出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

第18話  sideロイド〜解放された『現実』〜

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『………ご、めん、な、さい………お父、様……っ』

酷く頭が痛む中
記憶の中で再生された娘の、絶望し、何かに耐える表情。




「ぁ………ぁぁぁ、
……………ぁぁぁぁああぁぁあぁあぁあああああああああああああああッッッッ!!!!」

何故
忘れることなどできたのだろうか。

自身の、最愛の娘、シェイラ。
そしてその娘に己が告げた、許されざる言葉を。


場面が切り替わる。
溢れるばかりの白い白い花に包まれて棺に静かに眠る、最愛の妻、エリーシェ。

彼女が確かに死に。
最早この世にいないことを、何故忘れていられたのか。

王都の城へ逃げて9年。
9年もの間、私は。
彼女達を忘れていたのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



押し寄せる『現実』の記憶が、頭の中を圧迫し、割れんばかりだ。

『旦那様、奥様!』  

『今日は待ちに待った、お嬢様と遠出なさる日でしょう!?起きて支度なさってくださいな。ほら、お早く!!』


亡き妻の生前の温かく美しい笑顔、娘が初めて立った時に喜び妻の前で恥ずかしげもなく号泣したこと。
日頃、私達を助けてくれた優秀な家令や侍女達に。
まるで姉のように妻と私を支え、時に叱咤し、生まれたシェイラを慈しんでくれた…乳母の、カミラ。


カミラ………そうだ。思い出した。彼女から手紙をもらったのだった。
体調が悪く、暇を願いたいと。
代わりに
私の娘と半年生まれ違いの娘とともに伯爵家で働きたいと言っている男爵家の女性がいるがどうかと勧められて、許可をする手紙を出した、こと。

その名前が………

『ロザベラ・フォールン』と『ミラベル・フォールン』だった、と。


思い出した。その二人の名は、使用人として家に入る事を許した者たちだということを。
思い出した。その手紙を、領地へと向かうケインに託したことを。

……思い、出した。領地より再び戻ったケインが土産だと言って、私にを押し付けた、ことを。


ー…その際、意識が薄れていく私にケインが囁いた、言葉の一言一句を。


『嗚呼、御可哀想な旦那様…いや、もうロイドでいいか。
貴様が悪いんだよ、俺が憧れ恋焦がれて止まなかったエリーシェ様を妻にし、あまつさえ貴様と同じ赤髪を持つ、忌々しい娘を彼女に産ませた!
ずっと…ずっとずっとずっと殺してやりたかったよ、ロイド?でも殺してやらない。
やっと彼女は!!
領地も屋敷も娘のことも、全て優秀なこの俺がしてやるから心配するな?
貴様は彼女のことも、娘のことも忘れ、ここで大人しく職務に励んでいればいい。大丈夫、忘れた寂しさなど感じないさ…な!!』


その耐えがたい言葉のあとから、私の『現実』が『虚実』へ塗り替えられたことを。
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