出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

第22話  交流会④〜予想外の反射が齎らした結果(2)〜

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※前回の解説入ります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


side:シェイラ




ぇえと、これは…』


子豚と娼婦が斑模様とプリン(?)になった。


なんとなく聞かずとも分かってはいるが、ここは敢えて聞くのが正解だろう。
一体何がどうなって?とモリーに説明を求めると、
会場に入ってから無表情を貫いていた彼女がスッと目を細めて二人を順に流し見る。
レーギル嬢は未だ怒りが冷めずこちらを睨んだままだが、
今にも泣きそうに瞳を潤ませていたラクレス嬢はビクリと肩を揺らして僅かに後退った。
彼女達の反応にも眉一つ動かすことなく、
優秀な侍女は説明を始める。

『このような状況になった経緯から順を追って説明いたしますと。
まずはこちらにおられるラクレス様とレーギル様がお嬢様の方へと歩んでこられ、
且つラクレス様が葡萄のジュースのグラスをお持ちのままかなりの早足でいらしたのです。
それはもうと注がれていたご様子で……』

(ああ、つまりはそのなみなみと注がれたジュースを私にかけるつもりだったと)

儀礼的に私をお嬢様と呼びながら淡々と語るモリーの強調された言葉を理解すると、
なんて子供っぽいことをするんだろうと呆れかえる。
つまり一人は私に色の濃い飲み物をかけようとしていて、
もう一人はそれが齎らす結果を間近で嘲笑おうとしていたわけだ。

『あれ程目一杯に注がれた飲料を持ちながら早足で移動すれば、
どうあっても歩く振動でグラスの中の水分が跳ねます。
案の定水分は跳ね、歩く度に少しずつドレスに散って染みているのが見えたのですが……
こちらへいらした瞬間に勢い良くそれをお嬢様に向けて振りかけようとしたので
恐れながら私めが阻止させていただいた次第です』

『そう……(つまりは自業自得なわけね)
ラクレス様のことは分かるけれども、その、レーギル様と言ったかしら?
彼女は?』

『態々に寄ったが為に起こった、
予想外の反射が齎らした結果でございます、お嬢様』


『反射?』

『はい。水分の多くは私のエプロンへと吸収されたのですが。
あまりにも水分の当たる勢いが強かったのか、
跳ね返ってレーギル様に降りかかってしまったのです』

『……(なんと運の悪い…)偶然とは怖いものですわね』


つまり簡単にまとめると、

レミルは葡萄ジュースを手に早足でこちらに歩いてきた
        ↓
その時すでにドレスに染みを作っていた
        ↓
シェイラに勢い良く葡萄ジュースを振りかけた
        ↓
  モリーがエプロンで阻止!
        ↓
レミルとほぼ同時にシェイラに寄ってきていたカサンドラに一部跳ね返った
        ↓
    子豚とプリン(?)の完成☆


こういうことになる。

実際に葡萄ジュースを持ってきたラクレス嬢は完全に自業自得だが、
反射して被害を被ったレーギル嬢はこの場合被害者だと断じるべきなのか。
いや、どう考えてもこちらに急接近しさえしなければ
被害を被る事などなかったのだから、
やはり彼女も自業自得だろう。

モリーの解説を聞いて状況に関して納得を見せつつ、
表面上は気の毒そうに眉を下げるシェイラ。
しかし当然現状に納得がいってない者が二人。


『ああ……折角陛下に気に入っていただけるようにと用意したドレスが!!
どうしてくれるのよ!!』

『……私の綺麗な髪と顔が…こんな汚ならしい色に……。
貴女っ、どう責任を取るおつもり!!?』


一人は自分で葡萄ジュースを持ってきておいて、
もう一人は(災難と言えなくもないが)自分でこちらに近づいてきたのに、
随分な言い草だ。

しかもそれらの非難の矛先は何故か、
(シェイラにかかるのを)阻止して(液体を)反射させたモリーではなくシェイラだ。


『あの、お二人とも?
今は早く染みを落とした方がよろしいかと』


『うるっさいわね!
こんなにいっぱい散ってしまったのをどうやって落とすのよ!?
落とし終わった時には交流会が終わってしまうじゃない!!』

『汚れを落とすためと理由をつけて私達を追い出そうとしてもそうはいかないわよ!
貴女の侍女がしでかした事なのだから、
こうなった責任は貴女が取って退場すべきですわ!!』



……なんという暴論。
確かに令嬢付きの侍女が犯した失態の責任は本人ではなく令嬢にある。
しかしこの場合は二人ともただの自爆。
シェイラが取る責任も何もあったものではないというのに…。
どうあってもシェイラにここから退場してほしいようだ。
隣を見やれば、モリーが害虫でも見ているような冷え切った眼差しで二人を見ている。


『なんとか言いなさいよ地味女!!
地味な貴女の装いと違って私のドレスはこの日の為に用意した特別なものなのよ!!?』

『よもや陛下の婚約者選定中にとんだ辱めを……!
名乗りなさいっこの事は我が公爵家から抗議をさせていただきますわ!』


あ、レーギル嬢はお互い名乗っていないことは承知していたのね。


厚顔無恥な二人の発した言葉を困った顔で聞き流していると。
会場に通りの良い声が響く。


『ここはいつから仮装と口論をする場となったのだ』


シェイラも含めて全員が振り返った先には、
いつの間にか入場していたこの交流会の主催者・ルードが
腕を組んでこちらを見つめていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※次回更新は21時頃を予定してます。
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