出涸らし令嬢は今日も生きる!

帆田 久

文字の大きさ
上 下
2 / 161
第一章  出会い編

第1話  会話は副音声とともに

しおりを挟む
「ちょっとシェイラ!何よこれこんな冷めた紅茶を私達に飲ませようだなんてどう言うつもり!?」

「申し訳ございません(ハイハイいつもの難癖でございますね)」

「ベル、朝からそう怒鳴るものではないわ。でもそうねぇ…レイランドルフ伯爵夫人たる私とその愛娘であるベルにこんな粗末な紅茶しか用意出来ないなんて。見た目と同じで本当“出涸らし”ね」

「大変申し訳ございません(一応それ、逸品で知られるザフツブルグ公国から輸入した高級茶葉を適温で淹れたものなのだけど)直ちにお口に合うものを入れ直して参ります(格安品で良いわよね)」

「もう良いわ!私今日は朝から出掛けますの。貴方がのろのろとお茶を入れているのを悠長に待ってあげる程暇じゃないのよ?ベルだってもう学園に行かねばならない時間ですし、さっさとここを片付けなさい!」

「そうよそうよ!あんたのせいで学園に遅刻したらどうしてくれるの!あんたと違ってわたしもお母様も忙しいんだから、さっさと御者に馬車を支度させておいて頂戴!!」

「はい、直ちにご用意致します(時間ギリギリなのは自分達の寝坊が原因でしょうに)」

「ちゃんと二台用意なさい」

「………かしこまりました(今日は愛人の所、ね)」

ぎゃあぎゃあと、それこそ朝から喚き立てる二人に無感情に返事をしながら、シェイラは今日も今日とて絶賛副音声実況中(頭の中)なのである。
 足元荒く支度をしに部屋へと向かう二人の後ろには侍女が二人、ピタリと寄り添っているが、二人もチラと背後で片付けに追われるシェイラに視線を向けてはふん、と嘲りの鼻笑いを残していくのを忘れないというなかなかの玉だ。

(あらヤダ、“なかなかの玉だ”なんて少々はしたなかったかしら?)

二人はオルガとフィオレという名で、伯爵家にいた使用人達を追い出した後に、ロザベラの実家であるフォールン男爵家から呼び寄せられたらしいのだが。
 ロザベラ達のシェイラの扱いを見てとるや、シェイラ自身の身なりのみすぼらしさもあいまってか、主人達の嘲りや見下した言動を真似るようになったのだ。まぁそれも、屋敷に来て早々にしてであるからして、ロザベラ達と類友なのだろう、とシェイラの中では区切りをつけているのだが。


今日も早朝の冷たい空気の中洗濯をし、屋敷の居間と調理場にある煮炊き用の窯、食事を行う広間に存在する暖炉にこれまた外から運び込んだ薪を入れてはひを入れ焚べる。実はこの時、この世界でもあまり使い手のいない“魔法”を使って火をつけたり、洗濯の際も洗い上げた衣服やドレス、シーツなどを魔法で一斉に脱水・乾燥をさせたりして効率良く仕事をしているのだが、勿論侍女たちやロザベラたちはそれを知らない。

 というより、知られると自分達が持ち得ない力を持つシェイラを更に目の敵にするのはわかり切っているし、当主にして父のロイドが領地に戻ってこないうちにと、下手をすれば亡き者にされかねない。そう思う理由はロザベラ達の態度以外にもあるのだけれど、目下。


ぶっちゃけ面倒くさいことになるのはごめん被りたい!が本音である。



そんな訳で起きてきた料理人に調理を任せ、ロザベラ達と(何故か)侍女達を起こし、広間のテーブルを食事用にカトラリーセットし、庭の手入れをし…。そうして先程の流れに行きつきのち、急遽休暇の予定だったもう一人の若手とともに御者に声を掛けて馬車を二台用意し終えて玄関先(エントランス)にて四人(これも何故か侍女達が其々必ず同伴)がやってくるまで待機している現在に至る。
しおりを挟む
感想 608

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

私は逃げます

恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

処理中です...