出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

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第一章  出会い編

第2話  会話は副音声とともに②と悪女達の高笑い

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忙しい、遅刻するなどと言いながら、彼女達が玄関に姿を現したのはそれから2時間も過ぎた頃だった。


完全に遅刻だというのに何が楽しいのか、音の外れた不快な鼻歌とともに螺旋階段を駆け下ってきたミラベルは、シェイラを視界に入れるとニタァ…と令嬢らしからぬ下品な笑みを浮かべ、馬車に向け玄関を出る際すれ違いざまに宣う。

「かぁわいそおなシェーイーラ!いや、今日は特別にお姉様とお呼びして差し上げますわぁ…。」

「恐れ多いことでございますお嬢様(う~ん…この子にお姉様呼ばわりされるのは正直遠慮したいのだけど)」

「うふふ!本当でしたらわたしと同じく学園に通われている歳のはずなのにその出涸らしぶりのせいで通えないどころか使用人くらいしか使がないなんてねぇー?」

「本当ですわお嬢様!こう言ってはなんですが侍女である私やフィオレから見ても本当に愚図で使い勝手の悪い無能…ミラベルお嬢様もこんな役立たずをお姉様などと、そのような事を言ってはお嬢様が汚れてしまいますわ!!」

「まあぁ、ありがとぉオルガ!でもね、今日だけは許してあげて?今日はお姉様とは違って明るく美しい私に、とっておきの良い出会いがあるはずなのだもの。何せ、今日は!午後にかの有名なカリス帝国より皇帝であられるベルナード陛下御自ら我が国の学園に視察にいらっしゃるのよ!!」

「まあああぁっっ!!!」

「はぁ、左様ですか(ふーん。カリス帝国のベルナード陛下…ベルナード・イグニス・カロル・カリスティリア、だったかしら)」


かつて度重なる王位争いからなる血で血を洗う暗殺合戦を華麗にくぐり抜け、それとともに荒れた国内を速かに収めて経済面をすら立て直した、ーカリス帝国の『英雄王』。
 先皇と前皇妃は存命だが、その他いた数多くの側妃や皇女皇子達が彼と病弱だった末の皇子を除いて全員死んでいることから、一部他国では『虐殺帝』とも揶揄されているとか。


(でもって確か、物凄い美丈夫って話もありましたわね?)

しかしそれが何故彼女に素敵な出会いをもたらすことに??などと疑問符を浮かべていると、ふふん!と見下した笑いとともにとんでもない発言がミラベルの口から飛び出した。


「わかってなさそうなお姉様にも判るように教えてあげるわ!今日私はそのベルナード陛下に見初められて婚約者となり、今月末に王都で開かれる王家主催の大夜会でエスコートをして頂くの!未来の正皇妃となるのよ!!!」


「………………。っっっ!!??」


「そうよベル、未だ独身のかの君は貴方のような身も心も美しい娘を人目見れば必ず求婚されるわ。何処かのみすぼらしい出涸らしとは訳が違うんですもの!!間違いないわ!!」

「!???」

「「そうですそうです!!そうに決まってますわ、奥様お嬢様!!!」」


「……………。
 ………。
 …(こいつら正気か、ですわ)」



想像を絶する、脳内お花畑ぶりである。






「さぁさ、ベルも貴方達もそろそろ出なければ。こんな出涸らしにどれ程話したところで理解などできようはずもないし時間の無駄だわ!貴方の未来の旦那様に出会うために遅刻は宜しくなくってよ!!」

「「「はいお母様((奥様))」」」

「…いってらっしゃいませ(良いから早く行ってくれ、ですわ)」

「…わかっているとは思うけれど、街に出る事は許さなくってよ?大人しく屋敷の埃でも取ってなさいな!」

「承知しております(だから早く行け、ですわ)」


おーほっほっほっおっほ!!!と高笑いを敷地内に響かせながら去っていく二台の馬車を見送りながら。
無駄と知りながらも、シェイラは口に出さずにはいられなかった。








「やってらんねぇ」



 あら、またしてもはしたない言葉遣いを……私ったら。


シェイラの心情とは正反対に、空はどこまでも澄み切って青く晴れ渡っていた。
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