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【5ー1】
①
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その日のことは、よく憶えている。
決まったリズムで明滅する踏切の赤いランプと、それと同じタイミングで響く警報音。
お母さんに突き飛ばされて、線路の真ん中から踏切の外まで弾かれた私が顔を上げた時、遮断機の棒は下までさがりきったところで。
まだ踏切の中にいたお母さんは立ち上がれてもいなくて、額や頬を擦りむいた顔をようやく上げその双眸で私を見付け、安心したように少しだけ微笑んだ刹那。
ごつん。
という衝撃音とともに、まるで紙芝居を捲るように横に風景がスライドして、お母さんごと全部まるごと連れていった。
後に響いたブレーキの金切り音。
学生の悲鳴。
赤黒い光景。
毎日の夕方少し前、幼稚園からお母さんと二人きりで歩いて家に帰る時間は、本当に大切だった。
でも。
その日、私の中で絶対的なものが目の前から消え去った。
消し飛んだ。
ああ。
絶対なんて無いんだ。
そう思ったんだ。
◇
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