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第一章 出会い編
第42話 大夜会前々日②〜告白と独占欲〜
しおりを挟む目の前で自身に向けて跪く銀髪の美丈夫の姿を、どこか現実感のないまま暫し呆然と見下ろしていた。
何故、彼は自分の前で跪いているんだろう?
私のような、たかが一伯爵令嬢相手に
何故皇帝である彼が膝を折るのか?
「な、にを」
次々と浮かぶ疑問が脳内に浸透した時、ハッと現実を取り戻して大いに慌てたが、先ほど開きかけた口から言葉がうまく紡げない。何故か言葉が喉に絡んで出てこない。
パニックに心を荒らすシェイラを、彼ー…ルードが瞳を細めて見据える。
ゆったりとした仕草でもって片手を上げてシェイラの手を取ると、口を開いた。
「出逢ってまだ間もない」
「………え」
「迷いの森で出逢って、まだ1週間。
シェイラの事も、俺の事も、深く知るほどの付き合いでもなければ立場も違う。
あまつさえ、簡単に事情を聞いた上とはいえ王城まで強引に連れてきた人間である俺に戸惑う気持ちも分からんでもない。
だがそれでも俺は、公の場でシェイラに隣にいて欲しい。
そう思っている」
「何故、そんなに私、を」
「何故か、本当に分からないか?」
見上げる瞳が、本当はわかっているのだろうと問いかけてくる。
そこまで問われても答えを口にできないシェイラを笑うことなく、真剣な面持ちで、ルードははっきりと告げる。
「好きだ」
「…っ!?」
「シェイラが好きだ。
会って1週間、初対面では女として認識すらしなかったし、ただ自分に物怖じせず言葉を紡ぐ変わり種の面白い人間だとも、失礼ながら思ってもいた。
だが街まで案内をしてもらっている頃にはお前をかなり気に入っている自分がいた。初日の別れ際お前が綴った言葉は酷く心に響いたし何より。
語りながら泣くお前の涙に濡れて潤んだ瞳を見たときには、もうお前を俺から逃すつもりがなくなるほどに、お前を…シェイラを、愛しい女として好きになっていた」
これはもう、一目惚れと言ってもいいかもしれんな!と苦笑いするルードを驚愕の面持ちで迎えることしか今の自分には出来ない。
「う、そ…っ」
そんな事あるはずがない
ルードが、自分のことを“愛しい女”として好きだなんて……。
そう否定の言葉を浮かべてみても、
「……嘘であってたまるか。
22になる今の今まで女に惚れた事もなければ、皇帝の地位に群がる女という生き物を信用する事も、そばに置く事も、独占したいほど強く執着する事もなかったこの俺がどうだ。
1日にしてお前に惚れ、これから先ずっと隣にいて欲しいと思ってしまったんだよ。
だから諦めろ」
「諦め、ろ?」
「俺から離れる……もしくは俺以外の男の隣に立つことを、だ」
そうまで独占欲に塗れた告白でもって上書きされてしまえば、これ以上彼の気持ちを否定することなどシェイラには出来なかった。
というより、男に慣れていないシェイラにしてみれば、麗しい男性に跪かれて愛を乞われるこの事態は母が収集しておいてくれた王子と姫の恋物語以外に前例はなく。
止めとばかりに、その男が、この短期間の内に好意を抱くようになっていたルードだったから尚更に。
顔から耳に至るまで熟れたトマトのように染まるのを止められないのだ。
本当の
本当に
ルードが
自分を好きだという。
嬉しい…だがそれ以上に恥ずかしい!
あうあうと口を無意味に開閉している真っ赤な顔のシェイラにくっ…と僅かに笑いを零すと、先ほどとった手を軽く持ち上げ、ちゅ……と口づけを落とした。
(~~~~~!!ちゅ……ちゅって!?ちゅって何っ!!?)
「シェイラ・レイランドルフ。
改めて言わせてもらう。
俺の…ベルナード・イグニス・カロル・カリスティリアの婚約者として、俺の隣に立ってはくれないか」
プルプルと震える私をまっすぐ見据えたまま求婚するルード。
相応しくない、身分が、断らなきゃという後ろ向きな言葉の数々が頭を巡るがしかし。
私の口から告げられた答えはー…
「ふ、…不束者ですが、宜しくお願いしますわ」
であった。
どうやら紡がれる言葉の方が余程心中を雄弁に表してくれたようだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※回想回、もう少し続きます!
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