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 夜明けが近づいたのか、拠点を移す為か、男達がどかどかと、あばら家に入ってきて、女性騎士を担いで外へ出ていく。リズも、気付かれないように、男に担がれた。

男達は、女性騎士達をラクダに取り付けたソリのような乗り物へ乗せて、上に布をかぶせ、さらに木の囲いをかぶせ、その上に藁や、葉物などを置いた。

(なるほど、ここからはキャラバンのふりをするのか)

リズも、同じように、ソリに乗せられ、布を被せられた。

このままでは、本当に連れ去られてしまう。居場所は、鷹が付いてきていれば、知らせることもできるが、監視が厳しくて、鷹を呼べない。

そして、ソリの中は物凄く暑かった。これから日が昇るのに、このままでは、女性騎士達も熱中症になってしまう。

リズは、リュカの手紙を思い出し集中した。

「リュカさん、ごめんなさい、ごめんなさい、許してね」

リズの身体から、甘い香りが漂い出す。自分から誘惑香を出すのは、オメガとして産まれた人間にとって、それは最愛の人だけを射止める為のもの。

だけれど、リズは、その香りに制限をつけなかった。誰に対しても心地の良い、そしてそれは、アルファだろうとベータだろうと、誰もがリズを欲しがる誘惑香となり、少しづつ漏れだし、気づいた男は、我慢できずに、一度被せた木の覆いを取り払った。

「な、なんだ!?この匂いは!!」
「めちゃくちゃ良い香りがする」

「このソリからだ、おいどけよ」
「お前こそどけ!!俺のだ」
「こいつ、一人占めなんかさせないぞ」

あっという間に、リズを取り合い、奪い合いの争いが起き出した。

「てめーら、何を騒いでやがる!!」

お頭と呼ばれる人がとうとう、こちらにやってきた。用心深く顔を布で隠している男は、手近にいた部下を殴り飛ばした。

「チッ、誘惑香か、くそオメガめ」

リズの髪を乱暴に掴み、お頭は、リズを睨み付けた。

「おいテメェ、今すぐその香りをなんとかしろ」
「君も僕が欲しいだろう、奪い合いに参加するがいい」

脅されて、怯むどころか、リズは香りを更に出した。辺りがピンク色の霧で包まれているような現象が起きて、狂った男達が我こそはととなり同士と殴り合いをはじめた。

「僕の香りを楽しむがいい」
「貴様っ!!いい加減にしやがれ、お前ら止めろ!!正気に戻れ!!くそっ」

その時、遠くからラクダの嘶きが聞こえ、ドドドドと、迫ってきたのは、モーガン達騎士だった。

リズは、モーガン達が誘惑香を浴びないように、気持ちを整え、香りを止めた。疾風の如くやって来たモーガン達は、次々と、犯人達を倒していく。

「てめぇ、許さねぇぞ」

お頭は、リズを担ぎ上げると、馬に乗り、乱暴に鞭を打った、馬は嘶き、駆け出した。混乱の最中、まだ明けぬ暗闇の方へ、二人を乗せた馬は闇の中へと消え去った。


どれくらい時間がたったか、リズは、ぐったりとしていた。本来たった1人に向けて出す誘惑香を、複数人に対して使った代償は大きい。身体は熱く、熱を帯び、意識も朦朧としている。

自分を運んでいるのはアルファだと、直感で解る。こいつも誘惑して、足止めをと、思った時、馬の足が鈍くなった。

鷹は大きく嘶き、上空を激しく旋回する

「んな、馬鹿な、なんで」

お頭と呼ばれた男は、前方から迫り来る粉塵をみて、驚愕する。

国境間近から、サリザーラ軍が大群で押し寄せてきたのだ、お頭は逃げ場を求め、馬を蹴ったとき、真っ黒な塊が、何処からともなくやって来て、お頭の頭をザンッと鋭く打った。

ぐらりと、視界が揺れ、その黒い塊は人だったのかと理解したが、傾いだ身体は馬から墜ち、手からオメガを奪われる。砂に落ちて、お頭は手を伸ばした。

「て、めぇ、返しやがれ」
「返す?それは此方のセリフだ」

バサバサバサバサと、鷹が上空より、降りてきて、黒衣の男の肩に止まる。黒衣の騎士はお頭が伸ばした手をなんの容赦もなく踏みつけた。

「この人の誘惑香を嗅いで良いのは俺だけだ、よってお前は万死に値する」

「なっ、そいつが勝手に」

喚くお頭は、駆け寄ってきた周りの騎士達に捕らえられ、猿轡をかまされ、縛り上げられた。

「クライシス王国は法治国家だ、例え大罪人でも法がお前を裁く、連れていけ」

怒りに燃えた瞳で、黒衣の騎士は、事件の首謀者を睨み付けた。お頭は悔しげに暴れたが、兵士達に押さえ付けられて連れられていった。

「お前達はこのまま、進み、新人騎士達を助けて、無事、砂漠都市サララへ送り届けよ!!」

「ハッ!!」

黒衣の騎士が、全軍に指令を出すと、速やかに、疾風の如く騎士達は馬を操り、モーガン達のいる方向へ向かっていった。

二人きりになって、いや、肩にはまだ賢い鷹が、リズを心配そうに見つめていた。

「大丈夫、リズツーは心配しなくていい」

男は鷹の頭をなぜると、愛しい人を抱き寄せ、自分の愛馬に股がった。

馬をゆっくりと進めながら、皮袋に入った水を口に含み、そっと、リズに口付け、飲ませた。

「リズ、待たせてごめん」

ぽとりと、リズの額に何か冷たいものが落ちて、その悲しげな気配をリズは感じて、意識がないなかで、リズは、自分を抱く人がどうか、悲しまないでと願った。









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