出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

第22話  果たされた約束

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(やはり皇帝陛下一行の滞在の影響でしょうか……人が多いわ)

昨日ルード達を街へ送った際は、彼らを無事屋敷から街へと連れ出すことしか頭になかったために街の様子に気を向けることがあまりなかったが。
やはり通常より人通りが多いように感じる。

こう人が多くては、と気持ち焦りを抱いたシェイラだったが、大国であるカリス帝国のトップが直々に訪問・滞在しているとあってか、彼ら一行の宿の前には朝も早いこの時間から人集りが出来ていた。
その人集りの外側に酷く見覚えのある馬車と御者を見つけ、シェイラは咄嗟に脇の路地へと身を滑り込ませた。

(ロザベラ達、だわ。そうよ、その為にあの人達は柄にもなく早朝から家を出て行ったというのに。私ったらまた失念して…。お花畑にも程がある)

これではあの人たちをとやかく言ってはいられませんわね、と自嘲しつつ、見つからないよう路地からそっと顔を覗かせる。
『気づかず』の魔法をかけてはいても用心するに越したことはない。
この魔法、他者の認識をずらす類のものである為に、実は術者が解かなくとも声を上げれば勝手に解けてしまうという致命的な欠点があるのだ。


それに何せ、この街にはの息がかかっている人間が多く存在するのだから。

警戒しながら暫く様子を伺っていると、わぁ!!と人集りが声を上げた。同時に馬車からロザベラとミラベル、侍女たち二人が降りてきた。どうやら御一行が街へと繰り出すべく宿を出てくるらしい。

『邪魔よ!!退きなさい!!』
『私達を誰だと思っているの!私達は皇帝陛下に拝謁する権利があるのよ!!』

そんな声が微かに聞こえてきたが、人集りが上げる歓声に殆どかき消されている。

数人の護衛騎士達が出てきて道を開けろと人集りに促すと、クルリと踵を返し、恭しく頭を下げる。そこにー

(ー…え)

皇族の紋章の入ったマントに黒い軍服。細かい意匠の施されたその服をさらりと着こなして。
上品に長い髪を頭の後ろで結えた銀髪の美丈夫、感情の読めない微笑を浮かべたルードが、宿屋より姿を現した。

(…ルード…。貴方は…)


「何、で…。」


貴方がそんな服を来て歩いているの?護衛の騎士からも頭を下げられているの?そんなに冷たく笑っているの?

分かり切った答えを知りたくなくて、シェイラは必死に自問を繰り返す。
たくさんの人に囲まれながら遠ざかっていく彼らを、呆然と見送る事しか出来なかった。

途端静けさを取り戻した辺りの様子に帰ろう、と屋敷へ向けて歩き出そうと通りに踏み出したシェイラの腕が、
グイッと路地奥に向けて引っ張られた!

先程小さくとはいえ声を発してしまったことに思い至ったシェイラは(しまった!!)とバランスを崩した身体を
必死に捩って抵抗するが、すぐに後ろから羽交い締めにされた挙句、口元まで手で塞がれてしまった。

(ああ…あれだけ警戒していたのに私は。今度こそあの男に)

殺されてしまうのだろうか

次第に絶望へと染まるシェイラの表情はしかし、すぐに驚きのそれに変わる。




「昨日ぶりだな、シェイラ」




耳元で囁かれた言葉とその声。昨日聞いたばかりのー…

抵抗が止んだのを感じたのだろう、口元から手が外され、身動きが取れるほどに腕の力が緩められる。

信じられない面持ちでゆっくりと首を捻ればそこには。


「ん?驚かせたか?だが、約束したろう『俺たちはまた会う』と」



そこには、何故か茶色く髪を染めて平民服に身を包んだルードがシェイラを見つめ、悪戯が成功した子供のように、笑った姿があった。
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