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 ドラクロン王国へ出立の日がきた。天候は晴れ、夜の内に砂漠をでて、国境を超えて、ドラクロン王国へ入る予定だ。砂漠の生活にも慣れたリズは、なんと、駱駝に1人で乗れるようになっていた。

「リュカさん、ほら、もう僕、駱駝に乗れるんです」

「うん、でも心配だから一緒に乗るけどね」

リュカが、サッと駱駝にのる姿は様になってて、よじ登ったリズとはやはり、雲泥の差である。

「はぁ、リュカさん、かっこい」

「なに?聞こえなかった、もっかい言って」

「秘密です」

「ハハッ、リズは、可愛い」

聞こえたなと、リズは、恥ずかしくて下をく。すると、とてててと、そばにやってきたのはセルリカだった。

「リズ様、気を付けていってらっしゃいませ」
「うん、行ってくるね」

セルリカは、リズについていきたそうに、していたが、流石に皇太子一行の旅団に子供は連れていけない。

「お土産買ってくるから、楽しみにしてて」
「はい」

別れを惜しんで、セルリカが涙ぐむ。可愛いなぁと、リズは、にっこりと手を振った。リュカは、ポンとリズの頭を触ると、前方を指差した。

「んじゃ、そろそろ行く」

リュカが、大きな声で、号令をかけると、一団がゆるゆると進み始めた。こういう時、将軍だなぁとリズは思う。リュカの声は良く通るし、全責任を負ってくれるような、絶対に守ってくれるような安心感がある。信用できる人の声。そういう声は稀だと思う。リズには出せない。自分1人のことさえ、自信がないのに、人の事までなんて。だから、リュカが時々、率先して、何事も成し獲ていく姿はリズにとって憧れなのだ。

(リュカさんって、本当にかっこいい)

人知れず、頬を染めて、リズは、胸をときめかせて、好きな人のそばに有れる幸せを喜んでいた。

月夜に照らされ、旅団は砂漠を越えていく。リズは、夜空の星を見ながら、砂漠都市サララを目指して旅していた頃を思い出す。

「リュカさんと旅するの2回目ですね」

「うん」

「なんだか、もうずっと昔からリュカさんと何度も旅したような気がします」

「俺は……まだ、こうしてリズが、俺の腕の中にいるの夢かと思う時ある」

リズの心臓がどきりと跳ねた。リュカの声が耳元で、何だか切なそう。

「もしも、夢から覚めて、リズがいなかったら……気が狂う」

リュカの切なそうな瞳が、リズを、捉え、たくましい腕がぎゅっとリズの腰を抱く。リズは、ふるふると首をふってリュカにささやく。

「夢じゃないです、僕、ちゃんとリュカさんのツガイですよ、これからも、ずっと」

一団の最後尾を、少し遅れて、駱駝でゆらゆら歩くと、砂漠に二人っきりでいるみたいな気持ちになって、リズは、リュカに抱きつきたくてしかたなかった。

リュカみたいに何でもできる人が、何故自分をここまで好いてくれるのか、リズは、不思議だった。

どうしてこんなに想ってくれるんだろう、僕には何も良いところなんてないのに。容姿は兄様や姉様に劣るし、カリル家なのに銀髪じゃない、くすんだ鼠色の髪だし、瞳だって、皆は銀だけれど、自分はどちらかというと黒に近い灰で綺麗じゃない。宮廷医にもなれなかった。

オメガだから、好きになってもらえたのかな。オメガじゃなかったら好きになってくれなかったかな、と、そこまで考えてズキンと胸が痛んだ。

もしもオメガじゃなかったら、好きになってもらえなかったかも。オメガじゃなかったら、ツガイにも、なれなかったし、きっと目にも止まらなかった。そう考えると、オメガに生まれて良かった反面怖くもある。フェロモンがもっと合う人がいたら、僕なんて好きじゃなくなるかもしれない。そんなことになったら、僕。

ゼクスのオーピーアルファを皆が欲しがるという言葉は、実はリズの心を傷つけていた。リュカは、もてるだろう、皆、リュカを、欲しいとおもうだろう。こんなに素敵な人だもの。

背中に当たるリュカの身体、耳に届くリュカの声、好きが溢れて、くらくらするのに。もしかして、限りがある恋だったらどうしようと、リズは、かなしくなった。離れたくない。もうこの人を失ったら生きていけない。こんなに好きになってしまって、離したくない。

リズは、自分の腰に巻き付いたリュカの手に、そっと自分の手を重ねた。

「ずっといっしょにいたいです」

頭をこてりと、リュカの胸に預ける。リュカはそんなリズを、片腕でしっかりと抱きながら、駱駝を操る。甘えたら、甘やかせてくれる、優しい恋人に抱かれながら、二人は夜の砂漠を進む。












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