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第一章 出会い編
エピローグ
しおりを挟む「帝国へ?」
「ああ。シェイラには俺とともに帝国へ来てもらいたい」
長い眠りから目覚めた翌日、父と共に部屋へと呼び出されたシェイラは、ルードから開口一番に帝国行きを打診された。打診、というよりまたもや決定事項のように告げられたその内容に戸惑う暇もなく言葉は続く。
「本当は大夜会が終わって暫く王都巡りでもと思っていたんだが時間がなくてな。
明日にはここを発たねばならん。勿論シェイラ、お前も一緒にだ」
「ちょ、ちょっとお待ち下さいルー…陛下!
突然の申し出で」
「突然でもないだろう?
……俺はお前をこの先手放すつもりは毛頭ない。
身支度のことを気にしているなら心配は要らないぞ、着の身着のまま、その身ひとつで俺と一緒に向かってくれればそれでいいのだから。
既にモリー達にも支度させている」
「…ですが、その」
大夜会に出席する際にも彼、ルードと運命を共にする決意はした。
一緒に彼の故郷へと向かうことができるのも素直に嬉しい。嬉しいのだが……。
ちらりと横に立つ父を見る。
今日も今日とて隙のない佇まいで立つ父の表情は一見すると変わらない。しかしルードの突然の申し出(命令?)に対して、眼鏡の奥で眇められた眼差しが怒りを湛えたものなのか判別できないシェイラは、ちらちらと様子を伺う他はない。
自分に執着を見せるルードに対してあれだけ好戦的な態度をとっていた父のこと。当然降って湧いた帝国行きにも反対するやもと心配していると、予想外にもあっさりと許可する言葉が室内に響いた。
「いいのではないですか」
「え?」
「……ほう?」
呆気からんと告げられたそれにシェイラは目を白黒させ、ルードは深蒼の瞳を眇める。
「娘の旅立ちに随分と物分かりの良いことだな、宰相殿(どういう風の吹き回しだ)?」
「おや、皇帝陛下におかれましては異なことを仰る(最初から譲る気などないくせに)。
私はただ純粋に娘の巣立ちを応援したつもりなのですが…
まさかご不満でも(あるなんて言いませんよね勿論)?」
「ははは、まさか(あるわけないだろう)!!
宰相殿が理解のある御仁で感心したのだよ(なんか企んでないだろうな……?)」
「そうでしたか、それは光栄ですな
(腹黒の誰かさんと違って終始なにかを企んでいるわけないだろう)。
……シェイラ」
「は、はい!!」
突然名前を呼ばれて上擦った声を上げてしまった。
「貴女は聡い子だ。
大夜会で皇帝陛下の隣に立ったことの意味を充分に理解し、覚悟もある。
そうでしょう?」
「…はい」
「だったらもう、父としてとやかくいうことは何もありませんよ。
貴女は貴女の人生を、己が決めた人と歩みなさい。
……まぁ、折角再会できたのにすぐにいなくなってしまうというのは……寂しいものですが」
「…っお父様っ!!!」
ふぅ……と陰りのあるため息を吐きながらも無理に笑う父に堪らなくなり、シェイラは父の胸に飛び込んだ。
「おや、仕方のない娘ですねぇ…。
ほら、旅立ちに涙は似合いませんよ?」
「っいいのです今くらい!!これから離れてしまうのですから……っ
貴方の娘は今くらい甘える権利があるのですわ!!」
感動と突如湧いた寂しさにポロポロと涙をこぼしながら父の胸に縋り付くシェイラは知らない。
彼女を優しく抱きしめ返して頭をポンポンする傍ら、
かの皇帝陛下に向けてフッ…と父がドヤ顔を決めていたことを。
それを見て皇帝様が鬼神の如き顔をしていたことを。故に勿論ー…
(貴様このクソ宰相め!!なんだそのドヤ顔は~ッッ!!
直ちに離れろ!!ポンポンすんな!!)
(ふん。私もこれ以上娘を失望させたくないのでな。
最後くらい娘の門出を快よく送り出して感動の抱擁を得る。
これくらいの役得なくして貴様のような輩に娘を預けられるか小僧)
(もう充分だろう!?)
(寧ろ足りないくらいだ)
視線と表情だけで男達の醜い攻防がなされていたことにも、シェイラはついぞ気付きはしなかった。
(お父様……お母様。
私、お二人の娘として、
そして彼の隣人として恥ずかしくないよう立派な淑女となってみせますわ!
二度と誰にも『出涸らし令嬢』などと呼ばせません!!)
一部黒い空気が流れた以外、侍女達が生暖かく見守る中、こうしてシェイラの嫁入りならぬ帝国行きが決定したのであった。
ー【第一章 出会い編】完 ー
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※これにて第一章完結です!
第二章に移行する前に閑話や登場人物紹介が入りますが、
そのまま第二章【帝国編】も続けて更新していく予定です(`_´)ゞ
今まで読んでくださった皆様、コメントを寄せて下さった皆様に感謝っす!!
今後も引き続き、お楽しみに~(*´꒳`*)
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