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第32話 初恋の相手

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 新の言葉を聞いた直樹は性急だった。愛するベータを抱き上げて、大股で主寝室に連れて行く。新をベッドのへりに座らせて、直樹はその前に片膝をついた。
「結婚指輪を出してくれ」
 新はいつも身につけているケースを取り出した。直樹が右手で指輪を取り、左手で新の左手を取った。ゆっくりと指輪が薬指の上をすべっていき、薬指の付け根で輝いた。新は瞬きもせず、夫が自分の左手の薬指に結婚指輪を嵌めるのを見つめた。
 
「新はいつも、俺が運命の番のオメガに出会ったら、お前を忘れると言って俺を拒んだ。今夜、律のヒートに揺らがなかったことで、俺はお前への愛を証明できただろうか」

 真顔で尋ねる直樹を見下ろして、新の唇は何か言いたげにわなないた。でも溢れ出す感情が大きすぎて、何も言えなかった。
 どんなに好きだと言われても、アルファである直樹がベータの自分を選ぶことはないと思っていた。本来の相手であるオメガが現れて、直樹を奪っていくに違いないと決めつけていた。
 間違っていたのは自分のほうだ。
 この家に初めて来た時、直樹は「ベータの新を、自分を裏切ったベータの両親に重ねていた」「認知のゆがみがあった」と頭を下げてくれた。でもそれは自分も同じなんじゃないだろうか。アルファはオメガしか愛さない、運命の番には逆らえないって、思い込みで決めつけていたんじゃないだろうか。

「ええ。俺が間違っていた。直樹、ありがとう」
「それならもう結婚指輪は外さないでくれ。別居婚もやめて、ずっとこの家で、俺の隣で暮らしてほしい」
「ずっと?」
「ずっとだ」
 アルファは真剣すぎて怖いほどだった。
「はい」
 新が頷く。直樹は止めていた息を深く吐き出した。
「よかった。もう新が出ていく姿を見送らなくていいんだな」
 隣りに座ったアルファに力強く抱き締められる。彼が少し震えているのを感じて驚き、新も彼を抱き締めた。
「ごめんなさい、あなたを信じられなくて」
「いや」
 直樹は少し体を離して目元を和ませた。
「十年前に出会った新が、俺の初恋の相手だった。あのときのお前はチョーカーをつけていたから、律だと思っていたんだ。ずっともう一度会いたいと願っていた。それなのに、結婚を目前にしてあの少年を奪われて……新が許せなかった。許せないのに夢中になってしまって自分が信じられなかった」
「はい」
 その気持ちは新にも理解できた。
「新に、いつか俺はオメガを選ぶと言われるたび、それは絶対あり得ないと断言できなかった。でも今なら断言できる。俺には新だけだ。もし中野家が新を取り返そうとしてきたら、全面戦争をしかける」
「やめてください!」
 悲鳴を上げる新に、直樹はゾッとする笑顔を浮かべて、愛するベータの頬を撫でた。
「俺は本気だ。新にずっとここにいてもらって、幸せな笑顔を見せてもらうためならなんでもする」
「それなら中野グループを繁栄させるために、あなたの力を貸してほしいと言ったら……してくれますか?」
 おずおずと尋ねると、たまりかねたようにアルファは中野家の令息を抱き締めた。
「もちろん! 俺の全ては、命もお前のものだ、新」
「直樹……」
 新はスーツの上からでもわかる、たくましい夫の背筋をゆっくりと撫でおろした。腰から太腿へと手のひらを滑らせると、直樹は新の手を掴まえて、服の上から自分の高ぶりを握らせた。直樹の、アルファらしい長大なものはすでにガチガチになっている。新は熱い吐息を漏らしながら、大好きな夫のものを撫で回した。
「直樹をください。ベータの男の俺の体には難しいかもしれないけれど、亀頭球まで全部受け入れて、お腹の中を直樹でいっぱいにしてもらって、奥まで突いてほしい、あっ!」
「新」
 軽く抱き上げられ、服の上から焦れたように肛門をまさぐられる。震える男の体を抱きながら、直樹は新の耳たぶを舌でなぞり、首筋を吸い上げた。
「避妊具なしで何度も中出しさせてくれ。可愛い新のお腹の中に俺の子種をいっぱい塗り込んで、亀頭球で栓をして、フェロモン漬けにしてしまおう。そうすれば誰も新に近寄れないだろう?」
 目が笑ってない笑顔は、あまりに恐ろしかった。新婚旅行中にフェロモン漬けにされたときですら、避妊具はつけてくれていたのに。恐ろしいはずなのに、後孔がきゅうっと締まる。新は何も言えずに自分の夫にしがみついた。

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