上 下
108 / 161
第二章  帝国編

第18話  “真実”を語る茶会(後)〜残った五人〜

しおりを挟む
最終的に後宮に残った令嬢は五人。




一人目は、カサンドラ・クラン・レーギル公爵令嬢。

金の長い髪を常に巻き髪にしてサイドに流している気の強い令嬢。
気位がかなり高く、同格の者には敵意を、身分が下の者は見下すといった徹底ぶりである。
徹底した身分主義だが礼儀作法マナー方面はあまり褒められたものではないと
ルードやルミエス様からの言あり。
しかしながら家格は本人の自信の素であるように五人中で一番高い。


二人目は、レミル・ロド・ラクレス男爵令嬢。

ふわふわとしたダークブラウンの髪と同色の大きな瞳を持つ、
一見小動物めいた令嬢。
しかしその一方、高位の令嬢にも平気で食って掛かるところや、
異性に対して露骨に媚びを見せる様子が、
後宮に潜入の折にも周囲から非難を集めていた。
あと総じてセンスが悪い(これもルードの評価)


三人目は、ニーナ・ヨークデン。

貴族ではないものの、
その家は帝都一の規模を誇る大商会、ヨークデン商会。
帝都に溢れる流通はこの商会が全て牛耳っているとまで言われている家の第二子で、
赤茶けた癖のある髪に、顔にそばかすが散った愛嬌のある令嬢。
頭の回転が凄ぶる早く、
第二子でありながら次期商会の長に望む声が後を立たないとか。


四人目、ウリミヤ・ジョルダン

ニーナと同じく貴族ではなく、ジョルダン商会の一人娘。
薄桃色の珍しい髪色に、翠色の瞳を持つ令嬢。
商売敵とあってヨークデン商会とは家同士仲が悪く、
同年で出来の良いニーナとよく比べられてきた為か兎角彼女に対して対抗心を燃やしている。


最後、五人目は、セルレーン・クロム・ヴィーダ伯爵令嬢。

黒い髪と瞳。
可もなく不可もなくを地でいく平凡な顔立ちの令嬢。
ヴィーダ伯爵家にしても、
名ワインの産地という以外取り立てて何があるわけでもない家の第三子。
容姿や家などの情報はその殆どがシェイラの潜入調査時、
世話をしている女官達や侍女からの又聞きばかりでずっと部屋に篭っていたために
実際に本人の顔も性格も見ることができなかったという。


………………………………………………………………………………



モリーが紙へさらさらと令嬢達の名と挙げられた情報を記している側で、
男二人は何故かげんなりとしていた。


『ー…カサンドラ…レミル……。
結局あの二人は残っているのか……(帰ってくれれば良かったのに)』

『あー……それな。
非常識な奴はどこまでいっても非常識。
そもそもまともな神経した奴は皇帝の執務室にアポ無しで乗り込んでこないだろ』

『しかもあれほどはっきりとお呼びでないと言ったはずなのに…。
あれか、あいつらは未知の生命体か何かか?
果たして人間の言葉が通じるのか?』

『それな』


はあああぁぁ~……×2


(凄い深いため息だわ……)


まるで魂が一瞬にして老化してしまったようだ。
しかしその令嬢二人が取った行動の拙さには頷ける。


『その、レーギル様とレミル様、でしたか?
執務室へいきなり訪問とはまた……大胆と言いますか(はっきり言って不敬よね)』

『言葉を選ぶ必要はないぞ、シェイラ。
もしも彼女らが母上の呼んだ人間でなかったら、
とっくに不敬罪に色々とくっつけてしている』

『単なる不敬じゃ済まされんだろ普通。
嬢ちゃんにはピンとこねぇかも知れんが……』

『しかもカサ……レーギル嬢に関して言えば、
白磁宮へ入ってくる際に、入り口で見張りの任に就いていた騎士の一人を罵倒した上に邪魔だと手持ちの鉄扇で殴り倒したらしい……』

『まぁ…どれほどヤバいかというとだ。
あれだ、謁見の間の入り口に呼ばれてもいないのに押し掛けて、
護衛を尽くなぎ倒した挙句に扉を蹴破って皇帝の前で好き放題話すのと同じくらいヤバい。
機密書類も取り扱うからな、執務室ってのは。

下手すりゃ国家転覆を目論んだとして極刑食らうぞ
(因みに俺も後宮へ彼女達を送りがてら殴られそうになったが)』


『…………(わぁお)』


…つい、不思議な副音声を発してしまった。
鉄扇で殴打…って、打ちどころと力加減間違えたら死にますよね??
その他の行為も合わせたら、
何だか極刑になっても全然不思議じゃない気がしてしまったシェイラだった。


『まぁあのお二人は早々勝手に自滅すると思いますし、
良いではありませんか陛下(正直食指が動かない)。
それよりも他のご令嬢方について考えた方が建設的ではなくて?』

『陛下、僭越ながら私もルミエスの意見に賛成ですわ
(食指が云々は兎も角)
そんなどうしようもない駄犬、気にするだけ時間の無駄というものです』

『永遠に夜が続かないように、時間は限りなく有限です。
余裕があるうちに必要なことを確認しませんと。
そうでございましょう?』

『『…それもそうだ(な)』』

『そうですね』


ルード達男性陣がカサンドラ達を気にするのが、
心底理解できないという表情を浮かべるルミエス様とモリー。
それを見て苦笑しつつ同意を示すルードとガドに、シェイラも賛同する。

勝手に騒いで勝手に自滅する。
モリーの手引き書に記載されている“駄犬”の典型例である二人を
これ以上警戒したところで得るものもなさそうだからだ。


『ニーナ・ヨークデンはどうです?
ヨークデン商会の持ち込む商品には私の家も随分とお世話になっていますけれど…。
本気で選定に臨んでいるとしたら、
この中では一番厄介じゃなくて?』

『『確かに』』


ルミエス様の言葉に私とモリーも追従する。
何せ家は帝都一の大商会。
ルミエス様の言った通り、
本気でルードの婚約者を目指していたとしたら随分と手強そうではある。
が、ルードは頭を横に振る。


『いや……おそらくではあるが、彼女は大丈夫だ。
俺も彼女とは数度面識があるが、
純粋に自分の家ー…商売を第一優先事項として掲げている節がある。
俺自身に興味があるというより、
俺の婚約者候補であったというを重視して残った可能性が高い。
所謂箔付けだろう』

『ああ、成程。
陛下の婚約者候補だった…。
その事実だけでも勝ち取ることが出来れば、
入り婿となってくれる者に困らないですからね』

『では、ウリミヤ・ジョルダンも同様なのですか?』

『彼女は少し、ヨークデン様とは違う気がしますわ』


ルードの言葉へ納得を示すルミエス様に続いたモリーの言葉に、
今度は私が否と答えた。


『後宮へ調査に赴いていた時にも何度も耳にも目にもいたしましたが、
ヨークデン様とジョルダン様の仲の悪さというのは、
どちらかといえばジョルダン様が一方的にヨークデン様を意識して突っかかっているようでしたわ。
それに対してヨークデン様はまるで相手にする素振りもなく、
その我関せずな態度に、ジョルダン様が余計強く反応されていたと』

『『『『つまり?』』』』


『ですから彼女の場合は、
ヨークデン様への対抗心故に後宮に留まっているだけ、そんな気がしますの』

『『『『成程』』』』



なにかと腹持ちならないライバルが選定に留まるのなら自分だって。

確証あってのことではないけれど。
そういう理由であるならば、
あまり深く考える必要もないのでは?と告げると、皆が納得の頷きを返してくれた。


『ウリミヤ・ジョルダンの場合は、
ニーナ・ヨークデンを辞退に持っていけばなんとでもなりそうだな。
そうすると残すは……』

『セルレーン……ヴィーダ伯爵家の嬢ちゃんか』

『彼女については何かあるか』


ルードの問いにしかし、
シェイラを含めた女性陣は緩く首を横に振った。


『彼女は……何故残ったのでしょう?
選定に呼ばれた際に白磁宮ここで一度顔を合わせましたけど。
選定に意欲的な感じでも、押しが強そうな感じでもありませんでしたわ』

『ルミエスの言葉を信じるなら私も疑問です。
ヴィーダ伯爵家はワインの名産地という以外は、
あまり突出したもののない領地を抱えた家ですし。
確かその当主であり彼女の父親にしても
かつて皇宮に参じた折にお見かけしたところ、
あまり出世欲が強い御仁ではなかったと記憶しております』

『ルミエス様とモリーの言う通り、
私も彼女に関してはあまり知ることが出来ませんでしたわ。
ずっとお部屋にお籠りになられてましたし……』

『それにこう言ってはなんですが、
お顔立ちもひどく地味………実に素朴でしたし…(ぶっちゃけ好みじゃない)』


『ブハッっ!!』


『『『ルミエス(様)……』


最後に自身の好みをあけすけに語って会話を締めたルミエス様に、
ガドが吹き出して笑い、シェイラを含めた三人が呆れて脱力する。
だがルミエス様の示唆した通り、
100人もの令嬢方の中にあって特に印象の薄い女性であるのは間違いなく。
本当に何故選定に留まっているのかは疑問に思うところではある。


『……彼女に関しては保留としよう。
何分情報が少なすぎる』

『人数も少なくなった事だし、いっそ交流会、やってみたらどうだ?』

『私もガルディアス様の案に賛成致しますわ。
会ってみないことには彼女の為人も分かりませんし』

『陛下、私もそれがよろしいかと』

『私も一度お会いしてみたいですわね……』


『なら』


皆が交流会の開催に賛成の意を示したところで、
ルードがニヤリと笑んだ。


『交流会を開こう。
そしてそこで……シェイラのお披露目といこうではないか』

『へ?』


『おお!そりゃあいいな!』

『ご名案です陛下(やっとですか、遅すぎますよ)』

『うふふ……!
他の令嬢方にシェイラ様の女性としての格の違いを見せつける……。
タイミングとしてはうってつけですわ』

『あ、あの、ルー……陛下?』

『俺の隣に立つのだろう?』

ならば存分に見せつけてやろう
そう言って笑うルードに顔を赤くしながら、
シェイラは小さくコクンと頷いて気合いを入れ直した。



ーこうして、選定に留まった令嬢達との交流会の開催が決定したのだった。


余談ではあるが、
交流会に参加とあってシェイラを着飾ることに目を輝かせた侍女と(変態)令嬢がいたことに終始気付かなかったシェイラは後日、
二人+他侍女二名に怒濤の着せ替え合戦&磨き上げを強要されることになったのである。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※長くなりましたが、秘密のお茶会はこれにて終了です!
いよいよ後宮へ留まった五人の名前が出てきました。
果たして交流会は………
次回は一話か二話、閑話を挟みたいと思います(*´꒳`*)
お楽しみに~♪
しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...