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第二章 帝国編
第3話 皇帝陛下の嘆き
しおりを挟む『ル、ル、ルード!?だだだだからといっていきなりこれは……!!』
『ん?なんか問題あるか?』
『問題大アリです!!』
そうか?と小首を傾げる麗しの皇帝に、わけもなく喚き散らしたい気分に駆られたシェイラだったが、場所が場所だけに必死で堪える。
現在シェイラがその身を置くは白磁宮ないの皇帝の私室。
つまりはルードが寝起きする自室である。
さて、何故に突然この場に場所を移しているかといえば、
後宮まで私を護衛して戻るはずだったガドがいつまで経っても戻らなかったことに業を煮やしたルードがその足で自室を抜け出してシェイラ達の元までやってきたのが発端。
中に入ることなく外で話す私達に事情を聞くや、物凄い渋面を浮かべた。
やがてかなりの人数がやってくる気配を感じとると、
ちっと舌打ちをしてシェイラ達(ザムアを除く)を連れ、来た道とは別のルートから白磁宮内へと戻った。
誰ともすれ違うことなく進んだ先にあったのがこの部屋だ。
そうして部屋の中にシェイラを強引に引っ張り込むと、
“今日からここで暮らすといい”
などと宣ったのだった。
(つつつつまりは、ど、ど、同棲!!!)
シェイラが動揺するのも致し方がない。
生まれてこの方シェイラの身近にいたことのある男というのは父だけであり、その父ともつい先日までほとんど顔を合わせてはいなかったんだ。
道中ガドや護衛の騎士達と接することで多少慣れはしたものの、
好きな相手の部屋に突然上がり込み、
挙句そこでそのままともに寝起きして生活しろといきなり言われて
わかりました!!と笑顔で色良い返事を即座に返せるほど男慣れしていない。
ガドは扉の向こうで護衛の任についているし、モリーはお茶の支度をしに席を外している。
誰も突っ込む者のいない二人きりのこの場でどうやって寛げと……と赤く頬を染めたままうろうろと落ち着きなく広い室内を歩き回る。
対するルードはといえば涼しい顔でゆったりと椅子に座りモリーのお茶を待っている始末。
少しばかり恨みがましく思ってしまったのは許してほしい。
やがてモリーがお茶を用意し終えるや
座るよう促されてようやくシェイラも椅子へと腰を下ろす。
香り高い紅茶の香りがカップからふわりと漂い、暖かい液体が喉を潤して初めてホッと息をついた。
『ルード、先程の申し出はほ、本気なのですか?』
『ああ本気も本気だシェイラ。
この俺が、お前を、カリス帝国まで連れて来たんだぞ?
今更帝都の宿屋に追いやる気はないし、側から離す気もない。
その上予定していた後宮入りが出来ない現状を鑑みればここにいるのが1番、寧ろここ一択だな!
……あの人がああいう手を使ってくるのなら、こちらもこうするだけさ』
『ー…あの人?』
『…ん、ああ。
慌ただしくここまで来たからシェイラにはいってなかったな。
今回皇宮が満室になるなんて異常事態を引き起こしてくれたのは、
俺の厄介極まる母親…先帝の正皇妃なんだよ。
今まで俺が婚約者も決めずにいたのにはこの母親が原因でなぁ……。
次から次へと厄介事を引き起こしてくれる、誠に困った母なんだ』
『そう、なのですか?』
『残念ながらな。
そんな母から勧められた女なんぞを婚約者にしてみろ、
絶対に更なる厄介事を抱え込むに決まっている!
そう考えて今までのらりくらりと縁談を交わし続けて、
今回シェイラを連れてくる事が出来た自分を褒めてやりたいくらいだというのに。
支度が整い次第紹介しようと考えて帰還すれば宮に入った瞬間に
数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの人数の女達が出迎えて来て。
その上仁王立ちした母親に笑顔でいきなり
“お前の嫁候補だ!選り取り見取りだからこの中から好みの者を選べ!!”
などと………。
そうして止めとばかりに俺に許可なく、女達の後宮への滞在を許すとは、
呆れてものも言えんとはこの事だな』
『そう、ですか……随分とその、豪胆な方なのですね』
『それに今回集められた女性達は皆この国の貴族や大商家の令嬢ばかり。
ただの滞在とはいえ、一旦後宮入りを許した以上、簡単には出ていかないし追い出せない。
無碍に扱えないうえに、少しでも気安く振る舞えば
我こそが婚約者!!と高らかに宣言しそうな猛者達ばかり……。
そんな女達がひしめき合う後宮へ無理にシェイラの存在を投入すればどうなるか……。
魔窟に子羊を放り込むようなもの。
要するに格好の的となり、早々に排除されかねん!』
(…どうやら想像以上に大変なことになりましたわね)
はぁぁぁー…。
ルードが疲れ果てたようなため息をついたのを見て、
シェイラは想定外の事態に乾いた笑みを浮かべた。
そもそも他国のぽっと出の伯爵令嬢如きが、すんなりと大国である帝国の皇帝の相手として認められるとはシェイラとて流石に思ってはいなかった。
帝国には帝国の貴族・皇族の繋がりがあることは明白で、尚且つ若き皇帝陛下は誰もが認める美丈夫。
帝国民はおろか他国の女性からも人気が高いと、事前にモリー達から聞いてはいたのだ。
それでも、全身全霊で相対しようと覚悟していたのだが、まさか。
(ルードの豪胆なお母様に、100人の令嬢達ですか……流石に)
これは相当骨が折れそうだと独りごちながら紅茶に口をつけていると、
ルードがこちらを伺っていることに気付く。
その様子はどこか気まずげで、へにょりと眉をさげてこちらを見ている。
『?ルード?』
『………れただろう?』
『え?』
『だから、呆れただろう、と。
“身一つでついてこい”などと言って強引にここまで連れて来た癖に、
早々こんな面倒ごとに巻き込んだり……。
先ほどから考え込んでいる様子で、もしや呆れ果てて愛想を尽かされたのかと』
『それ以上言ったら怒りますわよ』
え?と目を見開くルードを、シェイラにしては珍しく剣呑な眼差しを向けた。
『私がなんの覚悟もなく、ただ貴方に言われるがままここに来たと。
そう言われているようで誠に心外ですわ。
私は私の持ちうる全ての術を使ってでも貴方の隣に立ち続けることを己に誓ってここまできたのです。
…あまり見くびらないで下さいましな』
『っ悪い、そんなつもりは』
『なかったのならどうか、そんな情けない顔をしないでください!
はぁ………でもそうですね。
お話を伺う限りでは貴方のご両親への挨拶は、そのご令嬢達をなんとかしない限りは難しそうですわ。
となれば、早急にやらなければいかないことは一つですわ』
勿論、協力してくれますわね?
にっこりとそう告げると、目の前の麗しき皇帝は笑顔を取り戻したのだった。
さて
お集まり頂いた皆様の大半には早々にご退場頂きましょうか!!
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