出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

閑話  眠り姫を抱くは騎士かそれとも①

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※ロイド回。地下牢から立ち去った後のお話です。

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(……早く…早く……!!)

国王に急事により留守にすることを告げて城を出ると
馬舎から軍馬を特別に借り受け、私は領地へと駆け急ぐ。
頭の中には先程のケインの言葉が木霊し続けて湧き上がる焦燥に身を焦がしながら馬を走らせる。

『…あの薬で彼女は解放され、て、から救い出し、
今も変わらぬ姿で、俺の帰り、を、待っているんだぁ……
領地の、端にある俺達、二人の屋敷で、この9年ずぅっと愛し合ってきたんだから……』


正気を取り戻した時にケインが狂っていることも、自分の亡き妻に執着しているだろうこともわかっていた筈なのに、何故ここに至るまでに私は。

(何も見えていないにも程がある!!)

妻が殺されたことに気づかず、娘の苦しみに気づかず、終いには……最愛の妻の墓を暴かれていたことにすら気付いてはいなかったのだ。
どこまで愚鈍に過ぎる男なのだろう、と自身を罵ってみても今更変わることのない現実に心が折れそうになりながら、それでも。
せめて娘に知られることなく、彼女を正しく眠らせてあげなくては。
その一心でただひたすらに今はまだ領地でもある故郷へと急ぐ。

自分の気持ちを察してくれたのか、2日はかかるだろうと思っていた領地までの道のりは1日へと短縮され、流石は軍馬だと馬の首を撫でる。夜も遅く、あたりが暗闇に包まれる中を構わず進み、領地の端にある一軒の屋敷へとたどり着く。
調査の報告書に記載されていた奴の根城と思わしき場所、それがこの簡素な屋敷だ。
屋敷の周りには何もなく、ただ木々の葉なりの音が風が吹く度にザザ……と響くだけの寂れた風景。
明かりのない主人不在の屋敷は、閑寂とした風情も相まって何かが出そうな不気味さを漂わせていたが、今の自分にそんなことを気にする余裕はない。

扉を強引に蹴り開けて屋敷へと入った私は階段を駆け上り、複数ある部屋を蹴り開けていく。折しも今夜は満月、月明かりだけで明かりは事足りる。
一室を残して全て何もないことを確認し終えたところで、最後の部屋の扉を蹴破った。


「………あ、あああ……!!」

屋敷の部屋の中でも一際広いその部屋の中央に置かれた大きなベッドの上には、姿
窓から差し込む月明かりに照らされたその姿は、9年前から時が止まったかのように生前と変わらず美しい。
座した格好で目を瞑り眠る様はまるで女神のようで、今にも目を覚ましそうなほどであった。
正直、相当に痛み、あるいは白骨化した妻の遺体を目にすることを覚悟していた為に酷く驚いたが、それ以上に。

一糸纏わぬ身体
近づくにつれて目につくに。

真実、妻が9年間あの男に弄ばれてきた事実を突きつけられて、膝から力が抜けてしまった。

それでも這いずりながら妻の元へとたどり着くと、ベッドの上から彼女を引き寄せ、床の上で強く抱きしめる。
据えた臭いに混じって薬品の匂いが鼻につく。
おそらくその薬品によって彼女の姿が維持されているだろうことに理解を示す余裕もなく、眼鏡の下でボロボロと目から涙が溢れて止まらない。


「エリー……エリーシェ!!
すまなかった…っ、本当に……っ君を、こんな……ッッ!!」


眠り姫を抱きしめて、月の照らす屋敷の中には男の耐え難き慟哭が響き渡った。


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※あと2話ほど続きます。



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