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第一章 出会い編
第34話 王都入り
しおりを挟む(正直、ここまで早く到着するなんて…思っていませんでしたわ)
半ばルードのペースに巻き込まれた形で王都へと同行することになったシェイラは、馬車の中から、中を守るように囲い、そびえ立つ巨大な王都の壁を視界に捉えると、小さく嘆息した。
領地を発っておよそ3日。
ルードが言っていた通りに本当にたった3日で王都にたどり着いてしまったのだ。驚くことに、皇帝を連れているにも関わらず、ここまでの旅路で一度も他領の宿を利用せず、野営をしながらの強行軍であったのだ。
急ぐ旅路で無しと言っていたのはどの口だと驚嘆を通り越して若干の呆れを滲ませてしまったシェイラの態度にも無理はない。
今月末王城で開催される『大夜会』
寒さ厳しくもこの年明けの月末に、2年に一度行われるこの国一番にして王家主催の舞踏会はトリアドス王国民にとっては憧れ。
さらに言えば、王族全てが出席し、王国に仕える貴族全てに招待状が届けられる為、国内の貴族が目の色を変えて参加する。
2年に一度ある社交の戦場とも評されている一夜なのだ。
そんな大イベントの1週間前ともなれば、先んじて王都入りする貴族や金の動く気配に敏感な商人達がこぞって王都の正門に列を成すのは至極当然と言ってもいいのだが、勉強は独学ですれども実際に社交の場に出た経験も無ければ王都に来たこともないシェイラに、長蛇の理由がわかろうはずも無い。
長々と伸びるそれそれの横を通り過ぎる際も、
人の多さよりも列に並ばず進むこの馬車について気になり
「あの、皆様並んでいらっしゃいますけれども……よろしいのでしょうか?」
「ん?ああ、王族や高位貴族はあの正門の横の門から入る決まりになっているんだ。
身分がどうのってこともそうだがほら、護衛の騎士やら侍従やらを多く連れて同じ列に並ぶとお互い邪魔くさいだろう?」
だからそういう人間はさっさと別の門から通してしまった方がかえって面倒が少ない、というルードの言葉に何の疑問を抱くこともなく「そうなのですか」とシェイラは納得を示したのだった。
やがて門までたどり着き、護衛の一人が門番役にカリス帝国の紋章入りの通行証を見せるとものすごい速さで脇にどき、
「ど、どどどどうぞお通りくださいッッ!!」
と大声を出したのには些か驚いたが。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
門を抜け、無事に王都入りを果たしたシェイラ達はそのまま馬車で街の中を進んでいく。数名の騎士達が先触れとして王城へ馬で駆けて行き人数が減ったとはいえ、それでも通常の貴族達の倍は護衛と侍従を同道させている様はひどく目立っているらしく、行き交う人々は皆足を止めて馬車を見つめている。
救いがあるとすれば、友好アピールの一環とはいえ視察団を称して馬車に帝国の紋章を入れていないことだろうか。
そんなことをつらつらと考えて外の様子を眺めていたシェイラだったが、ふと視界を掠めた人物に目を見開きサッと身体を車内の端いっぱいに寄せ、縮こまる。
「シェイラ?」
「シッッ!……静かに」
突然のシェイラの行動に怪訝な表情で声をかけたルードも、その青褪めた表情に怯えの色を見てとるや僅かに顔を顰めて「…どんな風態だ」と小声で囁く。
「……長身で、青みがかった黒髪を整髪料で後ろに撫で付けた、神経質そうな男、です」
ルードが視線をチラリと窓の外へと流す。
向かう方向が同じなのか、人を轢かぬようゆっくりと進む馬車と並行して歩いているらしいその男を捉えてシェイラに小さく頷くと「例の男か?」と聞いてくる。
「ええ……。数年、姿を見てませんがまるで変わっていません。
間違いなく、ケイン、です」
彼も王都入りしていたなんて。
そう呟いて小刻みに震えるシェイラを安心させるように「大丈夫だ。指一本触れさせんよ」と返し、小さく微笑んでくれるルードの優しさに。
何だか酷く、泣きたい気分になった、シェイラであった。
自身が目を背ける窓の外、馬車の進む先にはトリアドスの王城がその存在を主張して聳え立っていた。
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