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第一章 出会い編
第58.5話 夢の中で
しおりを挟む上体を起こしてもらい、立てかけたクッションに寄りかかりながら驚きに硬直する。
(5日……5日も!!?私ったらどれだけ寝坊助なんですの!!)
大夜会の晩から今日まで全く起きなかったと聞かされ、寧ろいつもより身体が軽いような……と呑気に構えてみたが。周りの者にとっては寝坊助などといった平和な心持ちではなかったようで……。
「大夜会の翌日、朝食を共にと誘いに来れば、侍女達からお前がまだ寝ていると言われて…きっと慣れないこと続きで疲れているからとその時はそのままにしたが。
流石に夕方になっても起きないと侍女から心配の声が上がり、見に来れば本当に眠ったままで、揺さぶろうが声をかけようがまるで起きる兆しのないお前をこの数日側で見続けて……どれだけ心配したと思ってる!!?」
『そうですわシェイラ様!!
お医師の方に何度も見てもらいましたのにただ寝ているだけだと聞かされて…!
もしや何かの呪いではと!!』
「っシェイラ!……私は、お前を失くしてしまうのかと……」
「嬢ちゃん、流石に寝すぎだぜ?俺も寝坊は嫌いじゃないが、5日は長すぎる。
もう少し早く起きてくれ。
じゃないと何処ぞの皇帝様と宰相様がポンコツになるんでな」
「……大変御心配をかけてしまい、申し訳ございませんわ。
お父様も、もう泣かないで下さい」
皆に心配され、特に泣き出してしまった父を宥めながらも自身に異常を感じられないために苦笑する他にないシェイラはさてと原因について考えを巡らせる。
ルードは未だ心配した面持ちで原因に心当たりはないかと聞いてくる。
「寝る前に変なものを食べたとか、変な呪文を聞いたとか。
なんでもいい、いつもと違うことはないか?」
「…いつもと違うこと……うーん、……あ」
「「『「何かあるん(だな)ですね!!!」』」」
「いつもより長い夢を見ました」
「「『「……夢……」』」」
がくりと脱力する周囲に申し訳なく思いながらも
それしかいつもとの違いに心当たりなどないのだから仕方がない。
「……あー、なんだ。
嬢ちゃんは起きたし、身体にも不調はない。
ただ夢を見ただけだというのなら特に問題はないだろ!
いつまでも女の部屋に大人数で屯してどうすんだよ、はい散った散ったぁ!!
……お前もだよクソが……皇帝様!!」
「いや俺はまだここに」
「付き添いなら父親で十分だろうが!駄々捏ねてねぇで行・く・ぞ!!
……ロイドの旦那も程々にな」
ぎゃあぎゃあと騒がしく立ち去るルード達と静かに部屋を辞す侍女達を目で見送り、未だベッドの端で項垂れる父へと声をかけた。
「お父様」
「……本当に問題はないのですね?我慢してなどいませんね?」
「本当に、全くもって問題ございませんわお父様」
だから安心してくださいと囁けば、ようやく肩の力を抜いた父がへにょりと眉を下げて笑った。
「…それなら、いいです。
それにしてもシェイラがこれほどの寝坊助とは、私も知りませんでしたよ?」
「っもう、お父様ったら!
いつもこんなに寝ているわけないではありませんか!?」
「ふふ、顔を赤くして怒るだなんて、まだまだ小さい子供のようですねぇ。
そんなに長く眠れるほど、どんな夢を見ていたのですか?」
「もう!!……夢の内容ですか?
そうですね、幼い頃の……お母様と森の友人と約束についてですとか」
「え。」
「ええ。私がお父様に『森は怖いところだから行っては駄目』と言われたことをお母様に話すと、あそこにはお母様の優しい友達が住んでいて、何か約束をしたからいずれお父様と三人で会いに行こう。そんな会話をしたことがありまして、それが夢に出てきたのです」
「そ、そうですか。友人、ね」
「ああ、それと。…一人で森へ行ってたときに森の中で会ったおーちゃん様のこととか」
「おー…ちゃん……」
「面白い名前ですわよね?
私失礼にも森で出会ったその方を不審者扱いしてしまいまして。
しかも正しく名を発音しなかったためか、おーちゃん様は怒って私の額を叩いてどこかへ行ってしまいました。
顔も思い出せないのに会話は鮮明で……不思議ですよね」
「…ははは(娘も精霊王と出会……おーちゃん呼び…)」
(あら、せっかく笑顔に戻ったと思いましたのに。
お父様ったら固まってしまいましたわ……どうしたのでしょう?)
「それにしてもお母様がご友人としていた約束とは一体……。
おーちゃん様も去り際に“約束は果たした”などと言ってましたし…お父様はお母様から何か聞いていらっしゃいませんか?」
「いえ?特に聞いてませんね(知っていることを説明するとなれば先日の森での件も話さなければなりませんし、エリーのことも…。やはりとぼける一択ですね)」
「?(なんか今お父様から副音声が聞こえたような…気のせい?)そうなのですか。
それにしても不思議な夢をみるものですわ。それに5日もなんて。
皆さんにご迷惑をかけてしまいましたわ」
「もう忘れなさいシェイラ。きっと色々と疲れが溜まっていたのです、たまには寝坊もいいものですよ?」
「ふふっそうですわね!
心なしかいつもより身体も軽くて頭もすっきりとしていますもの!!
もう朝ですし私も身支度を整えますわ、お父様」
「ああ、そうするといいですよ。
今日はシェイラの方から陛下を朝食に誘ってみてはどうですか?
きっとベルナード陛下も御喜びになると思います」
「!!(いつの間にかルードとお父様が仲良く?一緒に朝食を摂ることを勧めるなんて!)
そ、そうですわね!そうしてみますわ」
(これ見よがしな夢に、軽くなった身体、ねぇ)
おそらくはシェイラの昏睡が自分の行動に起因したものかもしれないロイドは、侍女を呼んでうきうきと支度を始めた娘の様子を一瞥して退出し、そぅっとため息をついた。
窓の外に輝く朝日を見て、自身も仕事に励むべく支度を整えに部屋へと向かうのだった。
周囲の心配を余所に
もう一人の眠り姫は目覚め、今日もまた平穏なる日常が始まる。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※シェイラとその他の
“少し奇妙で不思議な出来事とそれでも変わらない日常”な回でした!!
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