出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第二章  帝国編

第14話  消える侍女の噂①

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その噂は突如として後宮を駆け巡った。


“夜な夜な死んだ侍女が、後宮内を彷徨っているらしい”

誰が語り出したかも分からない。
根拠の無い、どこにでもある怪談話の煽り文句。
噂が出始めた時には皆その程度の認識だった。
しかしこの話には続きがあった。


“先帝の側妃からその美貌を妬まれ、無実の罪で処刑された哀れな侍女が、
怨みと道連れを求めて彷徨っている。
出会ってしまったが最後、
その人間ものだ”……と。

………………………………………………………………………………



事の始まりはそうー…
何を馬鹿なと囀っていた女官の一人が翌日姿を消したことだ。

侍女や女官がきつい職務から逃げ出すことなどままある事。
常であれば『また脱落者が出たか』と嘲る他の女官達も、
噂について話していた翌日にその女官が姿を消したとあって、肩を震わせた。

他の先輩女官達や令嬢達の侍女に話したところで相手にされず、
言い知れぬ恐怖に駆られた一部の女官達。
消えた女官と噂を語っていた女官達数人だ。
恐怖に震えながら
何かの間違いだ、所詮噂だと自分達を奮え立たせていた彼女達の一人が。

翌朝、消えた。

後宮に人が出入り・滞在するようになってまだほんの数日。
その数日という短い期間で、二人の人間が姿を消したのだ。

当初噂を全く信じていなかった先輩女官や令嬢達の侍女も、
噂を信じ始めた。

中には先帝時代より白磁宮で侍女を務めていた女官もいて、
そのように死んだ侍女はいないと言い張っていたものの、
噂というのは一度広まれば中々消えぬもの。

ましてや実際に人がいなくなっていることからも、次は我が身かと
震えながら職務に励む女官や侍女達。

令嬢達は、自分は女官や侍女ではないから安心だと
これまた根拠の無い安堵を口にしていたが。
そんな中、三人目が消えた。

消えたのは侍女でも女官でもなく令嬢。
それもー…


ルミエス・クラン・エヴァンス

エヴァンス公爵家の才女であった。

………………………………………………………………………………

後宮内に激震が走った。

女官でも侍女でもない、高貴な身分の令嬢。
それも公爵家の一人娘が消えたとあって、
令嬢達までもが恐怖心を露呈した。
彼女付きの高慢な年嵩の侍女は半狂乱になりながら探し回り、
公爵家と連絡を取ると告げて以来戻ってきてはいない。

彼女が消えたことはすぐさま白磁宮へと報告されたが、
その後公爵家からも、白磁宮からも彼女の行方を知らせる言葉はなく。

やがてが言い出した。

“この後宮にいる全ての人間がいなくなるまで、
亡霊は止まらないのでは?”と。


そんな折、皇帝陛下から、この度の婚約者選定に於いて、
辞退を望む者は申し出があり次第、家への帰宅を許すとの触れが出た。

これまで後宮に呼ばれたものの、
選定に消極的且つ噂に震えていた令嬢達はそれに飛びついた!
一人、また一人と後宮を後にしていく令嬢達を見るうちに、
選定に意欲的であった令嬢の中からも辞退を望む者が増えていった。


そうして人は減っていき、
100人を数えた令嬢は、最終的に五人を残すだけに。
世話をする令嬢が減ったことでこれ幸いと女官の職を辞した者、
配置願いを申し出て後宮を去った女官もいて、
後宮は元の人のいない閑散とした姿を取り戻していった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※続きます。
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