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第一章  出会い編

第23話  傲慢で我が儘で優しい男①

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「え……?ルー、ド?」

「うむ。いかにも俺はルードだが?」

お前はシェイラだろう?そう揶揄うように言われ、驚かされた分まで無性に腹が立った。

「さぁ?」

「は?おい…シェイラ、何を」

「知りません、人を背後から突然羽交い締めにするような無作法な方など。人違いなのでは(こんな事急にするなんて信じられない!他の人と間違えたらどうするつもりだったのやら)?ああでも昨日出会い頭に剣を突きつけてきた騎士風の方がいらっしゃいましたが、貴方がそうであると(昨日あれだけ嫌味を垂れ流して差し上げたのにまだ懲りてらっしゃらないご様子ですわね。学習しないのかしら)?」

そもそも、とさらに続けようとしたシェイラの口を再び塞ぐと、何だか困り果てたように眉を下げたルードが降参だとばかりに片手を上げた。

「悪かった、すまん。そこまで怒るなんて思ってなかったし、確かに思慮と配慮に欠ける行動と言動だったこと、謝罪しよう。ただ、」

「ただ?…何です?」


「今からお前の家に忍び込もうと算段立てて変装までしてな?
が宿から完全に離れるまではと路地で待機してたらお前が急に目の前に現れたんで驚いたんだ。
それで嬉しさの余り暴走してつい手荒に扱ってしまった」

悪かったな 強引に後ろから襲ってしまって

「~~~ッッ!!」


ニヤリと人の悪い笑みをこちらに向けてくるルードに、全身の血液が顔に集まったように茹で上がってしまったシェイラは、最早言葉もない。
何度も何度も口の開閉を繰り返すシェイラをニヤニヤと眺めていたルードだったが、何かに気づくと不意に顔を顰めた。

「……シェイラ、お前。、どうした?」

「それ……?一体何の」

何の事だと告げるより早く、再び聞こえてきた喧騒にチッと小さく舌打ちをすると「例の魔法、今かけてくれ。勿論俺とお前。両方に、だ」と早口で促してくる。

「え、…ええ。では」
戸惑いつつも『気づかず』の魔法を自分とルード両方にかけ、合図に頷いて見せると、クイッと顎を釈ってシェイラの手を掴み、ズンズンと宿屋へと戻っていく。どうして急に機嫌が悪くなったのかしら……と疑問符を浮かべるシェイラを余所に、宿屋の中に上がり込み、二階の一番奥にある部屋の前まで無言で歩みを進める。
部屋の前には見張りの騎士が二人。どうやって中に?と思っていると。

『おい、開けろ』

『『!?!?』』

何と唐突に、その二人にルキア語で声をかけた!


『誰だッ!!』

『え、……へ、陛下!?』

『うるさい静かにしろ、俺は現在凄ぶる機嫌を害してる。斬られたくなければそこを退いて部屋に入れろ』



突然の声に唐突な登場、騎士の二人が驚くのも無理はない。
何の説明もなく連れてこられ、そもそも陛下って…聞いてないんですけどもとも思いつつ、二人への同情を禁じ得なかったシェイラは、

『あの、ルー…陛下?せめてお二人に簡単に説明を』

『!?何者だ貴様!!』

『珍妙な姿形なりをしおって!陛下に許可なく直接話しかけるなど不敬な!!』

『あ…。』


(…しまった、ですわ。ルードが『認識』されていたから私もと勘違いしてしまいましたわ)

新たに唐突な出現を果たした存在に、騎士の二人が殺気立つ。その手が腰元の剣に置かれたのを視界に捉え、シェイラが慌てて謝罪しようと口を開いた時。


『お前達の耳は飾りか?それとも俺の命令など聞くに値しないか。
……それ程までに死にたいというのならば。
今、
すぐ、
そこに跪け。
そうすれば苦しみを感じさせないようー…
優しく、殺してやる』

『『~~ヒッッ!!?』』

『…!!』

低く、低く。
冥界の底から響くような重低音で静かに放たれた死刑宣告と殺気に、ガタガタと震える青ざめた顔の騎士達。
殺気は凄まじくシェイラの背中にも冷たいものが流れてしまったが、そんな事を気にしている場合でないと、気をしっかりと持ち直す。

『……ルード』

『!!…何だ』

ルード、と呼んだ瞬間若干殺気が鳴りを潜めたような気がする。心なしか騎士達の顔色も…と横目で見やると何やら必死で“助けて!!”とシェイラに訴えているような。いや、今優先すべきは。

『ルード。今貴方が一番にしたいことは何?』

『……。』

『取り敢えず部屋に入ること、でしょう?
彼らも、突然現れた貴方に驚かれたご様子ですし、貴方の隣に私のような者が突然現れれば彼らの職務上、ああせざるを得ないと思いますの。
ここで揉めるのは得策でないのでは?』

『…しかしだな、此奴ら、お前に剣を向けようと』

『今更ですわね(貴方もやったでしょうに)。それにこれ以上揉めるのであれば。
今すぐ帰らせていただきま』

『二人とも驚かせて悪かった。
命令無視したなんて当・然!思ってないからそこを通して部屋に入れてくれ。
彼女と内密な話があるんだ』


『『え、あ、はい……』』





す、とシェイラが言い切るのに被せてコロリと態度を変えたルードの発言に
騎士二人は気の抜けた返事を返した。


部屋への扉が開き、これで漸くまともに話せる、とシェイラは小さく息をつくのだった。
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