出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

第25話  守りたい者と暴きたい者

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思いがけないルードの突然の提案(寧ろ命令?のような…)に喜びを覚えたことに、シェイラは最初驚きを覚え、またそれを反芻するとともに次第に青褪める。

(駄目よ…私の不在を知られてはに……っっ)
私だけではなく、王都で働く父も殺されてしまうかもしれない!!

「な!何を言うんですのルード!わ、私は帰らなければ!」

「………何故、そうまでして嫌がる?
お前は確かにあの屋敷から出ないのは、伯爵家としての誇りと母親の言葉が理由だと俺に言ったが。
そのような扱いを受け続けてまでこれ以上あの家に留まる必要がどこにある?」

「…っ、そ、れは。しかし戻らなければ!」

いやいやと突然身を離そうと抵抗を強めたシェイラに怪訝な面持ちのルード。
ルードの提案は正直、シェイラには涙が出るほどに嬉しいものだった。実際今朝方、皇帝陛下ならば自分を救ってくれるのではなどという妄想を抱いたばかりだし、事実、彼はカリス帝国皇帝・ベルナード・イグニス・カロル・カリスティリアなのだ。それ以外に表のカリスの騎士達が『陛下』と呼びかける人物などいない。
しかし、だからこそ余計に巻き込んでは駄目だと、シェイラは強く思う。

いくら皇帝といえどもここは他国の一領地。彼らは、あの男の危険性を知らなすぎるのだ。もし同情心から私に関わり、彼の身に危険が訪れるようなことがあればー

一度そう考えてしまえばもう、彼のもとで、彼に守ってもらおうなどと言う都合の良い行為を諾々と享受することなどシェイラには出来なかったのだ。


しかし


頑なに申し出を固辞するシェイラの様子に、ルードも何か尋常ならざるものを感じ取ったのか、
先ほどまでの猛り切った感情を沈め、囁くように静かな声音で問う。


「シェイラ。どうしたのだ。
お前は何にー……、そこまで怯えている?」

「…っ。わ、た、しは、家に…帰らね、ば」

「帰らねば、どうなる?
後妻達からの接近や更なる罵倒、暴力の心配もない。
9年間会えていない父親と会いたいのであれば、どの道王都へと向かうのだ。共に行けば良い。

何が問題だ?
何が不安だ?
何が、怖い?」

「私は!!」


…………本当に厄介なひとだ、ルードは。
皇帝のくせに、知らない森に率先して入ってしまうほどに好奇心旺盛で。
人に命令し慣れた様は、酷く傲慢で。
自身の意思を常に優先する程には我が儘で。
そうして
シェイラのような年下の娘の身の上話を黙って聞いてくれた程に…優しいひと


静かに、優しく、言ってしまえと唆すようにー

シェイラひとの秘密を暴くのだ。


「………っ、私はもう、誰にも………っっ

誰にも死んで欲しくない!!……もう誰も失いたくは無いのです………」

他ならぬ、私という存在のせいで


シェイラは耐えきれず泣いた。
ポロポロと止めどなく流れる涙は、再び強まった抱擁により、目の前の男の綿製のシャツに吸い取られていく。


「俺は、お前が何に怯えてるのかも、怖がっているのかも知らない。
けれど少なくとも俺は引かない。

俺は、カリス帝国皇帝、ベルナード・イグニス・カロル・カリスティリアだ。

恐れるものもあってはならんし、欲しいものは絶対に逃さん。
よってシェイラを逃す気も、これ以上誰かに傷つけさせる事もない。

故に諦めてくれ、シェイラ。
諦めて俺に、抱えている事全て、話してしまえ」

昨日は途中まで話せただろう?


ゆっくりと抱きしめた身体を揺すりながらルードが言うから。


「あ、ああぁぁ………っっ!!!」

シェイラの最後の心の境界線はこの時、
涙と一緒に遥か彼方へと流されていってしまったのだった。







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