プレゼント・タイム

床田とこ

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 祖父母はあの時、父を非難した。
 人でなし。それでも夫か、と。
 父の言葉に、祖父母は『愛』を感じなかったのだ。

 でも私は、お母さんに対する父の思いを強く感じていた。
 葬儀の出席者の誰もがお母さんを不運で不幸でかわいそうな人だったと悼む中、誰かひとりでもお母さんの勇気と行動が結果として我が子を救ったことを、客観的に示したかったのだと思う。

 私がこうして、仕事中の父の無事と健康で祈るのは、私だけが父の本質を知っているからだ。
 私は父とよく似ているから、口を突く言葉の裏にどういう感情が潜っているのかが、痛いほど分かる。

 言う事が端的で誤解されやすいところも、引っ掛かりがあると何事も突き詰めてしまう思考も、お母さんが心から大好きだっていうことも、全部。



「アイがちゃんと、本当のこと言ったらいいと思う」

 今度は頭の中で蓮太がそう言ってくる。
 朝にそんなことを言われて、今日もちょっと調子が狂った。

 蓮太は、そうすれば皆が私を受け入れるようになる、とも言った。そんなことで、人の心が自動開閉されてたまるか。

 受け入れるのも締め出すのも、皆いつもその出入口付近で決めつけてくる。
 固く閉ざした扉のドアスコープから、私を適当に面白がって見てるだけだ。そんな玄関先で私が全てをさらけ出して、剥き出しの全裸のまま「入れて」と歌っても、扉を開け放つ人は誰もいない。きっと。
 
 ひとつだけ生じる疑問があるとするなら、私がそれを「検証したことがない」ってことだ。



 ◇


 
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