ジュリとエレナの森の相談所 ~付与の力であなたの未来をお守りします!~

芽生 (メイ)

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第23話 魔女とジョー 2

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 突然現れた黒髪黒目の女性の後ろを着いて行くと、開けた場所があり、そこには古い家があった。
 どうやらここに彼女は住み始めたらしい。
 魔女という存在をジョーは知っていた。
 数年前に王都に突然、聖女が現れた。同時に魔女も現れたと言うのだ。
 不可思議な話だが、国中が当時その話で持ちきりであった。
 
(しかし、魔女って言うのはもっとこう危険な存在じゃねぇのか?)

 前を行く女性は黒髪黒目という、この国周辺では滅多に見ない容姿であること以外、特におかしなところはない。
 目や髪の色が目立たない色であったとしても、人目を引くだろうその風貌。
 だからと言って、彼女が魔女という危険な存在には見えないのだ。

(そもそも魔女だの聖女だのって言うのも怪しいもんだ。王族やその周辺の奴らが何か企んでるんじゃねぇのか? いや、聖女は王都で評判か――じゃあ、魔女は? こいつはなんでリディルの街にいる?)

 疑問ばかりが浮かぶジョー、そんな彼を気にした様子もなく、魔女は家へと歩みを進める。
 魔女と名乗る女性はその扉を開け、ジョーにも中に入るよう促した。
 ジョーもその指示に従い、家の中に入る。

「うわっ、おんぼろだな。本当にここに住んでんのか? あんた」
「えぇ、購入したんだけど修繕が必要で……そこで魔道具師のあなたに依頼したいのよ」

 魔道具と言っても幅広い。そもそも魔道具を作れること自体、希少で価値があり、魔道具師は王都に集中する。
 しかし、その多くは既存の物を同じように作る者たちばかりである。
 だが、ジョーが違う。新たな魔道具を自身で考え、生み出すことが出来るのだ。
 修繕を魔道具師に依頼する――奇妙な依頼に聞こえるが、目の前の女性は自身のことをそれだけ調べているのだとジョーは悟る。

「……あんたが俺の知る魔女なら不用心過ぎるだろ」
「あら、大丈夫よ」

 ひゅっと何かが顔の横を通った感覚にジョーは視線を横に向ける。
 ドアの前に立っていたジョー、その横には鋭い氷の刃が光る。
 
「私は攻撃魔法が得意なの」

 溶けるように消えていく氷の刃、冷や汗をかきつつ、ジョーは魔女へと視線を移す。こちらを見つめる魔女は微笑みを浮かべているが、そんな彼女にジョーもまた口元を緩める。
 その反応は彼女の予想外だったのだろう。黒い瞳が大きくなる。

「でもあんたはそれを望んでいない。だから俺を呼んだ――違うか?」

 小さくため息をこぼし、視線を床に落とした魔女は腕を組む。
 それは自身を守るかのようだとジョーには思えた。
 
「――私を追って王都から多くの魔術師や兵がここに来るかもしれない。あなたにはまず、ここを迷いの森にしてほしいのよ」
「……は?」

 魔道具で家を修繕しろと言ったかと思えば、この森全体を迷いの森にしろと言う。一介の魔道具師にも魔術師にも出来ないことを目の前の女性はジョーに依頼しようとしているのだ。
 彼女が王都にいた頃、優秀な者達がその周囲にいたせいなのだろう。
 こちらを見つめる彼女の黒い瞳は、ジョーがそれらのことを出来ると信じて疑わないものだ。

(本気で俺に出来ると思ってんだな、この魔女は。王都の優れた魔術師でも魔道具師でも出来ないようなことが俺に出来ると)

 一言発したものの沈黙していたジョーは次の瞬間、大きな声で笑い出す。
 驚きに目を丸くする魔女に、ジョーは頷く。

「そりゃあ面白いな! 王都の魔術師も魔道具師も太刀打ちできない立派なもんを拵えてやるよ!」
「そう……よかったわ」

 心底ほっとしたように魔女は微笑む。
 安定しつつも、どこか退屈な日々を送っていたジョーに訪れた大きな依頼――それも人々が恐れる魔女からのものだ。
 優れた攻撃魔法を見せる一方、どこか世間知らずの黒髪黒目の女性、通称「魔女」と魔道具師ジョーの出会いであった。




 

 
 
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