74 / 161
第一章 出会い編
第55話 三人目の愚者〜策に溺れた者(中)〜
しおりを挟む
ー城内地下 最奥の牢ー
side:ケイン
『捕らえたか』
『ああ。考えてた通り、使用人口から出てきたんでな。
一発腹に入れたら気ぃ失いやがったよ。なんていうか歯応えなさ過ぎだ』
『そう言ってやるな、頭脳派だったんだろうこれでも』
『ヘイヘイ』
ルキア語で交わされる会話が耳に入り、ゆっくりと意識を覚醒させる。
僅かに反響しているところを考えれば、おそらく地下かどこかの牢にでも入れられているのだろうと推測しつつも身動きを取らない。
あの時あの場で殺さなかったのならまだ俺を生かしておく理由があるのだろう。
さらに言えば、兵を呼んで大捕物にしなかったのも俺の存在をあまり外に周知させたくない、秘密裏に捕らえて…、とそんなところだろう。
演技をしたり秘密裏に裏でこそこそ物事を運ぼうとするのがいかにもあの屑野郎のしそうなことだと心中であらん限りの罵倒をしつつ、状況を把握するために聞き耳をたてる。
『ロイドの旦那は?』
『ああ、この後の打ち合わせも兼ねてクルゼイ王のところに行ったよ』
『じゃあこいつはその間、ここに?』
『そのまま転がしておけ。大夜会が終われば時間などいくらでもある』
『了解』
暫く黙ったところをみるに、俺が意識を失っているかを確認している様子だったが。
やがて時間がきたのか、二人分の足音が遠ざかって行く。
遠くでガシャン……と重量のある音が響いて二人が牢から去ったのを確認するとモゾモゾ床を芋虫のように這いずって身体を解し、むくりと上体を起こした。
(……っつ、あの大柄の男。人様の腹を無遠慮に殴りやがって)
あの馬鹿力が、と悪態を吐くと軽く手首を動かして片手から力を抜き、ゴキッと
もう片方の手で関節を外す。
殴られた腹はいざ知らず、手首を外して縄を外すのなど手慣れたものだ。
後ろ手に縛られていた手を自由にし、再び手首を嵌め直すと、牢の中でゆったりと座る。
(見張りもないとは……舐められたものだな)
先程この場を去った事とルキア語を話していた事を鑑みてもカリス帝国の人間だろうと考えを整理して余裕を持って待ってるとぎぃぃぃ…と再び扉が軋んで開く音が響いた。
衛兵と侍従の姿の二人が足早にこちらに向かってくるのを見つめながらニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。
(何年城に通ったと思っている)
9年もの年月悪事を企んでいれば勿論協力者も作るし、往々にして最終的な退路の確保はしておくものだ。
帝国も爪の甘い、とほくそ笑みつつ鍵を開けられ牢から出る。
「……首尾は?」
「城の外まではご心配なく。王都から抜けるために“翁”殿の手の者に繋ぎをつけてありますのでいつもの宿にそのままお向かいください」
「ご苦労。報酬はいつものように」
そう打ち合わせると、地上へと続く扉を自分の足で潜ったのだった。
城を出て、翁の助力で王都を脱出。その後領地へ急ぎ戻ったら……ー
ああ、俺のエリー
仕事で柄にもなくヘマをしてしまったんだ。
すぐに君の元へ帰るから、一緒に他の国へと逃げよう。
大丈夫、俺はどこででも仕事は出来るし生活の心配も要らない。
今度こそー…
君と二人でずっとずっと愛し合って過ごそうね……
うっとりと家で待つ最愛の妻の顔を思い出しながら。
side:ケイン
『捕らえたか』
『ああ。考えてた通り、使用人口から出てきたんでな。
一発腹に入れたら気ぃ失いやがったよ。なんていうか歯応えなさ過ぎだ』
『そう言ってやるな、頭脳派だったんだろうこれでも』
『ヘイヘイ』
ルキア語で交わされる会話が耳に入り、ゆっくりと意識を覚醒させる。
僅かに反響しているところを考えれば、おそらく地下かどこかの牢にでも入れられているのだろうと推測しつつも身動きを取らない。
あの時あの場で殺さなかったのならまだ俺を生かしておく理由があるのだろう。
さらに言えば、兵を呼んで大捕物にしなかったのも俺の存在をあまり外に周知させたくない、秘密裏に捕らえて…、とそんなところだろう。
演技をしたり秘密裏に裏でこそこそ物事を運ぼうとするのがいかにもあの屑野郎のしそうなことだと心中であらん限りの罵倒をしつつ、状況を把握するために聞き耳をたてる。
『ロイドの旦那は?』
『ああ、この後の打ち合わせも兼ねてクルゼイ王のところに行ったよ』
『じゃあこいつはその間、ここに?』
『そのまま転がしておけ。大夜会が終われば時間などいくらでもある』
『了解』
暫く黙ったところをみるに、俺が意識を失っているかを確認している様子だったが。
やがて時間がきたのか、二人分の足音が遠ざかって行く。
遠くでガシャン……と重量のある音が響いて二人が牢から去ったのを確認するとモゾモゾ床を芋虫のように這いずって身体を解し、むくりと上体を起こした。
(……っつ、あの大柄の男。人様の腹を無遠慮に殴りやがって)
あの馬鹿力が、と悪態を吐くと軽く手首を動かして片手から力を抜き、ゴキッと
もう片方の手で関節を外す。
殴られた腹はいざ知らず、手首を外して縄を外すのなど手慣れたものだ。
後ろ手に縛られていた手を自由にし、再び手首を嵌め直すと、牢の中でゆったりと座る。
(見張りもないとは……舐められたものだな)
先程この場を去った事とルキア語を話していた事を鑑みてもカリス帝国の人間だろうと考えを整理して余裕を持って待ってるとぎぃぃぃ…と再び扉が軋んで開く音が響いた。
衛兵と侍従の姿の二人が足早にこちらに向かってくるのを見つめながらニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。
(何年城に通ったと思っている)
9年もの年月悪事を企んでいれば勿論協力者も作るし、往々にして最終的な退路の確保はしておくものだ。
帝国も爪の甘い、とほくそ笑みつつ鍵を開けられ牢から出る。
「……首尾は?」
「城の外まではご心配なく。王都から抜けるために“翁”殿の手の者に繋ぎをつけてありますのでいつもの宿にそのままお向かいください」
「ご苦労。報酬はいつものように」
そう打ち合わせると、地上へと続く扉を自分の足で潜ったのだった。
城を出て、翁の助力で王都を脱出。その後領地へ急ぎ戻ったら……ー
ああ、俺のエリー
仕事で柄にもなくヘマをしてしまったんだ。
すぐに君の元へ帰るから、一緒に他の国へと逃げよう。
大丈夫、俺はどこででも仕事は出来るし生活の心配も要らない。
今度こそー…
君と二人でずっとずっと愛し合って過ごそうね……
うっとりと家で待つ最愛の妻の顔を思い出しながら。
6
お気に入りに追加
9,649
あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!


目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる