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第6章 コンクール

第2話 第1次予選 2 ユウキ(受け)視点

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※エロなし

演奏後、インタビューを終えて楽屋に戻ると俺の楽譜やら荷物やらを持ったアサヒくんが待っていた

「いい演奏だったよ」

笑顔で言われて少し安心する
ドイツで幼少期を過ごしたとはいえ、海外のホールで演奏するのは初めて
初めての国際コンクールの舞台
ヨーロッパだけでなく、アメリカの音楽院からも指折りの若手ピアニストが複数参加している環境で
ひとりで参戦するつもりだったのに

────正直、助かった

ドイツにいる両親も、シゲルからもサポートに入ろうかと打診は受けた
それでも、一人で闘わなければと断ったというのに…

俺を知り、俺のの音楽を理解してくれる人がいるだけで、こんなに気持ちが違うものか

「半音階のためには、ホールへの移動で全部聴けなかったけど
ショパンのスケルツォ1番はホールの後ろ側で聴いていたけど
かなりよい演奏だったと思ったよ」
「本当?最初の音が入りきらなくて、焦ったんだけど」
「そう?決めてきたな、と感じたけどね」

俺の演奏後は90分の休憩を経て、また午後の審査だ
いつまでも楽屋に居座るわけにはいかない

「早速、練習室に行くでしょ?」
アサヒくんの手元には、今演奏したばかりの楽譜の他に2冊の楽譜があった

「いけると思う?」
次の予選で演奏予定のベートーヴェンピアノソナタ、そしてスクリャービンのソナタ
今の予選が通過できなければ弾くことはない曲だ
足早にホールから近くにある音楽院へ向かう

「いけると思うね
あの半音階を聴いて落とすのであれば、よっぽど審査員との相性が悪いってことだよ」

確かにドビュッシーの半音階は俺の得意とする種類のエチュードだった
あえて定番のショパンを避けてドビュッシーのエチュードを選んだのは、師匠の勧めもあったけど…

「まぁ、コンクールなんてもんは水物だからね
絶対なんてことはないよ
でも、2次予選に進める可能性は高い
であれば、今からでも練習すべきだ」

目の前にある背中を見つめる
きっぱりと語るその言葉は、2年以上前、付き合っていた時と変わらない頼もしいもの────

予備予選に通過した参加者コンペティターが第1次予選の演奏順の抽選をするために集まる会に
ひょっこり現れたアサヒくん

前回大会で第3位入賞を果たしたアサヒくんには、招待状が送られていたらしい
師匠から俺が参加すると聴いていたから、と、その手には俺の演奏予定曲の楽譜を携えられていた

正直アサヒくんのコンサート後の楽屋で、これっきりと思っていた俺は、最初敵対心を持っていたものの
そんなことはお構いなしに抽選会を終えた俺について練習室に向かい
開かれた楽譜に愕然とした

そこには、師匠からヒアリングした俺の弱点や、決め所についてぎっしりと書き込まれていたからだ

「コンクールは、ここからが本番だよ」

振り返って向ける笑顔は、憧れ続けたアサヒくんそのもの

(…なんで今さら…)

まるで数カ月前の言葉がウソだったような態度と行動
同じ楽器を演奏するからこそ理解してもらえるという安心感

しかも…同じコンクールの入賞者だし…

心細さも相まって、頼ってしまっている自分はズルイ人間だろう

でも…

音楽院の中にある練習室で、一緒に目指す音楽を作り上げていく心地よさがもう少し続くことに
心が満たされていく自分がいるのは否定できない

(あの頃には、もう戻れないのに…)
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