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サユリがいればいい。

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正門前は、登校してくる生徒達が増えて来るに従って大きな人垣となっていた。

こんな綺麗な人間見たこと無い!

テレビなんかでも見たこと無い!

同じ人間でどんだけ違うんだろ❓

彼氏がクソに思える。

女よりキレーな男なんて反則じゃん。



その場にいる一同、いろいろな想いでギリシャ神話の美少年を前して暫くして、つりぎみの切れ長の瞳がゆっくりと周りを見回し、やがて気難しいげにその魅惑的な唇が開いた。

「おい、誰かサユリを呼んで来い!」


やはり、すがたかたち同様美しい声である。

が…

やや低めに不快感を全面に出した言葉。


水を打ったような静寂の後…。
遠慮がちに、呟かれる「サユリって誰❓」


「杏里様、もう暫くお待ちくださいませ。小百合様は只今、生徒会活動中との事でございます。」
黒服の執事が杏里に囁いた。
そして、「ここは、公共の場であります故、大人しくお待ちくださいませ。」

その言葉で少年はみるみる顔色を変えた。

「誰に向かって言っている?大人しくしろと?
お前、なにさまだ?」

「わたくしは、結城家の執事でございます。杏里様。」
執事は、30代半ばぐらいの細見のインテリ風だった。
「もういい、お前帰れ!」

杏里は、執事に向かい投げやりの言葉を返した。
「お言葉ながら、わたくし、結城家当代当主比呂様より命じらております。 」

「私の命令が聴けぬと?」

「はい、わたくしの主人は比呂様でございますゆえ。」
何事もなく平然と執事は答えた。

「うるさい❗」

執事に尚も悪態をつくと、また学園の方を見て大声で言った。

「サユリ、いつまで私をこんなところで、待たせるのか?  早く来い!今すぐ来い!」

不快感あらわなギリシャ神に、今度は執事も知らん顔で控えている。
周りの生徒達は、どうしたら良いか解らない様子でただただ茫然としていた。

杏里もじっと学園を睨んで立ち尽くしていた。


それからほんの間もなくした頃、学園長代行の女教頭が誰かしらにこの騒ぎを聞いたのであろうか真っ青になり走ってきた。学年主任ふたりもその後を走ってきた。

「これはこれは、結城様。お早いお着きでお迎えも出来ず失礼しました。どうぞ、お許しくださいませ。」
何時は生徒達を上から目線でしか見ない教頭が、下から目線?いや低姿勢である。
そんな姿にもその場にいた生徒達は驚き、杏里が結城家の人間であるのにも、今更ながら気付いた様子だが、この非日常を完全に理解出来ていなかった。

「今日は学園長不在ですので、わたくし教頭の花岡がこれよりご案内致します。」

あくまで低姿勢で花岡教頭は、杏里に頭を下げる。

「良い下がれ!サユリを呼んで来い!」
あくまでも、不機嫌極まりない様子で言い放つ。

一瞬、教頭の顔色が変わったのが、その場にいた生徒全員に判った。

小百合様におかれては、早朝より生徒会室で執務中でございます。わたくしが小百合様の元にご案内申し上げます。」
冷や汗をかきながら、しどろもどろの言葉だった。
その必死の言葉も言い終わらないうちに、杏里は追い打ちを花岡にかけた。

「よい、サユリを呼べ!」

凍りつく程の冷たい言葉に、周囲の温度も下がった気がする。


「サユリって、生徒会長の名前じゃない?」
誰が呟いてる。
結城 小百合、私立白百合学園生徒会長で白百合学園の創始者一族であり、世界的大企業結城インターナショナルのCEO結城比呂の姪である。

その場のギャラリーが、先程より倍になろうかとする頃だった。
学園の方から、生徒会役員を引き連れた結城 小百合がやって来た。

「ごきげんよう。皆様、ごきげんよう、教師先生、先生がた」
生徒会長はいつものに優しく優美に皆にあいさつをした。

「お、お早うございます、結城様」
教師はしどろもどろで、小百合に頭を下げた。

「お早うございます。生徒会長!」
「お早う、生徒会長!」
生徒達も小百合に挨拶をした。

「遅いぞ、サユリ!」

ギリシャ神は、やっと会うことの出来たサユリに言い放ったが、先程までの冷気消えていた。

「教頭先生並びに先生がた、そして朝の正門でこんな騒ぎを起こしてしまったて、生徒の皆様本当にごめんなさい。」
小百合は、杏里を無視して続けた。
「今日よりこの学園、高等部2年に編入する結城 杏里です。ご覧の通り、世間知らずですが、よろしくお願いいたしますね」

小百合は皆に杏里の紹介と詫びを言うと、元来た校舎に杏里の手を引いて戻っていった。
その後を、生徒会役員達が追いかけていく。

「おい、サユリ! 痛いぞ!」

「大人しくする約束だったわよね!編入早々、あなたという人は!」

「私をはなにもしてないぞ!周りが勝手によって来ただけだ!」
自分をあくまで正当化している。
小百合は、こめかみに手をやりながら頭を横に降る。

「まあ、いいわ、これからがあなたの高校生活だものね。これから成長すればいいわ!」
 
呆れたように、いや、慈悲深いマリアの様に、杏里にだけ聞こえるように囁いた。

「私もまあ、いい!  退屈な日本の学校なんか来たくは無かった! まあいい!サユリがいればいい!」

小百合に連行されながら、杏里は周り全部に聞こえるように言い放つ。
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