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第二章 帝国編
第12話 騒がしい犬①
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ー白磁宮内・執務室ー
side:ルード
『それで?目通りを願う使いに色良い返事が貰えなかったからと
この部屋へと押しかけてきたというのか、お二人共?』
デスクの上の書類から目を離すことなく、執務室への突然の訪問者に声をかける。
ガドとの話し合い(?)のあった翌日、朝から執務室で政務に励んでいたルードの元へ、
突如として現れた二人の令嬢。
文官達の制止を振り切って強引に部屋へと踏み込んできた二人に、僅かに眉を顰めるに止めたまま、そのまま政務を再開する。
そも、“待て”も出来ないこのような不敬な訪問者に礼を尽くして応対するといった無駄な気遣いは、ルードとて持ち合わせてはいないのだ。
二人が入ってきた瞬間にちらと確認した顔を、脳内再生して身元を照会する。
(確か、あの金巻き髪の気の強そうな令嬢は
カサンドラ・クラン・レーギル公爵令嬢、だったか。
何度か夜会などでしつこく声をかけられたことがあったな……。
もう一人は……………誰だ?)
明らかに邪魔だと示唆している俺の言葉と態度が見聞きできていないのか、
それとも自分達が邪険にされることなどないという根拠の無い自信の表れか。
場違いな空気感をまるっと無視してキャンキャンと囃し立てる様子は、酷く滑稽だ。
(成程、これはモリーの言う通り“駄犬”だな)
機密書類も扱う執務室への許可のない乱入
この帝国の頂点に立つ皇帝の前に強引に目通り、
同じく許可なく勝手に発言をし続ける
どちらにしても不敬に当たる行為であり、それ以前に常識がない。
内一人は公爵家と高位の貴族であるにも関わらず、礼儀もまるでなってない。
もう一人は、身なりからしておそらく貴族ではあるものの、
ゴテゴテとした装飾品とリボンの多さばかりが目につくドレス、わざとらしく瞬きをして媚を見せる視線全てに嫌悪感を覚える。
姿形だけでいえば美人や可愛らしいと形容できそうなのに、
どうしてこうも知性も品もないのか。
思わずそれぞれの親に対して苦言を呈したくなってしまったのも無理からぬことだろう。
こちらが明確な拒絶や不敬に対しての非難の言葉を発しないのをいいことに、
尚も二人の自己主張は続く。
『陛下におかれましてはこの度の婚約者選定、
どなたか意中のお方はいらっしゃいましたか?
私であれば家柄も公爵家ですし、今までにも夜会などでご一緒させていただいたこともあります。
選んで頂ければ決して後悔はさせませんわ!!』
『………(後悔しないどころかし通しだろう。そもそもお前に興味は欠片ほどもない)。』
『そんな、家柄も大事かもしれませんがそれが全てではないと思いますぅ。
大事なのはぁ、陛下をどれほど愛しているかですわぁ!
その点私は陛下一筋、生涯愛し続けることをお約束しますぅ!!』
『………(しなを作るな語尾も伸ばすな気持ち悪い!
そもそもお前は誰だ、名乗られた覚えすらないぞ…。
愛が重要だというのは一理あるが、俺はシェイラ以外の女からの愛はいらん!)。』
『あらレミル・ラクレス貴女……私の言葉を否定なさるのかしら?
ああ……そういえば貴女は家が貧乏な男爵家ですもの、家柄云々と言ってしまえば恥ずかしくて陛下の前に立てないからそのような物言いをするのではなくて?!』
『!!!
……ああ~。
カサンドラさんは家柄しか誇れるものがないと……
御可哀想にぃ……ご自分に自信がないのですねぇ?
でもでもそんなことでは正皇妃の座は遠いんじゃないですかぁ?』
『何ですって!!?』
『何よ!!』
(………仕事に集中できん………)
こうも煩くされては無視をしていても対話してもあまり変わらない、
と小さくため息をつき顔を上げると。
部屋の入り口にガドの姿を見つけて僅かに口角を上げる。
ガドが帰還してから初めて騎士団の方へ顔を出しに行っていた為に(うっかり忘れがちだが、騎士団長も兼務しているんだった)、今回二人の部屋への侵入を許したといっても過言ではない。
ただの護衛騎士では正直、公爵家の令嬢を無碍に扱うことなど出来ないからだ。
精々が丁重に言葉で訪問・入室は無理であると注進することぐらいか。
まぁ常識があれば、そう言われた時点で諦めるものだが。
やれやれ、これで仕事に集中出来ると密かに胸を撫で下ろす。
令嬢達の後ろで軽く手を振り合図してくるガドに小さく頷くと、
椅子から立ち、姦しい令嬢達に向き直ってにっこりと社交辞令的な笑みを浮かべる。
『『あ……(素敵)』』
ぽぉー…と自分の顔に見入る二人を心底煩わしく思いながらも声をかける。
『レーギル嬢、それと…確かラクレス嬢、といったかな?
正確な名前を伺っていないので間違っていたら許してほしい(名乗られてないんでな)。
お話を伺いたいのは山々だが、生憎と多忙の身でな。
今日のところはお引き取りを願いたいのだが』
『あら陛下、レーギルだなんて!家名ではなく是非ともカサンドラと。
名前でお呼びくださいな!!』
『私もレミルとお呼びください陛下ぁ!
あとぉ、邪魔にならないよう気を付けますからぁ、大丈夫ですよぉ~』
『(呼んでたまるか、そして現在進行形で邪魔だ)
申し訳ないが、日を改めてもらえるだろうか。
ここは政務を行う場であって話に興じるには不向きであるし、
第一、
ー…令嬢方個人と会うことに了承した覚えはない』
『『!!!』』
『……特別に後宮まで俺の近衛に送らせよう。
今日は帰って』
『『納得いきません(わ)!!』』
『………は?』
……どうやら俺は、まだ政務に復帰できないようだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※次回に続きます!
side:ルード
『それで?目通りを願う使いに色良い返事が貰えなかったからと
この部屋へと押しかけてきたというのか、お二人共?』
デスクの上の書類から目を離すことなく、執務室への突然の訪問者に声をかける。
ガドとの話し合い(?)のあった翌日、朝から執務室で政務に励んでいたルードの元へ、
突如として現れた二人の令嬢。
文官達の制止を振り切って強引に部屋へと踏み込んできた二人に、僅かに眉を顰めるに止めたまま、そのまま政務を再開する。
そも、“待て”も出来ないこのような不敬な訪問者に礼を尽くして応対するといった無駄な気遣いは、ルードとて持ち合わせてはいないのだ。
二人が入ってきた瞬間にちらと確認した顔を、脳内再生して身元を照会する。
(確か、あの金巻き髪の気の強そうな令嬢は
カサンドラ・クラン・レーギル公爵令嬢、だったか。
何度か夜会などでしつこく声をかけられたことがあったな……。
もう一人は……………誰だ?)
明らかに邪魔だと示唆している俺の言葉と態度が見聞きできていないのか、
それとも自分達が邪険にされることなどないという根拠の無い自信の表れか。
場違いな空気感をまるっと無視してキャンキャンと囃し立てる様子は、酷く滑稽だ。
(成程、これはモリーの言う通り“駄犬”だな)
機密書類も扱う執務室への許可のない乱入
この帝国の頂点に立つ皇帝の前に強引に目通り、
同じく許可なく勝手に発言をし続ける
どちらにしても不敬に当たる行為であり、それ以前に常識がない。
内一人は公爵家と高位の貴族であるにも関わらず、礼儀もまるでなってない。
もう一人は、身なりからしておそらく貴族ではあるものの、
ゴテゴテとした装飾品とリボンの多さばかりが目につくドレス、わざとらしく瞬きをして媚を見せる視線全てに嫌悪感を覚える。
姿形だけでいえば美人や可愛らしいと形容できそうなのに、
どうしてこうも知性も品もないのか。
思わずそれぞれの親に対して苦言を呈したくなってしまったのも無理からぬことだろう。
こちらが明確な拒絶や不敬に対しての非難の言葉を発しないのをいいことに、
尚も二人の自己主張は続く。
『陛下におかれましてはこの度の婚約者選定、
どなたか意中のお方はいらっしゃいましたか?
私であれば家柄も公爵家ですし、今までにも夜会などでご一緒させていただいたこともあります。
選んで頂ければ決して後悔はさせませんわ!!』
『………(後悔しないどころかし通しだろう。そもそもお前に興味は欠片ほどもない)。』
『そんな、家柄も大事かもしれませんがそれが全てではないと思いますぅ。
大事なのはぁ、陛下をどれほど愛しているかですわぁ!
その点私は陛下一筋、生涯愛し続けることをお約束しますぅ!!』
『………(しなを作るな語尾も伸ばすな気持ち悪い!
そもそもお前は誰だ、名乗られた覚えすらないぞ…。
愛が重要だというのは一理あるが、俺はシェイラ以外の女からの愛はいらん!)。』
『あらレミル・ラクレス貴女……私の言葉を否定なさるのかしら?
ああ……そういえば貴女は家が貧乏な男爵家ですもの、家柄云々と言ってしまえば恥ずかしくて陛下の前に立てないからそのような物言いをするのではなくて?!』
『!!!
……ああ~。
カサンドラさんは家柄しか誇れるものがないと……
御可哀想にぃ……ご自分に自信がないのですねぇ?
でもでもそんなことでは正皇妃の座は遠いんじゃないですかぁ?』
『何ですって!!?』
『何よ!!』
(………仕事に集中できん………)
こうも煩くされては無視をしていても対話してもあまり変わらない、
と小さくため息をつき顔を上げると。
部屋の入り口にガドの姿を見つけて僅かに口角を上げる。
ガドが帰還してから初めて騎士団の方へ顔を出しに行っていた為に(うっかり忘れがちだが、騎士団長も兼務しているんだった)、今回二人の部屋への侵入を許したといっても過言ではない。
ただの護衛騎士では正直、公爵家の令嬢を無碍に扱うことなど出来ないからだ。
精々が丁重に言葉で訪問・入室は無理であると注進することぐらいか。
まぁ常識があれば、そう言われた時点で諦めるものだが。
やれやれ、これで仕事に集中出来ると密かに胸を撫で下ろす。
令嬢達の後ろで軽く手を振り合図してくるガドに小さく頷くと、
椅子から立ち、姦しい令嬢達に向き直ってにっこりと社交辞令的な笑みを浮かべる。
『『あ……(素敵)』』
ぽぉー…と自分の顔に見入る二人を心底煩わしく思いながらも声をかける。
『レーギル嬢、それと…確かラクレス嬢、といったかな?
正確な名前を伺っていないので間違っていたら許してほしい(名乗られてないんでな)。
お話を伺いたいのは山々だが、生憎と多忙の身でな。
今日のところはお引き取りを願いたいのだが』
『あら陛下、レーギルだなんて!家名ではなく是非ともカサンドラと。
名前でお呼びくださいな!!』
『私もレミルとお呼びください陛下ぁ!
あとぉ、邪魔にならないよう気を付けますからぁ、大丈夫ですよぉ~』
『(呼んでたまるか、そして現在進行形で邪魔だ)
申し訳ないが、日を改めてもらえるだろうか。
ここは政務を行う場であって話に興じるには不向きであるし、
第一、
ー…令嬢方個人と会うことに了承した覚えはない』
『『!!!』』
『……特別に後宮まで俺の近衛に送らせよう。
今日は帰って』
『『納得いきません(わ)!!』』
『………は?』
……どうやら俺は、まだ政務に復帰できないようだ。
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※次回に続きます!
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