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【37-29】
⑧
しおりを挟む「……ああ、その話か」
「違うの」
「うん?」
「違うのお父さん。子どもの不注意なんかじゃない」
「ああ」
「私、分かってて踏切に入ったの。電車が来てるって分かってて」
「うん」
「……私が線路にいたらお母さんが助けてくれるって分かってて、お母さんが死ぬかもしれないって分かってて、それでも私はお母さんが私を助けるだろうって、それを確かめたくて、それで、それで……」
「知ってるよ」
「え?」
「だから知ってる」
「……え?」
「あいつが死んで、お前が生き残るのか。アイはどうしてもそれを検証したかったんだろ?」
「……」
「そんなこと、はじめから分かってるよ」
当たり前のようにそう言って、父は短くなった煙草を灰皿で潰した。
推論の外側、想定外からの返事に、私は完全に思考フリーズに陥る。
煙を帯びない深呼吸をひとつして、父が再び新しい煙草に火をつけた。
「言ってたんだよ、あいつは前から。いつか私たちのアイを守るために、自分は死ぬかもしれないって」
「え?」
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