プレゼント・タイム

床田とこ

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 ニュースキャスターが、テレビの中で今年のノーベル賞の話題を話していた。
 何年経っても選ばれない小説家よりも、今年は何百年も解けなかった定理を解き明かした日本人数学者の受賞が有力だと放言している。

 私達は、自分達が生きていく上で何の影響も無いような『それだけの事』にいつも一喜一憂し、結果何も変わりもしない意味や理由を求めて、それを気にして生きている。



「……許してほしい、とかは言わない、けど」

 父を見上げる。
 ずっと見守られていた。
 この人に。

「……お父さん。
 お母さんを奪って、ごめんなさい」
 
「ああ。許さない」
「うん」

「そのかわり、これからずっと悔やめ。悩め。悲しめ。生涯かけて後悔しろ」
「うん」

「俺はお前が嫌いだ」
「うん」

「でもそれは、あいつを奪ったからじゃない。俺によく似てるからだ。そしてきっと、俺より優秀だからっていう嫉妬だ。それだけの話だ」
「うん」

「アイ、心から、お前を愛している。ずっと愛してる」
「うん」

「あいつと、約束したからな」
「……うん。お父さん、ありがとう」



 父のお腹の辺りに顔をうずめた。
 涙がシャツに浸み込んでいく。
 そして父の愛が、カラカラ渇いていた私の心に沁みこんでいく。

 どんな定理を用いても解けない解法で、検証が立証されていく。
 結果何も変わりもしない意味や理由でも、今の私達父子には、絶対に必要な検証だったんだ。


 
 
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