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しおりを挟むふと、そういえば、疑問に思っていたことがあった。ついでだから、聞いておこうと、カインを見つめる。
「あのさ、えっと、ご飯って食べれるの?」
「私の血か精液をお飲みになりますか?」
「は!?いや、飲みません!!そうじゃなくて、あの普通に米とか」
「あ……なるほど、人間は食物をお食べになるのでしたね、我々悪魔は食物を食べるという習慣がございません、生き血を飲むか、性を搾取するか、低級悪魔を喰らうかでして」
「うっ!!ここにきて、やはり皆さん悪魔だ!!と改めて認識、そっか、ご飯たべないんだ」
「低級悪魔を連れてきましょうか」
「いえ、大丈夫です……水くらいはあるのかな」
「はい、お紅茶もございます、ご所望でしたら入れて参りますね」
「おお、紅茶はあるんだ、よかった、でも困ったな、今は別にお腹すいてないけど、これからどうしたら」
「私を搾取してください」
「エッ!!や、それは、その、だ、だ、だ、大丈夫」
「いつでも仰ってくださいね、ご遠慮なさらずに」
「……はい」
セックスでお腹が満たされるものなのだろうか、よく解らない感覚だ、とりあえずは食べれる木の実でも探した方が良さそうだ。まさか食事がないなんてカルチャーショック。お茶はあるのに、なんでご飯食べないんだろ。
窓から外をなんとなくみると、木に紫の果物みたいなのが実っていた。
「あ、あの、庭に生えてる木に果物がなってるけど、あれは食べれない?」
「果物でございますか?はい、食すのは可能ですが腹を満たすかと問われればあまり足しになるものではございませんが、取って参りますね」
そういうと、カインはバルコニーからひょいっと、飛んだ。ジャンプすると同時に背中から黒い羽がバサッとでてパタパタと鳥のように羽ばたいて、空中に止まる。
「すごい!!カイン飛んでる!!」
「テオドール様もできますよ?」
「えっ!!俺にも翼あるの」
「はい、もちろん、ちょっとお待ちください」
腕に6つ程の果物を抱かえて、帰ってきたカインは、テーブルに果物を置くと、羽を折りたたんだ。そして、俺の背中をサスサスとなぜた。それが、くすぐったくて身をよじってしまう、カインが俺の背中の何かを引っ張った。
「うっ!!」
夏に焼けた皮をペリペリと剥がれるような感覚があった。そのペリペリが終ると、薄い真っ黒な羽が、見えた。
「これがテオドール様の羽でございます、動かせますか?」
「えっ!?あ、ほんとだ、わーすごい!!動くって、どうやって」
「背中に意識を集中できますか?そうです、それでうまく風を掴むような感覚で、お上手です」
「わぁ、すごい、俺ちょっと今、浮いたよね!!わぁ!!わかった、こうだ!!」
パタパタと羽を動かすと、身体がふわりと浮いた。俺は楽しくて、何度も何度も繰り返し、だいぶ高く飛べるようになって屋根の上に行こうとしたとき、突風にあった。
「わぁぁっ!!」
「テオドール様っ!!」
もう少しで地面に叩きつけられる処を、カインに助けられた。冷や汗が流れる。
「あっぶなっ、ありがと、カイン」
「いえ、お怪我はありませんか?テオドール様、申し訳ございません」
「なんでカインが謝るのさ、俺が下手くそだから悪かったんだよ、ね、カイン手を繋いで飛んでよ」
「はい」
俺はカインと手を繋いで屋根の上まで飛んだ。初めてみる魔界の景色、森林が何処までも広大で、遥か奥に高い山が見える。付近に家はなく、ここはポツンと一軒立った城だった。
「魔界って広いんだね、他の悪魔は何処にいるの?」
「魔王城を中点に円を描くように、第一王家から第十三王家の敷地があり、そのさらに外に上級悪魔、さらに外に中級悪魔、さらに外に低級悪魔が暮らしています」
「そうなんだ、ぜんぜん見えないね」
「視界で見える範囲は全て魔王様の敷地でございます、そもそも魔界の全てが魔王様のものですが」
「すごい権力だな……俺なんかが信じられない」
「普通の悪魔にとって、魔王様は目通りもできぬ高貴なおかたです、我らの大切な魔王様を長く人間界などに封印していた天使を我らは許すことはできません」
ピキピキと怒りで顔が怖くなったカインに、ややびびりつつ、その手をぎゅっと握った。
「怒らないでカイン、俺は大丈夫だから」
「テオドール様……申し訳ございません」
いつもの優しい顔に戻ったイケメン執事は、俺の腰に手を回すと、さっとお姫様抱っこをして、バルコニーへと降り立った。
「さ、テオドール様、そろそろお休みになってください」
「うん、解った、明日は忙しいんだもんね」
「第一王家の若君がいらっしゃいます」
「うん」
カインは、俺が他の悪魔とカインとしたようなことをしても、なんとも思わないのかなと、少しだけさびしい気持ちになった。
(俺だったら嫌だな、カインが他の悪魔とそういうの)
かぁっと、顔が赤くなる。優しげに微笑んでいるカインに、明日もそんな顔をしたままなのだろうかと、胸が苦しいような気がした。
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