出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

文字の大きさ
上 下
14 / 161
第一章  出会い編

第7話. 祝(?)森脱出

しおりを挟む
「……お、おいルードさんよ」

「…ああ」

「こりゃあなんか、、その、おかしかないか?」

「………ああ」

「どうしたんですかお二人とも?」



森で果たした出会いから、どうやら迷子らしいカリス帝国よりの旅人達(?)を森脱出から街までの道案内をする約束をしたシェイラは、迷う素振りなく軽い足取りで道無き道をサクサクと進む。
迷いのないその様子に何やら背後の二人は戸惑った様子。

(どうされたのでしょうか?私何か知らぬ内おかしなことでもしでかしたのかしら?)

疑問に思っていると、背後から自身の隣りに足を進めて並んだルードが効いてきた。


「…いやな。シェイラ嬢、その、随分と迷いなく進まれるのだな、と」

「え?」

「此処は『迷いの森』なのだろう?」

「…嗚呼!そのことですか」

(そういえばお二人とも迷子なのでしたね。うっかり失念してましたわ)


カリス帝国の視察団は(ミラベル達情報によれば)今日の午後学園を訪問する、といっていたし、おそらくそれは昼過ぎ辺りのことの筈。で、現在すでに昼はとっくに過ぎ、3時前頃。先乗りで入る予定だったと言うからにはそもそも昨日の夜か、
今日の夜が明けるかといった早朝に森に入ったと見るのが妥当。であるならば。
きっと散々迷って苦労したのだろう。

お疲れ様です、と心中で労いの声をかけながらも、まもなく森を抜けるので、その後の行動について説明せねばと思い隣りのルードに顔を向ける。


「迷いの森の中を歩くにはコツがあるんです」

「コツ?」

「はい。………っと、それよりもお二人とも。間も無く森を抜けますよ」

「「おおっっ」」

苦労した森をやっと抜けられるとあって大きな声を上げた二人にシッ!慌てて嗜める。


「どうか此処よりお静かに。先程、ご案内することの条件を覚えていらっしゃいますね?ルード様、ガド様」

「?…ああもちろんだ。一つ、森から出たらシェイラ嬢に従うこと。二つ視察団に合流後、この国の貴族達との交流の場でシェイラ嬢と会ったことを話題に出さない、だったな」

「……ええ。絶対に順守してくださいね」




そう話すうちに徐々に気の合間から見え始めた大きな屋敷にルードとガドが怪訝な面持ちとなる。

「…あの屋敷は?」

「誰ん家だ、ありゃ?」

「私の家です」

「「は??」」

「…ですから、レイランドルフ伯爵邸。私の、家、ですわ」

「「……。」」

唖然とする二人にさもありなん、当然おかしく思いますよね、と苦く笑う。通常、領主館とは領地の中心部に建てられるものだからだ。国境に接している森を背にして屋敷を建てるなど、正直他国や他領から見れば攻めて落としてくださいと言ってるようなものだ。
詳しく説明することもできるが、今はそれほど重要なことではないので捨て置いてもらう。


森と屋敷庭の境界をつけるように生え揃えている生垣にしゃがみ込むと二人もそれに習う。
何分此処からは時間との勝負なのだ。長くなり過ぎた休憩で最悪『詰んでる』場合もある。小声でしかし知らず、早口で話す。


「…いいですかルード様、ガド様。私は今から一度屋敷へ戻ります、その際此処で気配を消していてください。森が存在する関係上裏門は当家にありません。が、間違ってもお二人だけで我が屋敷の正門を越えようとなさいませんよう特にガド様」

「うっ………なんで俺だけ…‥、了解」


「それから、」

出る方法ですが、とそこまで言いかけてシェイラはハッとした。またもや重要なことを失念していたことに気づいたからだ。
いつも自身が屋敷を抜け出す時には魔法を使っているのだ。
他国の、それも皇帝に近しい人間に知られることの不味さは十分理解できる。しかし。

シェイラは二人を。特に自身に隔てなく接してくれたルードを信じてみることにした。


「…どうした?」

「いえ、問題ありません。兎に角すぐに戻って参りますのでそれまでどうかご辛抱を」

「いやそれはいいが、何処からどうやって出るつもりだ」

「どうやっても何も、正面から堂々と出ますわよ?」

「「…え。」」


ささやかなお楽しみです。そういってシェイラは悪戯を思いついた子供のようにふふっと小さく笑った。
しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

処理中です...