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第一章 出会い編
第6話 森の迷子は一人じゃなかった②
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「先程は大変、失礼した。俺はルード。
こっちの筋肉達磨なおっさんがガド。
カリス帝国の、まぁ皇帝がトリアドス王国各領地の学園や治療院など所用施設に友好アピールの為に視察巡りしているんだがな?ここの隣の領地から先乗りで領内を見る役目を仰せつかってな。」
「今紹介に預かったガドだ。
言っとくがまだ29歳独身の男前で断っじておっさんではないからな?
丁度境界付近より広がるこの森がこちらの領内へと伸びているのにこのくそガ…ルードが目をつけてなぁ。んで、“森を通り抜けて近道し、領内に入る”なんてことを言い出しやがった挙句がこのザマってわけだ。つまりは森で迷子な?…たく、よく知りもしない森に何の下見も無しに入るのはやめた方がいいてあれ程忠告してやったのに聞きゃあしねぇんだよこいつ」
始まった自己紹介と思いがけなくも詳しい説明に、そして何よりも先ほどまでのルキア語ではなく、この領地の所属する国ートリアドス王国の主国語であるアルギス語を流暢に話す二人にシェイラは(はなせるじゃないですか…)と湧き上がった呆れに脱力してしまった。
最も一番呆れたのは二人が今し方話した内容にあるのだが(主にガドというらしいおっさ…いや、男性のもの)。
「我が母国語を使ってのご挨拶と丁寧な状況説明を有り難う御座います。
申し遅れましたがこの領地の領主の娘、レイランドルフ伯爵家のシェイラと申します。」
え、と二人が僅かに驚いたのがすぐに分かったが、恐らく
(え、その容姿と身なりで??)
との驚きだろう。想定の範囲内ですとも。
「…領主の、娘?」
「…てぇことは、伯爵令嬢?はぁぁ??うっそだぁそんな成りで!?」
「!おいっバカ!!……重ねて失礼した、レイランドルフ伯爵令嬢」
「いえお気になさらず、どうかシェイラ、とお呼びください。おそらく誰の目にもこの身なりでは令嬢には見えないと思いますので。決して我が伯爵家が貧乏だとか領地で内乱の末に命辛々追われているとかそんな心配はございませんので。言うなれば家庭における諸事情ですわ」
貴方方にもあるでしょう?人様に簡単に言えない、“諸事情”というものが。
僅かに目を眇めながらも笑顔を崩さず暗に詮索するな、と告げるシェイラの態度に軽く息を飲んだのはガドだけだった。ルードはそんなシェイラの様子に何事かを考える素振りを見せたが、それもほんの僅かな時間。
すぐに控えめの笑みを浮かべ
「まぁ気になるには気になるが。気にするなと言われれば気にすることもないことだな」
「…そんなモンか?」
「そんなモンだガド。そんなことより俺たちが気にするべきはどうやってこの森から脱出するか、だろうが」
「ま、たしかにな」
「………。」
正直、シェイラは驚いていた。
シェイラのこの身なりを見たものは貴族、商人問わず皆見下したり蔑んだりとまともな態度を取った試しがなかった上、たまに他国から流れてきた商人に話しかけられても、口調やその目にありありと同情が透けて見えた。
なのに。
ルードと名乗るこの男には、それがなかったのだ。
何故かそれがとても心地良く、知らず僅かに表情を和らげる。
「要するに、お二人はこの森を抜け出したいのですよね?それも我が領内に」
「…ああ」
「そういうことだな」
「一つ。仮に私の案内で領内に抜け出すことができたとして、街に至るまで私の指示に従って行動すること。
二つ。街に出、貴方方のお仕えされる御方方とともにこの国の貴族と交流を持っても、私と接触したことをその交流の場で話さないこと。
この二つの条件を守って下さるのなら、この『迷いの森』からの脱出に協力しますわ」
如何ですか?と促すシェイラの提案に
「「よろしく頼む(わ)、シェイラ((嬢)ちゃん)」」
間髪入れず即答を返してきた二人の潔さに、ふふ…、と思わず笑みが洩れた。
くるりと身を翻すと
「ではついてきてください。決して逸れることの無きよう…。
此処は『迷いの森』。逸れれば、もしかすると永遠に彷徨い続けることになるかもしれませんよ?」
(ちょっと芝居がかり過ぎたかしら?まぁでも)
こんな会話も、偶には良いものかも、しれませんわね。
そんな、シェイラにしては些か浮ついた、しかし確かな喜びの感情を心の中で滲ませながら。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
道中、勿論。
「ああそう言えばガド様。先程の話について恐れながらも一つ、忠告を。」
「あ?」
「他国でどのような取り決めがなされているのかは存じませんが。我が国では領地から領地へと移る際境界の決められた検問を身分を問わず通過せねばなりませんし、それ以外のルートでの移動•移領を試みる、又は実行した者には厳罰に処されます。今後、軽々に森から他領に、などという話も行動もなさいませんよう」
「「げ」」
「ふふふ…。
お二人共、此処で出会ったのが領主の娘の私で良かったですね?」
「「………ああ(違いねぇ)」」
先程の二人の会話内容の不味さを指摘することも忘れない、どこまでも領主の娘のシェイラであった。
こっちの筋肉達磨なおっさんがガド。
カリス帝国の、まぁ皇帝がトリアドス王国各領地の学園や治療院など所用施設に友好アピールの為に視察巡りしているんだがな?ここの隣の領地から先乗りで領内を見る役目を仰せつかってな。」
「今紹介に預かったガドだ。
言っとくがまだ29歳独身の男前で断っじておっさんではないからな?
丁度境界付近より広がるこの森がこちらの領内へと伸びているのにこのくそガ…ルードが目をつけてなぁ。んで、“森を通り抜けて近道し、領内に入る”なんてことを言い出しやがった挙句がこのザマってわけだ。つまりは森で迷子な?…たく、よく知りもしない森に何の下見も無しに入るのはやめた方がいいてあれ程忠告してやったのに聞きゃあしねぇんだよこいつ」
始まった自己紹介と思いがけなくも詳しい説明に、そして何よりも先ほどまでのルキア語ではなく、この領地の所属する国ートリアドス王国の主国語であるアルギス語を流暢に話す二人にシェイラは(はなせるじゃないですか…)と湧き上がった呆れに脱力してしまった。
最も一番呆れたのは二人が今し方話した内容にあるのだが(主にガドというらしいおっさ…いや、男性のもの)。
「我が母国語を使ってのご挨拶と丁寧な状況説明を有り難う御座います。
申し遅れましたがこの領地の領主の娘、レイランドルフ伯爵家のシェイラと申します。」
え、と二人が僅かに驚いたのがすぐに分かったが、恐らく
(え、その容姿と身なりで??)
との驚きだろう。想定の範囲内ですとも。
「…領主の、娘?」
「…てぇことは、伯爵令嬢?はぁぁ??うっそだぁそんな成りで!?」
「!おいっバカ!!……重ねて失礼した、レイランドルフ伯爵令嬢」
「いえお気になさらず、どうかシェイラ、とお呼びください。おそらく誰の目にもこの身なりでは令嬢には見えないと思いますので。決して我が伯爵家が貧乏だとか領地で内乱の末に命辛々追われているとかそんな心配はございませんので。言うなれば家庭における諸事情ですわ」
貴方方にもあるでしょう?人様に簡単に言えない、“諸事情”というものが。
僅かに目を眇めながらも笑顔を崩さず暗に詮索するな、と告げるシェイラの態度に軽く息を飲んだのはガドだけだった。ルードはそんなシェイラの様子に何事かを考える素振りを見せたが、それもほんの僅かな時間。
すぐに控えめの笑みを浮かべ
「まぁ気になるには気になるが。気にするなと言われれば気にすることもないことだな」
「…そんなモンか?」
「そんなモンだガド。そんなことより俺たちが気にするべきはどうやってこの森から脱出するか、だろうが」
「ま、たしかにな」
「………。」
正直、シェイラは驚いていた。
シェイラのこの身なりを見たものは貴族、商人問わず皆見下したり蔑んだりとまともな態度を取った試しがなかった上、たまに他国から流れてきた商人に話しかけられても、口調やその目にありありと同情が透けて見えた。
なのに。
ルードと名乗るこの男には、それがなかったのだ。
何故かそれがとても心地良く、知らず僅かに表情を和らげる。
「要するに、お二人はこの森を抜け出したいのですよね?それも我が領内に」
「…ああ」
「そういうことだな」
「一つ。仮に私の案内で領内に抜け出すことができたとして、街に至るまで私の指示に従って行動すること。
二つ。街に出、貴方方のお仕えされる御方方とともにこの国の貴族と交流を持っても、私と接触したことをその交流の場で話さないこと。
この二つの条件を守って下さるのなら、この『迷いの森』からの脱出に協力しますわ」
如何ですか?と促すシェイラの提案に
「「よろしく頼む(わ)、シェイラ((嬢)ちゃん)」」
間髪入れず即答を返してきた二人の潔さに、ふふ…、と思わず笑みが洩れた。
くるりと身を翻すと
「ではついてきてください。決して逸れることの無きよう…。
此処は『迷いの森』。逸れれば、もしかすると永遠に彷徨い続けることになるかもしれませんよ?」
(ちょっと芝居がかり過ぎたかしら?まぁでも)
こんな会話も、偶には良いものかも、しれませんわね。
そんな、シェイラにしては些か浮ついた、しかし確かな喜びの感情を心の中で滲ませながら。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
道中、勿論。
「ああそう言えばガド様。先程の話について恐れながらも一つ、忠告を。」
「あ?」
「他国でどのような取り決めがなされているのかは存じませんが。我が国では領地から領地へと移る際境界の決められた検問を身分を問わず通過せねばなりませんし、それ以外のルートでの移動•移領を試みる、又は実行した者には厳罰に処されます。今後、軽々に森から他領に、などという話も行動もなさいませんよう」
「「げ」」
「ふふふ…。
お二人共、此処で出会ったのが領主の娘の私で良かったですね?」
「「………ああ(違いねぇ)」」
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