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幼稚園のころ 見ず知らずの他人
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私が初めて人の死に触れたのは、幼稚園に通っていたころのことだった。
それは身内の死ではなく、顔も見たことのないような第三者、赤の他人、見ず知らずの人の死。芸能人や有名人、テレビに出るような人ではなくもっと身近な場所で、もっと身近に感じた死だった。
ご近所さんが話していたことが、その日の夕食の席で明るみになった。
「どこそこのおじさんが、昨日の夜、公園で首をくくったそうだ。」
母が子供に悟られまいと、くくったと表現をしていたけれど私には不思議とそれが何を指しているのかがわかってしまった。
その人は翌朝、犬の散歩をしていた近所のおじさんに発見されたそうだ。
その公園は私がいつも遊んでいる公園で、遊具もなくただ木々が生い茂るだけのつまらない公園だった。しかしその日を境に、私にとっては興味の対象となる公園へと変わってしまった。
休日になると、私は兄と一緒にその公園へと向かった。
そこにある、動かない木々の一つ一つを眺めてはここだろうか、この木だろうかと不謹慎なことを考えながらうろついた。そして、夜になると真っ暗になるであろうこの場所に成人男性が一人だらんと宙に浮かぶ様子を思い浮かべてひどく楽しげだと思った。
子供のころの私の想像力で描いた首つりというものは、宙に浮いた人の首にロープがかかっているという、とてもふわふわとしたイメージだった。
だが残酷なことに私が年を重ねるにつれ、知識をつけるにつれ記憶のなかの首つりのイメージは変わってゆく。
だらりと重力に従い脱力した体、辺りにはハエがたかり、汚物にまみれ腐臭を放つその人のことを想像しては、身内はいたのだろうか、何を理由にこんなことになってしまったのかと今でも考える。
私は第三者、見ず知らずの娘、ただの他人に過ぎない。
ただ、この記憶は今でも鮮明に覚えている。
それは身内の死ではなく、顔も見たことのないような第三者、赤の他人、見ず知らずの人の死。芸能人や有名人、テレビに出るような人ではなくもっと身近な場所で、もっと身近に感じた死だった。
ご近所さんが話していたことが、その日の夕食の席で明るみになった。
「どこそこのおじさんが、昨日の夜、公園で首をくくったそうだ。」
母が子供に悟られまいと、くくったと表現をしていたけれど私には不思議とそれが何を指しているのかがわかってしまった。
その人は翌朝、犬の散歩をしていた近所のおじさんに発見されたそうだ。
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ただ、この記憶は今でも鮮明に覚えている。
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