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第一章 出会い編
第57話 狂人(前)
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※残酷なシーンが登場するかもなので、
不快な気分になるのがNGな方は回避して下さい。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ー城内地下2階 尋問部屋ー
『ぎゃあああああぁぁぁ!!ッッがぁっっひぎッッ……ぁぁあああーー!!』
大夜会が終わり、招待客が帰宅して城が静寂を取り戻した、深夜。
朝から忙しく働いていた侍従や城の使用人、王すら寝静まるこの夜遅く。
安らかな眠りを貪る地上とは逆に、その地下では聞くに耐えない絶叫が響き渡っていた。
城の地下、牢の存在する更に下階にある密室の一つには、全身黒尽くめの人間達に囲まれて『尋問』を受ける男が延々と与えられる苦痛にあらん限りの声を上げて喉を枯らしていた。
目は血走り涙や鼻水、開き切った口から垂れ流されるよだれで歪んだ顔と合わせてすでにぐちゃぐちゃ。密室のためか男の垂れ流した糞尿の匂いが籠り、血の匂いと交わって強烈な臭気を辺りに放っている。
そんな『尋問』と称するには些か過激にすぎる取り調べを受けて泣き叫ぶ男を、密室の扉付近で三人の男達が眺めている。
一人は大柄の男。纏う軽装とは裏腹、腰にはずっしりと重そうな剣を提げている。
一人は長い赤髪を後ろでゆったりと結んでいる眼鏡をかけた青年。
一人は銀髪に深い蒼色の瞳の男。
それぞれが異なる魅力のある美丈夫であれども、拘束された男を見据えるその眼差しは銀髪の一人を除いて険しい。
手足にはそれぞれバラバラに鎖が繋がる厚い木枠の枷を嵌められてはいるものの、すでにあらぬ方向に曲がっていたり、潰れていたり、千切れかけていたりとあまり拘束の意味をを成していない。
……訂正。右腕に関してはたった今べちゃりと枷・鎖諸共汚物に塗れた床の上に着地したところのため、千切れかけではなく千切れた、というのが正しいだろう。
次いで出血多量による死亡を防ぐために炉で熱された焼きごてが男の傷口に押し付けられる。
じゅうぅぅぅ……と肉の焼ける音と独特な臭いが更に加わり、見学する男達の眉を更に顰めさせた。
「……ヒ、ひぎっ………ふ、ふ……」
すでに痛覚が麻痺してきたのか、はたまた声が枯れ切ったのか。
小さく呻くばかりの男、ケインを見つめて赤髪の青年、ロイドが言葉を発した。
「……大した証言も証拠についても引き出せないまま死なせてしまいそうですね。
煩いだけで面白くもない」
「くく……。
気持ちはわからんでもないが、頑張っている方じゃないか?普通の小悪党程度だったら早々に何もかもペラペラ喋って死んでるところをここまで持ち堪えているんだからな」
「ただの時間の無駄とも言いますけどね。
翁とかいう闇商人も結局捕らえられなかったのでしょう?皇帝直属とはいっても所詮諜報は諜報、調査と盗み聞きが精一杯なのですね」
「ふん、言ってろ」
「……この尋問に異議を唱えたい常識人は俺だけなのか?
ルー…陛下はまだしも何で文官畑の宰相様はこの光景を平然と見ていられるのか…寧ろ不満げだし」
銀髪の男、ルードが軽口を叩き、
大柄の男、ガドが若干引き気味で二人に文句をつける。
倫理が狂った空間の中、果たしておかしいのは犯罪者か尋問官か、それとも見学者か。
おおよそ人が拷問を受けている目の前でなされる会話でないことに、突っ込む者はこの場にいない。
しかしながらその軽口に反応した者がいたー…ケインである。
「ふ、ふくく…ははは」
「……何がおかしいのでしょう?」
「ついに壊れたんじゃないか?」
怪訝な面持ちで一同が瀕死の男を見つめる中、ヒ、ヒ、とひきつり笑いをあげながら男は尚も笑う。
精神が壊れた人間の様でいて、その目は爛々と異様な光を湛えていた。
「お、俺をいくらい、痛めつけても…っ、彼女はもう貴様のところには、戻らないという、のに、こんな手間を、かけるなんてっ……ご苦労な、ことだ!ロイド・レイランド、ルフ!!く、くひ…っ」
「“彼女”?……誰のことを言ってるのです」
「……まさかシェイラのことではあるまいな」
「くく、くはは!!シェイラ?シェイラだと!?
あの様な、異物、など、どうでも良いわッ!!エリー、は、もう、おれの、ものだ。
貴様のような屑にはも、勿体ないから、9年、前に、解放してやって以来……ずっと、ずぅぅっっと!
俺が愛、愛してきたんだからなぁ、ぁぁぁ~?」
「…………何ですって?」
「おいロイド、誰なんだエリーって」
「ガド、やめろ。影から聞いた。確かエリーシェ、……亡きロイドの妻だ」
「……はぁ!!?ちょっ、は??
解放してやっただ?こいつが殺したってことが確定したのはわかるが、何だよそれ以来ずっと愛してきたって……!?」
「答えなさい、彼女が、何ですって?」
ひひひ、と目を剥く一同を嘲笑うケインに射殺しそうな視線で睨みつけて答えを迫るロイド。
その様子に更に愉快になったのか、醜悪な笑みを浮かべながら男は語り出す。
半ばうっとりと、何か違う物でも見ているかのように、視線を宙に彷徨わせながら。
「っふふ、ああ……あああ!!
可愛い可愛い、俺の、エリー…。
ずっと、ずっとずっとほしくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて堪らなかった、俺の、最愛の女神。
なのに貴様に汚されて、あまつさえ、あんな忌々しい異物、なんかをう、産むだなんて!
で、でも大丈夫……あの薬で彼女は解放され、て、箱から救い出し、今も変わらぬ姿で、俺の帰り、を、待っているんだぁ……
領地の、端にある俺達、二人の屋敷で、この9年ずぅっと愛し合ってきたんだから、もう貴様には返さんよ!!くくく……っっ」
「……箱から……。棺か!!」
「げぇ!!……こいつ墓暴きやがったのかよ!?
しかも愛し合ったって………まさか死体と」
「ッガド!!」
「……あ。」
「……………っっ」
ルードの注意で慌てて振り返ったらそこには、ー…顔面から血の気を無くし蒼白のロイドがいた。
拷問の様子を見ても全く顔色を変えなかった男が、今にも倒れそうなほどに青褪めている。
狂気に当てられ、亡き妻の遺体を嬲られたことを聞かされれば、さしもの宰相と言えど限界だった。
小さい、本当に小さい声でルードらに呟く。
「……あとは、お任せしても………?」
「………ああ。……早く見つけ出して今度こそ…眠らせてやると良い」
「気遣い、有り難く」
ルードの言葉に頭を下げると、脇目も降らずに部屋から立ち去った。
突然露呈した、吐き気を催す事実に拷問をしていた尋問官すらも言葉を失ったようでー。
静かな室内に、狂った男の歪にすぎる笑い声が暫く響き続けた。
夜はまだ、長い。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※もう1話続きますが、すんません!
誤って後編削除してしまった為、続きは明日になるかもしれません:(;゙゚'ω゚'):
不快な気分になるのがNGな方は回避して下さい。
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ー城内地下2階 尋問部屋ー
『ぎゃあああああぁぁぁ!!ッッがぁっっひぎッッ……ぁぁあああーー!!』
大夜会が終わり、招待客が帰宅して城が静寂を取り戻した、深夜。
朝から忙しく働いていた侍従や城の使用人、王すら寝静まるこの夜遅く。
安らかな眠りを貪る地上とは逆に、その地下では聞くに耐えない絶叫が響き渡っていた。
城の地下、牢の存在する更に下階にある密室の一つには、全身黒尽くめの人間達に囲まれて『尋問』を受ける男が延々と与えられる苦痛にあらん限りの声を上げて喉を枯らしていた。
目は血走り涙や鼻水、開き切った口から垂れ流されるよだれで歪んだ顔と合わせてすでにぐちゃぐちゃ。密室のためか男の垂れ流した糞尿の匂いが籠り、血の匂いと交わって強烈な臭気を辺りに放っている。
そんな『尋問』と称するには些か過激にすぎる取り調べを受けて泣き叫ぶ男を、密室の扉付近で三人の男達が眺めている。
一人は大柄の男。纏う軽装とは裏腹、腰にはずっしりと重そうな剣を提げている。
一人は長い赤髪を後ろでゆったりと結んでいる眼鏡をかけた青年。
一人は銀髪に深い蒼色の瞳の男。
それぞれが異なる魅力のある美丈夫であれども、拘束された男を見据えるその眼差しは銀髪の一人を除いて険しい。
手足にはそれぞれバラバラに鎖が繋がる厚い木枠の枷を嵌められてはいるものの、すでにあらぬ方向に曲がっていたり、潰れていたり、千切れかけていたりとあまり拘束の意味をを成していない。
……訂正。右腕に関してはたった今べちゃりと枷・鎖諸共汚物に塗れた床の上に着地したところのため、千切れかけではなく千切れた、というのが正しいだろう。
次いで出血多量による死亡を防ぐために炉で熱された焼きごてが男の傷口に押し付けられる。
じゅうぅぅぅ……と肉の焼ける音と独特な臭いが更に加わり、見学する男達の眉を更に顰めさせた。
「……ヒ、ひぎっ………ふ、ふ……」
すでに痛覚が麻痺してきたのか、はたまた声が枯れ切ったのか。
小さく呻くばかりの男、ケインを見つめて赤髪の青年、ロイドが言葉を発した。
「……大した証言も証拠についても引き出せないまま死なせてしまいそうですね。
煩いだけで面白くもない」
「くく……。
気持ちはわからんでもないが、頑張っている方じゃないか?普通の小悪党程度だったら早々に何もかもペラペラ喋って死んでるところをここまで持ち堪えているんだからな」
「ただの時間の無駄とも言いますけどね。
翁とかいう闇商人も結局捕らえられなかったのでしょう?皇帝直属とはいっても所詮諜報は諜報、調査と盗み聞きが精一杯なのですね」
「ふん、言ってろ」
「……この尋問に異議を唱えたい常識人は俺だけなのか?
ルー…陛下はまだしも何で文官畑の宰相様はこの光景を平然と見ていられるのか…寧ろ不満げだし」
銀髪の男、ルードが軽口を叩き、
大柄の男、ガドが若干引き気味で二人に文句をつける。
倫理が狂った空間の中、果たしておかしいのは犯罪者か尋問官か、それとも見学者か。
おおよそ人が拷問を受けている目の前でなされる会話でないことに、突っ込む者はこの場にいない。
しかしながらその軽口に反応した者がいたー…ケインである。
「ふ、ふくく…ははは」
「……何がおかしいのでしょう?」
「ついに壊れたんじゃないか?」
怪訝な面持ちで一同が瀕死の男を見つめる中、ヒ、ヒ、とひきつり笑いをあげながら男は尚も笑う。
精神が壊れた人間の様でいて、その目は爛々と異様な光を湛えていた。
「お、俺をいくらい、痛めつけても…っ、彼女はもう貴様のところには、戻らないという、のに、こんな手間を、かけるなんてっ……ご苦労な、ことだ!ロイド・レイランド、ルフ!!く、くひ…っ」
「“彼女”?……誰のことを言ってるのです」
「……まさかシェイラのことではあるまいな」
「くく、くはは!!シェイラ?シェイラだと!?
あの様な、異物、など、どうでも良いわッ!!エリー、は、もう、おれの、ものだ。
貴様のような屑にはも、勿体ないから、9年、前に、解放してやって以来……ずっと、ずぅぅっっと!
俺が愛、愛してきたんだからなぁ、ぁぁぁ~?」
「…………何ですって?」
「おいロイド、誰なんだエリーって」
「ガド、やめろ。影から聞いた。確かエリーシェ、……亡きロイドの妻だ」
「……はぁ!!?ちょっ、は??
解放してやっただ?こいつが殺したってことが確定したのはわかるが、何だよそれ以来ずっと愛してきたって……!?」
「答えなさい、彼女が、何ですって?」
ひひひ、と目を剥く一同を嘲笑うケインに射殺しそうな視線で睨みつけて答えを迫るロイド。
その様子に更に愉快になったのか、醜悪な笑みを浮かべながら男は語り出す。
半ばうっとりと、何か違う物でも見ているかのように、視線を宙に彷徨わせながら。
「っふふ、ああ……あああ!!
可愛い可愛い、俺の、エリー…。
ずっと、ずっとずっとほしくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて堪らなかった、俺の、最愛の女神。
なのに貴様に汚されて、あまつさえ、あんな忌々しい異物、なんかをう、産むだなんて!
で、でも大丈夫……あの薬で彼女は解放され、て、箱から救い出し、今も変わらぬ姿で、俺の帰り、を、待っているんだぁ……
領地の、端にある俺達、二人の屋敷で、この9年ずぅっと愛し合ってきたんだから、もう貴様には返さんよ!!くくく……っっ」
「……箱から……。棺か!!」
「げぇ!!……こいつ墓暴きやがったのかよ!?
しかも愛し合ったって………まさか死体と」
「ッガド!!」
「……あ。」
「……………っっ」
ルードの注意で慌てて振り返ったらそこには、ー…顔面から血の気を無くし蒼白のロイドがいた。
拷問の様子を見ても全く顔色を変えなかった男が、今にも倒れそうなほどに青褪めている。
狂気に当てられ、亡き妻の遺体を嬲られたことを聞かされれば、さしもの宰相と言えど限界だった。
小さい、本当に小さい声でルードらに呟く。
「……あとは、お任せしても………?」
「………ああ。……早く見つけ出して今度こそ…眠らせてやると良い」
「気遣い、有り難く」
ルードの言葉に頭を下げると、脇目も降らずに部屋から立ち去った。
突然露呈した、吐き気を催す事実に拷問をしていた尋問官すらも言葉を失ったようでー。
静かな室内に、狂った男の歪にすぎる笑い声が暫く響き続けた。
夜はまだ、長い。
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