルードに纏わりつき、
甘えた声で自分達の正当性を主張する様は酷く見苦しい。


『陛下、お会いしとうございましたわ!
こんな姿でお会いすることになって申し訳ございません、でも!!』

『陛下ぁお久しぶりですぅ!
私ぃ、この地味な人に虐められたんですよぉ~?
折角のドレスをこんなにされてしまってぇ!!』

『私もこの方の侍女に飲み物をこんな有様に……。
このようなことをなさる方をこの交流会に留めておくべきではないと思いますわ!』

『私もぉ、そう思います陛下ぁ~!』


ラクレス嬢は胸の前で両手を組んで泣き真似、
そしてレーギル嬢は胸を寄せて強調しながらルードの腕に擦り寄り上目遣いで
自分は被害者!!と目一杯主張する。
芸が細かいなぁ…とひと事のような感想を抱くシェイラは現在、
ルードの眼差しの温度がどんどん下降していることに気付いているが故の現実逃避中だ。
ルードがようやく二人の方を向く。


『黙ってくれないか』

『『えっ??』』

『君達には聞いていない』


わぁわぁと騒ぎ立てる二人をちらと一瞥して腕から引き離すと、モリーに事情を聞く。
そうして再度二人に向きなおると冷め切った眼差しで見下ろした。


『先ほどから聞いていればペラペラと…
君達二人には学習能力がないのか。
1週間前に言ったことをもう忘れてるとしたら
この場に相応しくないのは君達の方だ』

『『なっ!!?』』

『何を驚いている?
話を聞いた限りでは完全に君達の自業自得だろう。
挙句、名乗りもせず自分が行った行為を棚に上げて
人に罵声を浴びせるなど貴族として以前に人としてどうかと思うが。
先日同様、いやあの時以上に俺が君達には失望していることに気付けない
その鈍感さは早急に直さなければこれから大変だとだけは忠告しておこう』

『そんな、酷いですわ!私、棚に上げてなんて……』

『いないとでも言うつもりじゃないだろうな?
侍女からは君達の語ったことと全く逆の事実を聞いたのだが』

『それはぁ、その地味な人を侍女が庇ってるんですよぉ~!!』

『っそうですわ!自身の主人に不利となることを侍女が話すはずありませんもの!
きっと主人であるそこの女を庇って!!』

『その侍女は彼女の侍女ではないが?』

『『……は?』』

『モリーというそこの侍女はこちらにいる女性の専属ではなく侍女だ。
君達の言葉に照らせば、主人の不利となることはしない……
つまり主人に嘘をつくこともしないのだろう?
主人である俺にそんな些末な嘘をつく必要がどこにある』

『なっ、何で……』

『何で陛下の侍女さんがその人についてるんですかぁ!?』


『この交流会にはそれぞれの侍女付きでの参加を許している。
彼女にはお付きの侍女がいなかったのでな、俺が自分の侍女を貸し出している。
……何か不満でもあるか』

『大アリですわ!!』

『何でそんな女にだけ陛下直々に!!』


くわっと目を見開いて今度はずるい、贔屓だと騒ぐ二人に、
さしものシェイラも呆れてものが言えない。
自分達には家から連れてきた専属がいて、シェイラにはいない。
だから身の回りの世話をする侍女を付けたルードの何がおかしいのか。

滞在する客人を主人がもてなすのは当たり前。
故に、当初予定していた後宮入りの出鼻を挫かれ
一人白磁宮へと滞在することとなったシェイラを侍女付きでルードがもてなそうと
全く不思議ではないのに。
案の定。


『……わかった』

『『……え』』

『そこまで君達が言うのなら退場してもらおう。
そして家に帰ってもらう』


『そ、そうですわね!
陛下がそう言ってくださるのを私は信じておりましたわ!!』

『ありがとうございますぅ陛下ぁ!
やっとわかってくださったんですねぇ~!!
早く帰ってもらいましょうよぉ~』


『……そうだな。可及的速やかにお帰り願おう』


そう言い置いて入り口に待機していた騎士達を呼び寄せるルードに喜色を浮かべる二人。
騎士達が退場を願うために腕を掴んだのは私…ではなく。
今まさに喜色満面となっていたレーギル嬢とラクレス嬢であった。


『な、何を?!何で私が!?』

『あ、あのぉー、陛下ぁ?
この騎士さん私とそこの人を間違えてるんですけどぉ……?』


『ん?間違ってなどいないぞ?
ちゃんとお帰り頂こうか……にはな』


信じたくない、有り得ないと口をパクつかせる二人に
にっこりと今日会場入りして以来初めての満面の笑顔を浮かべてルードが言う。


『昼間に開催の交流会だというのにまるで協調性も品もない服に言動、
貴族としても女性としても、正直これ以上見るに耐えん。
挙句、会でまともに名乗ることも出来ず、
不満を撒き散らすしか出来んのなら……。
到底、俺の婚約者となる資格などない。


………連れて行け』



『『は!!』』


強い力で肩を掴まれて入り口へと連れて行かれる二人。


『や、やめなさい無礼者!私を誰だと!!』

『い、嫌!!私は残るのっ!!
陛下っ!陛下ぁあああああああッッ!!』


けたたましく叫び抵抗をする二人をしっかりと捕らえて離さず、
騎士達はそのまま小ホールを後にしていった。




『うん…やっと静かになったな』

シンと静まり返った小ホールの中に、そんなルードの満足そうな独り言が響いた。
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