狼は野性を貪りたい

玄狼黒鉄

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10 館と狂犬

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「ほんとお前がいると助かるよ」
「脳みそ湯だってる奴しかいないからある意味助かるな」

 皮肉たっぷりで返すヴァルカは、館の所有権利証を貰いながら、美味しい食事を奴隷たちと共に楽しんでいた。

「あぁそうだ。あんたにまたいつもの奴隷商が呼んでたぜ」
「今度はなんだよ」
「いい奴隷が入って来たってよ。まったく…最近は人間も獣人もある程度和解してるってのに、奴隷制度はなくならないもんだな」
「んー…俺としてはよっぽど酷い扱いしてなきゃ別にって感じかな」

 事実ヴァルカは三人の奴隷を囲い、時に仕事の手伝いをさせ、時に甘い情事に勤しむ。女の奴隷に関しては買い手が多いのも事実。実際「女は大事にするもの」っつー風潮で、女は大体買われて大事にされてるか、それか奴隷商の壊滅を狙ってる過激派もいる。
 そんな中、男も女もしっかり躾けて従順な奴隷に仕立て上げる奴は、ある意味恐ろしい。何をしてくるか分からないのが現状。
 だから利害関係の一致という繋がり程度の方が楽なのだ。

「んじゃ、俺はそいつんとこ行くかな…。あ、お前らは採取頼むぜ。今回はギルドに提供する分多めにな」
「「「了解」」」

 レオルドは三人の中でも腕力自慢だから、重いものを運ばせるにはうってつけ。ゲオルグは傭兵だった時の経験から、植物や生物に関する知識や、生活環境に関する経験が豊富だ。カイウスは人当たりがいい好青年で、交渉事の時には適格なアドバイスをくれる。商才が少しあるようで、資産管理が得意なようだ。
 三人の御陰で、大分負担が減っている気がする。まぁ、館や土地で生活するとなると、人材はやや足りなくなるかもしれないが…。

 奴隷たちを見送りつつ、俺も目的の場所に行く事にした。

―――――
「お、来ましたね?」
「来たぜ狸野郎。どんな奴捕まえて遊んでんだ?」
「いやぁ、それがまた遊ぶに遊べないんですよ」

 おどけたように喋るこいつはいつも通りだった。

「これがまた気が荒すぎて、縄で縛っても引き千切る、近付こうなら噛み千切られそうになる、散々ですよ」
「へぇ…そんな狂犬くんは今どうしてる?」
「今は鎮静薬で大人しくさせてますが…薬が切れたらどうなるやら。おおコワイ。」

 狂犬。なんだかいい響きだ。気性の荒い犬ほど、交わりたくなる。昼も夜も忘れて交尾の日々。…たまらん。

「んで、おいくら?」
「流石にねぇ…売っても値打ちがつくとは思えませんがね」
「んじゃー俺に任せろ」
「えぇ。ご随意に」

 狂犬がいる鉄格子の前に案内される。そこにはやや夕焼けに近い金髪の青年が、横たわり眠っていた。…薬か疲れか。

 俺が近付くと、急に飛び起きた。…かと思いきや、強烈な憎しみの籠った瞳で見つめ、唸りをあげた。

「…大丈夫。俺は酷いことしないよー」

 襲われるのを覚悟の上で鉄格子の内側に入り、彼に近づく。…今に飛びかかりそうだった。

「ほら、外してやるから待ってろ」

 足の枷を外す。足は細くも脆弱なものではない。引き締まった獣の足だ。瞬発力に特化しているであろうそれは、芸術的でもあった。

「…」

 無言。…いや、匂いを嗅いでいる。

「んー?どうした」
「…」

 突然俺の髪に顔を埋めて、匂いを嗅いでる。…もしかして、精液臭いの、ばれてる?

「…ん」

 そしてお座りのポーズ。…あれ?

「…」

 そっぽを向かれた。んーなんだろ。

「服着て外出るぞー。」
「…おぅ」

 どうやら今は大人しいようだ。…聞いた限りじゃ結構狂暴らしいけど…。

「(…一体こいつどうなってんだ)」

 嫌な予感が残るまま、ヴァルカは新たな奴隷の鎖を手に館へ向かうのだった。

「(ま、俺にしてみれば濡れ手に粟みたいなもんだが)」
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