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第一章 出会い編
第43話 大夜会前々日③〜覚悟と備え〜
しおりを挟む「ふ…不束者ですが、宜しくお願いしますわ」
ついて出た言葉を今更無かったことには出来ないし、この言葉を取り消す気もない。
告げた答えに僅かに動揺はあれど、ルードの見開いた瞳を見つめるにつれ、シェイラは彼と共にあることの覚悟を決めた。
「……本当に、良いんだな?」
「……はい」
殊更慎重に私の覚悟を確認してくる彼の様子がなんだか可笑しくて、くすりと笑ってしまった。
「私を貴方の隣に立たせて下さい。
出逢って間もない、変わり者で口の減らない厄介この上ない小娘ですが。
それでも欲してくださるのなら、
貴方の……婚約者に、して頂けますか?」
お父様への報告はご一緒くださいね!と照れ混じりだがどこか得意げに告げた私を暫し呆然と見つめていたルードだったが、言葉が脳へと浸透した途端。
「シェイラっ!!」
「ッッきゃ……っ!!」
素早く立ち上がるや、ガバ!!と抱きついてきたルードに驚き、再び赤面する羽目に。
「シェイラ…シェイラ……もう俺のだ」
「や!っぁ…、あのっルード!?……ゃ、ゃめ…んんっ」
強く抱きしめながら額から頬、耳に首筋へちゅ、ちゅ、と次々一心不乱に口付けを落とされ、じん…と感じたことのない類の熱が湧き上がり、必死に口から漏れる声を堪える。が、手で口を塞ごうにも腕ごと抱きしめられてる為にそれもままならない。一頻りキスをし終えて顔上げたルードにホッとしたのも束の間、今度は正面切って唇へと形の良い口を近づけてくる段になり、思わず泣きそうになる。
「……はぁ…シェイラ…」
(どどどどうすれば!?)
瞳を潤ませるシェイラに更に興奮を高めたルードが顔をどんどん近づけ、今にも唇と唇が接触しそうになった、その時。
んん!!…コホン!
ハッとして振り返ったその場所には、口元に握った手を当てて咳払いを発した張本人ー…
侍女のモリーが姿勢良く佇んでいた。
『モモモモリー!!?』
『……何のつもりだ』
そうだった、この部屋へはモリーと共にやってきて入室も二人でしたのだったと思い至ったシェイラは、今の今までその事実を打ち忘れ、あまつさえルードと……と気づくや、ぶわりと冷や汗をかく。
(わわ私ったら…なんてっなんて破廉恥なっ!!?)
次いであわあわと真っ赤な顔でパニックに陥ったシェイラを抱きしめたまま、獣が唸り声を上げるが如くの地を這う低音で文句をつけるルード。
言外に失せろと語るその言葉を涼しい顔で流すと、ニッコリと上品な笑みを浮かべた。
『恐れながら陛下におかれましては、この部屋に在する人員を確と把握されておられなかったご様子(私の存在、忘れてましたね?)。
本日も大変麗しいシェイラ様に求婚されるもエスコートの誘いをかけるも陛下の自由とは存じますが……(イチャイチャするのは結構ですが)。
侍従の前で、それもこのような朝方早くから自室へと呼び出された令嬢に無体を強いるのは如何なものかと(人様の前で朝っぱらからやる事じゃないでしょう)。
つい最近もご注進申し上げたはずでございますが…まさか覚えておいでになられない筈はありませんよね(同じことを何度も言わせないでください)?』
『ふん…。臣下の注進はできうる限り心に留めてはいるさ。
その上で言うことがあるとすればモリー。
お前はもう少し、主人の意を汲み行動することを覚えた方がいい(うるさい邪魔だ良いところなんだから空気読んでついでに空気と化しとけよ)。』
『あの!!あのねモリーっその、………ごめんなさい。私ったらその…』
『良いのですよシェイラ様。貴方様が謝られることではありません。
反省すべきは舞い上がって我慢が利かなくなった何処ぞの駄犬……殿方であって、シェイラ様に落ち度は一片たりともありませんわ、ご安心くださいな』
『え?』
『……おいモリー。
今主人である俺を駄犬呼ばわりしたな(沈められたいか何処ぞの海に)?』
『あら嫌ですわ陛下。お耳の調子が悪いので?
そうであればすぐにでもお医師にいらして頂かなくては(誰とは言っていないが自分がそうだと認めるんですね)!』
『……貴様』
『何でございますか陛下(何か文句でも)?』
侍女と皇帝の不毛な言い合いへと発展したために書き消えた甘い空気に胸を撫で下ろしつつ、1週間後に向けて決意を新たにしたシェイラだったー……。
(…『あの日』の回想終了)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後から大夜会前々日の今日まで、頭に詰め込んでいたマナーやダンスの知識を急ピッチで身体に叩き込み、怒濤の勢いに挫けそうになりながらも何とか臨時家庭教師兼侍女のモリーから合格を言い渡された私は現在、事前に採寸された通りに仕上がって届けられたドレス、その他の実際身につけてみての最終調整をしている。
(尚父にルードと報告に行った際、絶望した顔で泣き崩れてしまった時は流石に参ってしまったが)
テンション高くはしゃぎながら私を着飾る三人に苦笑しながらも、当日のことを思えば備えあって憂いなし、なのである。
あの日、退室の際にルードが言っていたのだ。
きっと私の義母や義妹も、大夜会へと足を運ぶであろうと。
彼女達と顔を合わせた時、毅然とした自分のまま彼の隣に立っていたい。
それだけを願いながら今、こうしてこの場にいるのだから。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ルード『…準備は』
ガド『上々。ちゃんと宰相殿に演技指導はしておいたぜ』
ルード『本当にロイド、大丈夫だろうな?』
ガド『あ?心配ないない!!というかあれだな、やっぱ切れ物宰相殿だわ。
腹芸得意なだけあって演技も上手い上手い!!俺も騙されそうになっちまった』
ルード『…それなら良い。では』
ガド『おお。まずは』
ルード&ガド『『一人目の仕込み、だな』』
………………………………………………………………………………
※本日はここまでっす。
次回は一本閑話を挟みつつ、いよいよあの男が始動…:(;゙゚'ω゚'):
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