お悔やみ申し上げます

陽花紫

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おつや

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 子供ながらに、おつやという単語をよく聞いた。

母や祖母が、人付き合いもよく顔が広いせいでもあった。

「紫ちゃん、今日お通夜になっちゃったから夕飯はあるものだよ。」
「おやつ?」
「おつや。」
「おつゆ?」
「おつや。とにかく、いってきます。」

時には母一人で、時には祖父母をつれて、母は夜に出て行った。

 家に帰ってくると、決まってあられやお砂糖のセット、お茶の葉をもらっていた。

 おつやは、なんかもらえる。

私はそう覚えた。
時には黒い服を着てハンカチで目元を拭う母もいたけれど、次の日にはすぐにいつもの口うるさい騒々しい母に戻っていた。

テレビでは、芸能人のお別れ会や告別式の様子が報道される。でもそれはおつやではなかった。葬式だった。
黒い服を着た人たちが涙を流している、時にはお花を台においている、マイクでなにかご挨拶をしている。そんな印象だった。

おつやは夜にあって、時には白い提灯を出しているところを通る。

私が初めてお通夜に参列したのは、父方の祖父が亡くなったとき。

それまで誰かのお通夜に行ったことはなかった。

「うそ、行ってるじゃない。どこそこのおじいさんのやつと、おばあさんのやつに。」

そう言われても、覚えていないものは仕方がない。


お通夜の本当の意味がわかるのは、そこに参列した時だと思う。
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