プレゼント・タイム

床田とこ

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【37-29】

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『死んだらダメだろ。アイも俺も、悲しくて生きていけない』

『ううん。いいの。あの子のためなら、私はきっと後悔はしないわ。天才の我が子の助けになれるなんて、親としては誇らしいこと。とっても幸せなことよ。
 うふふ。それでもあなたは生きなきゃね。生き続けて、ずっとアイのライバルでいてもらわなくちゃ』

『笑いごとじゃないだろ。俺もアイも、お前を愛してる』

『私もよ。あなたもアイも愛してます。だからこそ、これは必要なことなの。分かってもらえる?』

『……お前がそう言うなら。でもそうならない事を祈るよ』

『ありがとう。でも、いつかあの子の天才がまわりに受け入れなれなくて、アイ自身が傷付くこともあると思うわ。だから、もしそうなってもあの子をちゃんと守って、どうか叱らないであげてくださいね。
 私がいなくなってもそれは、それだけの事なの。
 あなたなら、きっと大丈夫。不器用だけど、ずっとずっと、私たちを愛してくれる人だから』





 ◇ ◇ ◇





 止め処なく流れる涙を、私は拭かなかった。

 7時30分頃にあんなに吠え泣いたのに、私の両目からは洪水が留まらなかった。

 堰き止めない37度の温水は、滝のように流れてダイニングテーブルに水溜まりを作っていく。


「あいつが死んで、俺は不思議なくらいに落ち着いていた。ああ、あいつの言ったとおりになったんだなって。
 そして、あいつは幸せなんだろうなって、そう思った」

「……」

「アイ。お前が無事でよかった。
 俺達の愛が、生きていてくれてよかった」


 手に持っていた煙草はいつの間にか根元まで燃え尽きていて、それに気付かずに初めて夢中で私に沢山喋ってくれた父が、照れくさそうに灰皿にそれを押し付ける。

 そのままキッチンペーパーを手に私に近付いてきてそれを手渡すと、立ったまま私の頭を撫でてくれた。


「だから、もう気にするな。それだけの事なんだよ」


 
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