プレゼント・タイム

床田とこ

文字の大きさ
上 下
25 / 97
【2+1】

しおりを挟む
 

「アイはかわいそうじゃねえ」
 
 いつの間にか、蓮太が隣りに立っていた。
 私と真中くんの間に肩を入れるようにして、睨みつけている。
 
「アイはかわいそうなんかじゃねえよ」
 
 当番で職員室に呼ばれていた蓮太は、仕事を済ませた後で学食販売の少しお高い総菜パンを二つ買って戻ってきたのだ。
 


「……和田くん、そこは別に問題じゃないんだよ。いいだろ? 僕はアイちゃんと仲良くなりたくて来たんだ。もう少し話させてくれよ」

「取り消せ。そして謝れ、アイに。問題はそれだけだよ」

「なんだよ。悪く取るなよ。要は僕がアイちゃんの力になるって話……って、アイちゃん?」

「アイ?」
 
 私は席を立ち、食べ掛けのあんぱんを机に置いて廊下に出た。

 だって、今日はパック牛乳買い忘れてたんだもん。そうだよ。あれから16秒以上経っても、パンを嚥下できなかった。喉に詰まったみたいに、そのまま口の中で固まったみたいに、すっと喉を通らない。飲み込めない。そういう「事実」として。

 飲み物の存在って、偉大だった。
 あ、これ、新しく検証できちゃった?
 
「……飲み物、買ってくる。蓮太と、その、真中くんのも買ってきますか?」
「アイ……」
 
 歩きながら呟く。
 聞こえるかどうか分からない声量だったけれど、教室の蓮太には何故か聞こえたみたいだった。
 でも、返事は聞かない。

 かわいそうな私は、そのまま学食販売へパック牛乳を一つ、買いに行く。






 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...