出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

閑話  記者・エドモンド青年〜唸れ、我がペン!〜

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ああ何と

何という、圧倒的なまでの、美の祭典か。

煌びやかな装飾を施された内装に灯りが反射してより一層空間を輝かせる。
色取り取りの衣装に身を包んだ花々が支えを得てくるくると回る中
その中にあって他の追随を許さぬ優美さと艶やかさを醸しながら美の結晶花は一対となり踊る。

ゆったりと、くるくると。
時に滑らかに、時に情熱的に
赤と紺の花びらが揺れ惑わし。
時に激しく、時に慈しむように
銀と白の支えがかの花を散らさぬよう、花を優しく支えて揺れる。

中央にて揺れ踊る一対に魅せられ、それでも他の花々が咲き踊ることをやめない。

全ては、少しでも長く。
何時迄もその一対を間近で見つめる権利を得続ける為に。

大夜会ー…それは美しき花々が咲き舞い踊る、美の祭典にして至高の宴ー………


………………………………………………………………………………


「……こぉらテメッ、エディ!!何だぁ、この抽象的な記事ポエムは!?」

「痛ッッ!!?」


拳骨を落とされて現実に帰還したエディことエドモンドは、痛む頭を撫でさすりつつ口先を尖らせた。

「…痛いっすよ編集長。何だって言われても、大夜会の舞踏の様子っすよ?記事にしとけって編集長が言ったんじゃないっすか」

「あのなぁ!!こんな歯の浮きそうな言葉じゃなくってもっと、あんだろうが現実的な表現が。
ちったぁ成長してきたかと思って大夜会に連れてったってのに……間違いだったか?」

「…………自分はずぅっっと食べ物ばっか食べてて何にもしてなかったくせに」

「あ?」

「別にー?大夜会で知り合ったご令嬢に振られた編集長の為にこうして記事を書いたつもりなんすが。
ボツならボツでいいっすよもう。
その代わり自分で書いて下さいね!!俺は一ッッ切手伝わないっすから!!」

「ちょっ、お前っ!!?
何で俺が振られたって知って!?
あと記事あげんのはお前ら記者の仕事だろうがー…!!」

「あー聞こえない聞こえない。お昼行ってきまぁーす!!」

すたこらと職場から逃げおおせた俺は、屋台で串肉を買って頬張りながらもう~んと唸りを上げた。
確かに編集長の言うように、大夜会に参加してあの女神と麗しの皇帝陛下を目にしてからというもの、詩的な文章ばかりが浮かび、ゴシップや醜聞記事への意欲がめっきりと減ってしまったのは事実だからだ。
これでは仕事に身が入っていないと言われてもおかしくない。
だが言わせて貰えば、大夜会での宰相家の醜聞(事件?)については、食い過ぎと令嬢に振られたショックのダブルコンボで寝込んでいた編集長の代わりに、国王陛下とカリス帝国皇帝の寛容さと宰相並びにその娘であり女神のシェイラ嬢への同情を誘う文言を全面に押し出した上で件の悪女二人を取り上げた記事を書き、かなりの反響と発行部数を得たのだ。
売り上げにも大いに貢献したのだから、大夜会の舞踏風景の記事ぐらい好きに書かせてくれても…とも思っている。
記者を手に職として3年。その間後輩は得られず下っ端として細々と仕事に励んできたけれど。
他人の醜聞や汚職、後ろぐらい事情を暴きたてて記事にし飯のタネとすることにほとほと疲れてしまったのかもしれないー……

『……エディお前、作家でも目指したほうがいいんじゃねぇの?』


不意に、大夜会中編集長が呟いた言葉を思い出した。


「………作家でも、目指してみるのも悪くないっすね」


そう独りごちると残りの串肉を口に詰め込みながら、出てきたときより数段軽くなった足取りで職場へと戻っていった。

「今日も唸れッッ俺のペン!!」


数年後、情感深さと詩的な表現を武器に稀代の作家、エドモンド・クリューグが世を席巻することを、彼はまだ知らない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※エディ君回でした!!
何か妙に気に入ってしまって……。
機会があればまたどこかで登場させたいかも?
次回の更新は再び20時頃を予定しております(*´꒳`*)
お楽しみに~♪
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