プレゼント・タイム

床田とこ

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【5ー1】

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 泣きながら登園を嫌がった私だったが、すぐに幼稚園に順応した。

 たまたま隣りに住んでいた和田家の長男が同じ園に通っていて、お母さんのいない園でひとりぼっちになっていた私を、蓮太が何かと構ってくれた。

 はじめは馴染めなかった園での生活も、だんだんと楽しくなった。「いっしょにあそぼう」「あのお花をみにいこう」「同じおもちゃであそぼう」 あまり多く喋るタイプではないけれど、蓮太が私をいつでも気にしてくれることは、嬉しかった。

 それでも、午後にお母さんがお迎えに来てくれることは、何にも勝る喜びだった。

 幼稚園から家に着くまで二人で歩く時間は、新たにできた「お母さんを独り占めできる時間」になった。

 幼稚園の門扉のそばから「アイ!」とお母さんから呼ばれるのが、たまらなく好きだった。
 他のどのお母さんよりも綺麗で若くて、私だけを見てくれた。

 お迎えの親子で溢れる園を出て、下校の高校生がホームに並ぶ駅を横目に、たまに引っ掛かる踏切を渡る。少し歩くと大きな高校が見え、並木道を並んで抜けた。住宅街に入って五軒目の我が家まで。私とお母さんだけの大切な時間は、その全てが絶対に誰も侵すことの出来ない「プレゼント・タイム」だった。



 ◇
 
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