プレゼント・タイム

床田とこ

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【37-29】

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「結局何にも辿り着けない道を歩いていた。
 ぼんやりと、ずっと分かってたんだ。キリが無いって。
 だから、俺はいつも推論を立ててる。たぶんこうだろう、って。どうせ本当のことなんて、誰も分からないんだ。本当のことと信じていることも、実は『それだけじゃないかもしれない』。
 そう思うと何も信じれなくて、どれも残った事実と自分の推論しか手元になくなるんだよな」


 そうか。
 だから『それだけの事です』、か。

 お父さんの目の前には、お母さんが死んだ、台風が人を苦しめた、そういう事実しか手元に無いんだ。
 実に単純に、端的にそれだけを言ってただけなんだ。


「なんとなく、分かるかも」
「こんな未熟な知識と感情と『たぶん』の推論だけで、何かに怒るなんてできないと思わないか?」
「もっと、深い考えとか心理があってそれっぽい事言ってるんだと、ずーっと思ってた」
「だろ?」


 照れたように下を向いて、くつくつと鼻から煙を出して笑っている。私もつられて笑ってしまう。



 ◇



「まあいい。それより、……そんな話をしたかったんじゃないよな?」

 滅多に掃除をしない台所の換気扇がぐおんぐおんと粘る音を立てて回り、テレビのニュースキャスターは続いて往年の人気俳優の訃報を伝えていた。

 また首のあたりが熱くなり始め、染み出るような不快さに覆われた。

 私はお茶を口に含み、また半開きの唇から決意を混ぜて一気に飲み干す。

 換気扇もニュースも、私には聞こえなくなった。

 私はこれから、検証する。

 一瞬だけ、蓮太のあの表情が脳裏をかすめた。


 
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