出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

文字の大きさ
上 下
59 / 161
第一章  出会い編

第42話  大夜会前々日②〜告白と独占欲〜

しおりを挟む



目の前で自身に向けて跪く銀髪の美丈夫の姿を、どこか現実感のないまま暫し呆然と見下ろしていた。

何故、彼は自分の前で跪いているんだろう?
私のような、たかが一伯爵令嬢相手に
何故皇帝である彼が膝を折るのか?


「な、にを」


次々と浮かぶ疑問が脳内に浸透した時、ハッと現実を取り戻して大いに慌てたが、先ほど開きかけた口から言葉がうまく紡げない。何故か言葉が喉に絡んで出てこない。

パニックに心を荒らすシェイラを、彼ー…ルードが瞳を細めて見据える。
ゆったりとした仕草でもって片手を上げてシェイラの手を取ると、口を開いた。


「出逢ってまだ間もない」

「………え」

迷いの森あんな場所で出逢って、まだ1週間。
シェイラの事も、俺の事も、深く知るほどの付き合いでもなければ立場も違う。
あまつさえ、簡単に事情を聞いた上とはいえ王城こんな所まで強引に連れてきた人間である俺に戸惑う気持ちも分からんでもない。
だがそれでも俺は、公の場でシェイラに隣にいて欲しい。
そう思っている」

「何故、そんなに私、を」

「何故か、本当に分からないか?」



見上げる瞳が、本当はわかっているのだろうと問いかけてくる。
そこまで問われても答えを口にできないシェイラを笑うことなく、真剣な面持ちで、ルードははっきりと告げる。


「好きだ」


「…っ!?」


「シェイラが好きだ。
会って1週間、初対面では女として認識すらしなかったし、ただ自分に物怖じせず言葉を紡ぐ変わり種の面白い人間だとも、失礼ながら思ってもいた。
だが街まで案内をしてもらっている頃にはお前をかなり気に入っている自分がいた。初日の別れ際お前が綴った言葉は酷く心に響いたし何より。
語りながら泣くお前の涙に濡れて潤んだ瞳を見たときには、もうお前を俺から逃すつもりがなくなるほどに、お前を…シェイラを、女として好きになっていた」


これはもう、一目惚れと言ってもいいかもしれんな!と苦笑いするルードを驚愕の面持ちで迎えることしか今の自分には出来ない。


「う、そ…っ」

そんな事あるはずがない
ルードが、自分のことを“愛しい女”として好きだなんて……。
そう否定の言葉を浮かべてみても、


「……嘘であってたまるか。
22になる今の今まで女に惚れた事もなければ、皇帝の地位に群がる女という生き物を信用する事も、そばに置く事も、独占したいほど強く執着する事もなかったこの俺がどうだ。
1日にしてお前に惚れ、これから先ずっと隣にいて欲しいと思ってしまったんだよ。
だから諦めろ」

「諦め、ろ?」

「俺から離れる……もしくはの隣に立つことを、だ」


そうまで独占欲に塗れた告白でもって上書きされてしまえば、これ以上彼の気持ちを否定することなどシェイラには出来なかった。
というより、男に慣れていないシェイラにしてみれば、麗しい男性に跪かれて愛を乞われるこの事態は母が収集しておいてくれた王子と姫の恋物語ラブストーリー以外に前例はなく。
止めとばかりに、その男が、この短期間の内に好意を抱くようになっていたルードだったから尚更に。
顔から耳に至るまで熟れたトマトのように染まるのを止められないのだ。

本当の
本当に
ルードが
自分を好きだという。
嬉しい…だがそれ以上に恥ずかしい!



あうあうと口を無意味に開閉している真っ赤な顔のシェイラにくっ…と僅かに笑いを零すと、先ほどとった手を軽く持ち上げ、ちゅ……と口づけを落とした。

(~~~~~!!ちゅ……ちゅって!?ちゅって何っ!!?)


「シェイラ・レイランドルフ。
改めて言わせてもらう。
俺の…ベルナード・イグニス・カロル・カリスティリアの婚約者として、俺の隣に立ってはくれないか」

プルプルと震える私をまっすぐ見据えたまま求婚するルード。
相応しくない、身分が、断らなきゃという後ろ向きな言葉の数々が頭を巡るがしかし。

私の口から告げられた答えはー…


「ふ、…不束者ですが、宜しくお願いしますわ」

であった。



どうやら紡がれる言葉の方が余程心中を雄弁に表してくれたようだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

※回想回、もう少し続きます!
しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

処理中です...