出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

第3話  出涸らし令嬢、森で迷子と出会う①

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朝から何やかんやあったが、一先ずうるさい人達は去った。

(厄介な人達は出掛けてくれたけれど、…今日は3時間が限度ですわね)

今日二人は遅く出て行ったが、帰りの時間が遅くなるわけでも、ましてやシェイラ自身の仕事が減るわけでもないため、逆算して自身が得られる自由時間を弾き出し、ボロ服の裾を翻し足早に自室へと向かった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


本を片手に使用人口から屋敷裏へと出たシェイラが真っ直ぐ足を進めたのは敷地裏から他領の境界まで延々と広がる森。領民や他領の人間から“迷いの森”と呼ばれるそこは、名前の通り、ある一定の深さまで森に入ると途端に方向感覚が狂うのだ。
地元の領民すら足を踏み入れないその森奥へと、しかしシェイラは躊躇無く歩みを進めていく。迷う素振りも見せずに歩き続けること十五分ほど。
突如樹々が途切れ視界が開けるとそこには、透き通るほど澄み切った蒼さが太陽に反射してキラキラと輝く、美しい湖面が広がっていた。


湖の縁前までやってくると、んんん~!と両手を上げ伸びをする。


「やはりここはいつ来ても癒されますわぁ~……。……さて、と」



ひとりごちるや、そばにずっしりと鎮座する平面の岩にヒョイと腰掛け,徐に本を読み始めた。
家庭教師も付かず、学園にも通わせてもらえないシェイラの唯一の勉学の時間がこの森の休憩時間だからだ。初めの頃こそ獣に襲われないかとヒヤヒヤしたものだが、9年間も通い続けて勉学に励んでいる身としては慣れたものだ。

今日の本は『歴史全書』
各国の近年までの情勢や関係、信仰の有無などが辞書のように記載されているこの本は、父の書斎から少しずつ持ち出しているものだ。

ロザベラ達は元より本などに興味などない上、そもそも入れないのだ。生前母が父の書斎に娘の教育の為と買い揃え押し込めた本は多岐にわたる。
マナー本や各国言語本や読み書き本ダンス教本(因みに全て図解付きである)等。それに加えて父所有の政治学や貴族年鑑、経済学、農業改革考案本と言った領地経営や政治的にも重要な希少本がずらりと並ぶその本棚の本を、シェイラはこの9年間でほぼ全て読破している。
更には出入りする商人達やあの四人外出中にこっそり街へ繰り出し他国からの旅人や商人・貴族の会話や仕草を記憶しながら自らが学んだ言語や所作の知識とすり合わせていった為、今ではマナーは勿論、言語の分野では6ヶ国語を操れるまでになっていた。

そんなシェイラが現在読み耽っている『歴史全書』、その巻末に近い部分に、今朝方耳に入れたばかりの皇帝の国『カリス帝国』について数ページに渡って書されていた。

帝国というだけあり、元は様々な国を飲み込んで大きくなった大国であり、様々な人種や信仰をが入り混じる。(いわゆる多国籍群、というやつかしら)そんな中でも皇族より脈々と伝わる聖獣信仰というものがあるらしいが、何分皇族の関わりが深いのか、詳しく記載されていない。

興味を惹かれた話題だけに少々残念に思っていると、突如背後でザザ……と枝葉が何かと擦れ揺れる音がしてハッとする。

(しまった!この9年完全に失念していましたわ!!)


シェイラは確かに失念していた。ここは屋敷裏に広がっているとはいえ、林では無く他領境界までひろがるそれなりに広大な森、そんな森に獣や生息する生息しない筈がないということを。初めの数年で獰猛な獣に対する警戒心は消え、最近では全く辺りを注意することがなくなっていたのだ。

大切な本を片手に抱え込み、いつでも逃げれるよう慎重に腰を浮かせる。


ザザ…………ザザザ……ザザ…

(いざとなれば魔法で、)

あまり生き物を傷つけるためには使いたくないが、と段々こちらに近づいてくる枝葉擦れの音の発生方向を睨み付けつけていると。



ザ……!


「え?」

「は?」


「「………………。」」


飛び出してきたのは獣ではなく、人間の男だった。


そう。
シェイラはもう一つ失念していたのだ。
ここがただの森ではなく、

』なのだということを。


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