出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

第19話  休暇申請したい男・ガド

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(………俺、なんもしてないよな?いや、したっちゃあしたが、ロイド助けんのには必要なことだったし。
うん結論。『オレ、悪クナイ』!!)





あの後は、もう大変だった。

そりゃあもう、大変だった。




狂ったように泣き叫ぶロイドを必死に落ち着かせるのにも骨が折れるわ、宿中に響き渡った絶叫に驚いた宿屋の夫妻とその娘が、何があった!?ロイドは無事か、ここを開けろ!!と先程の絶叫にも負けない剣幕で扉を殴りつけるわ。窓から見える外の行き交う有象無象が宿屋の異常にざわついてるわ。

取り敢えず宿屋夫妻と娘さんには身内に不幸があった(嘘ではない)と当たり障りなく説明、数日間の宿泊費を追加で払い滞在延長を図り、同時に外で“すわ事件か!??”、と騒いでる連中の火消を頼む。
泣き叫び疲れて気を失うように床で眠るロイドの様子に納得したのか、痛ましげに一瞬顔を歪ませた宿屋の親父は、
あんちゃん、ちゃんとロイドの旦那ぁベッドに運んでやんな。起きたらなんか美味いもんこしらえてやるっつっとけ」
と小さく言い置き、奥さんと娘さんを連れて部屋を出て行った(やだ、なにそれカッコいい)。


ロイドををベッドに運んで寝かせ、部屋に置かれた木製の椅子を窓際へと移動させ、簡素なチェストの上に置かれた灰皿を手にして座る。
煙草とマッチを取り出してコートを床に放り投げると、火をつけ一服。
ようやく一息つけた気がした。



(全く…参るぜほんと。クソガ…偉大なる我らが皇帝陛下のご命令とはいえ、夜通し馬で早駆けして王城にたどり着いてからひと息つく間もなく目標と接触。
ヤバイもん発見しちまってやむ無く場所を宿屋へ移動してやっと本題、というより一種の深い洗脳状態にあった目標を正気に戻すために奮闘。更にはこの後しなければならないことも目白押し、と。
働かせ過ぎな上に緊急案件が多すぎる、これは国に帰ったら特別報酬(ルード個人そ財布から)と特別休暇を申請せねば割に合わん!!)

悪態つくの、最近癖になってんな…疲れてんのかな。うん、疲れてんな俺。と自分の削られた精神を労わりながら、俺は今後の行動について考えを巡らせる。


(んー…。まずはすぐにルードにこの事を伝え…る前に、この国の王様に何とか秘密裏に事情を説明・対処を促さにゃならんだろ(仮にもロイドのやつ、この国の宰相だし)?そんでもってルードに…ってまだ駄目だ後妻達はともかく定期的にこっちにやってきてアレを差し替えてるらしい確定クロのケインとやらも捕らえにゃならんし、他には………ん。やっときたか)

うんうん煙草をふかしながら唸っていた俺の耳が微かにカタン…という音を捕らえ、ちょうどいい、とニヤリと笑って煙草を消す。


天井を見上げ指先をクイっと折って床を指し示し、降りてこい、
と合図する。と、

天井の一部が外れ、そこからスルリと音もなく部屋へと侵入を果たした者が一人。
ルード直属の影ー、諜報部員の一人だ。

『………。』

『話しても問題ないぞ。主に精神的に消耗した為かなり眠りが深い。』

『では、そちらの状況の報告を』

『ああ。トリアドルの城にて目標と接触。
任務遂行の際、目標の自室に看過できない物を発見した為、目標を連れて城を離脱。この宿に入り任務遂行のための処置をとり、現在に至る。そんなところだ。』

『看過できないものと処置とは何のことだ』

『………目標の自室にアリスリリアが生けてあった。そういえば分かるだろう?』

『!!?』

『この宿に到着後記憶の齟齬を確認してみたが、かなり。9年間途切れなく思考を誘導され続けていたらしい。最早洗脳だな』

『……誰が糸を引いているか分かったのか?…よもや我がく』

『いや。この件に関して我が国の関与はないと言っていい。関与したところで何のメリットもないからな、入手先は恐らく闇ルートだろう』

『………そうか』



かつての凄惨を極めた後継争い、その際にアレが齎した悲劇を思い出したのだろう。
青くなりながらも国が関与していないと聞くや、僅かに安堵を見せる影に致し方なしか、と苦笑する。


『それで?誰が何人関わっている?』

『何人かは定かでないし、この通り洗脳状態が解けるや眠ってしまったこの状態んでな。詳細な聞き取りはこれからだ。が、一人だけ。目標の補佐役のケインという男、こいつは完全にクロ。アレを目標に齎した張本人だ』

『…ほう。余り知られていない花であるし、偶然ということは?』

『ない。言っただろう、9年間途切れなく、と。目標の話だと何度も差し換えに来ていたらしい。』

何と悪辣な…!と小さく呟くと、

『では皇帝陛下にこの事伝えて参る。貴殿は目標の意識が戻り次第、任務の遂行に励んでくれ。合流が遅れる旨は伝えておく』

『ああ、分かった。ああそれと、王都ここに来ている影はお前一人か?』

『いや。何人か』

『ならば一人借り受けたい。トリアドルの王と秘密裏に連絡を取りたいのだ。
目標の役職が厄介でな、このままの状態が長く続けば俺と連れ立って城を出たのを多くの人間に知られているだけに厄介なことになりかねん。それに、今大事になれば、元凶に逃亡されかねないのでな』

『………わかった、一人こちらに寄越そう。
会って話をする際は一人になれば姿を現すだろう。ではな』


『宜しく頼む』




告げるや再び天井裏へと消え去った影を見送り、俺はロイドの目覚めを待ちながら、
再び新しい煙草に火を点けた。


さて

早く起きてくれよ宰相様?



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