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高校一年生のころ 父方の祖父 前編
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私が高校生一年生のころ、父方の祖父が死んだ。
幼いころから別の家で暮らしていたけれど、月に一度は夕飯を食べに通っていた。
当時私は母の実家にいて、母方の祖母は口うるさい肝っ玉かあちゃんで、祖父も厳格で、でも孫には甘い、でも祖母には頭が上がらない祖父だった。
反対に父方の祖父母は物静かで、おとなしく。いつも孫である私や兄が家を訪問した時には決まってお菓子を出してくれ、一緒にテレビを見たり絵を描いたり孫にでれでれな祖父母だった。
そんな父方の祖父は、小柄でいつもにこにこしていて、甘かった。
私が物心ついたころにはすでに70代くらいで、ほくろだらけの顔に大きな眼鏡、テレビを見ることが大好きでいつも夕飯の支度が整うまで一緒に見ていた。食事中はきまってテレビはつけずに私たち家族とお話をして、早くテレビが見たかった私は常にばくばく料理を食べてはまたテレビの前に向かっていた。
時には夕飯の前にりんごを食べたり、夕飯の後にはみかんむいて食べさせてくれた。
祖父の定位置の椅子の隣には縦長の本棚があって、旅行に行った先のサルの置物や、ゲレンデの木のプレート、趣味の本やパズルがあった。
父方の祖父母の家には黒電話があって、私はいつもでたらめにダイヤルを回しては遊んでいた。
我が家にはないおしゃれなドアノブカバーや、兄も使っていた子供用の小さな椅子、私たち兄弟がお誕生日のたびに買ってもらったおもちゃ、絵を描くことが大好きな私のためにいつもペンと画用紙が準備されていた。だんだん大きくなるにつれ、使わないものが出てきたときには私たち兄妹の専用の収納ボックスにそれらを詰めてくれた。
同じ県内ではあるものの、祖父母が暮らす家は遠くいつも車で通っていた。
チャイムを鳴らして、足早にあがりこむ。
「こんばんは!」
「寒かったねえ、おおきにおおきに。」
「紫ちゃん、夕飯の準備するからおじいちゃんと一緒にお手伝いして。」
よくあるメニューは肉団子に、しゃぶしゃぶ。
しゃぶしゃぶの時にはタレをつくるために祖父がいつもすり鉢を出してゴマをすっていた。祖父は関西の育ちなのか、いつも優しい声でおおきにおおきにと言ってくれた。
帰る時にも外まで出ていつでも私たち家族が乗る車を見送ってくれた。
祖父の体調がすぐれなくなったのは、いつからだったか思い出せない。
気が付くと肺炎になって、入院していた。入院中の面倒は祖母や母がみていて、一回だけ入院する病院にお見舞いに行ったことがある。
その時が一番つらくて、泣きそうになった。中学三年生のころだった。
痩せ細った祖父が、一生懸命、震える手で「紫ちゃん十六歳、高校生。」とメモ用紙に書いてくれた。
話すことも苦しく、頷くことも難しかった祖父が一生懸命書いてくれた。
そのことがうれしかった。
今となってはもうそのメモはどこかにいってしまったけれど。
次第に祖父の容体は悪くなり、時折病院で暴れては看護師さんを困らせ、点滴を勝手に抜いてしまうことも多くなったため手にはミトンをはめていた。
そして翌年、私が通う高校の事務所に連絡がきた。母からで、祖父が亡くなったとの知らせだった。
その日はちょうど4月の健康診断の日で、授業も何もなかった。私はただ茫然と、事務所の前で迎えに来てくれる予定の母を待っていた。
幼いころから別の家で暮らしていたけれど、月に一度は夕飯を食べに通っていた。
当時私は母の実家にいて、母方の祖母は口うるさい肝っ玉かあちゃんで、祖父も厳格で、でも孫には甘い、でも祖母には頭が上がらない祖父だった。
反対に父方の祖父母は物静かで、おとなしく。いつも孫である私や兄が家を訪問した時には決まってお菓子を出してくれ、一緒にテレビを見たり絵を描いたり孫にでれでれな祖父母だった。
そんな父方の祖父は、小柄でいつもにこにこしていて、甘かった。
私が物心ついたころにはすでに70代くらいで、ほくろだらけの顔に大きな眼鏡、テレビを見ることが大好きでいつも夕飯の支度が整うまで一緒に見ていた。食事中はきまってテレビはつけずに私たち家族とお話をして、早くテレビが見たかった私は常にばくばく料理を食べてはまたテレビの前に向かっていた。
時には夕飯の前にりんごを食べたり、夕飯の後にはみかんむいて食べさせてくれた。
祖父の定位置の椅子の隣には縦長の本棚があって、旅行に行った先のサルの置物や、ゲレンデの木のプレート、趣味の本やパズルがあった。
父方の祖父母の家には黒電話があって、私はいつもでたらめにダイヤルを回しては遊んでいた。
我が家にはないおしゃれなドアノブカバーや、兄も使っていた子供用の小さな椅子、私たち兄弟がお誕生日のたびに買ってもらったおもちゃ、絵を描くことが大好きな私のためにいつもペンと画用紙が準備されていた。だんだん大きくなるにつれ、使わないものが出てきたときには私たち兄妹の専用の収納ボックスにそれらを詰めてくれた。
同じ県内ではあるものの、祖父母が暮らす家は遠くいつも車で通っていた。
チャイムを鳴らして、足早にあがりこむ。
「こんばんは!」
「寒かったねえ、おおきにおおきに。」
「紫ちゃん、夕飯の準備するからおじいちゃんと一緒にお手伝いして。」
よくあるメニューは肉団子に、しゃぶしゃぶ。
しゃぶしゃぶの時にはタレをつくるために祖父がいつもすり鉢を出してゴマをすっていた。祖父は関西の育ちなのか、いつも優しい声でおおきにおおきにと言ってくれた。
帰る時にも外まで出ていつでも私たち家族が乗る車を見送ってくれた。
祖父の体調がすぐれなくなったのは、いつからだったか思い出せない。
気が付くと肺炎になって、入院していた。入院中の面倒は祖母や母がみていて、一回だけ入院する病院にお見舞いに行ったことがある。
その時が一番つらくて、泣きそうになった。中学三年生のころだった。
痩せ細った祖父が、一生懸命、震える手で「紫ちゃん十六歳、高校生。」とメモ用紙に書いてくれた。
話すことも苦しく、頷くことも難しかった祖父が一生懸命書いてくれた。
そのことがうれしかった。
今となってはもうそのメモはどこかにいってしまったけれど。
次第に祖父の容体は悪くなり、時折病院で暴れては看護師さんを困らせ、点滴を勝手に抜いてしまうことも多くなったため手にはミトンをはめていた。
そして翌年、私が通う高校の事務所に連絡がきた。母からで、祖父が亡くなったとの知らせだった。
その日はちょうど4月の健康診断の日で、授業も何もなかった。私はただ茫然と、事務所の前で迎えに来てくれる予定の母を待っていた。
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