15 / 21
薔薇ノ国編
15.薔薇ノ殺意
しおりを挟む
あの晩餐会以降、私はメリナ様やチェリッシュ様、更にはその取り巻きの令嬢たちから、陰湿な嫌がらせを受けることになる。
王宮内の人目につかない場所に呼び出されて、罵声を延々と浴びせられたり、すれ違った際に足をかけられて転倒したこともあった。
だけど私は、決して涙を流したりなどしなかった。
それはマーニャの存在があったからだ。
メリナ様の私に対する振る舞い見た他の女中たちですら、私を蔑み、陰口を叩いていたが、マーニャだけは変わらず接してくれた。
どんなに傷つくことを言われても、マーニャはそれを否定して、私の為に涙を流し、時には怒り、慰めてくれる。
マーニャがいるから私は、挫けずにいられた。
けれど---
そんなある日、事件は起こった。
この日いつものように私に出された食膳の毒味をしていたマーニャが突然、悲鳴を上げた。
「いた…っ…」
「マーニャどうしたの……って何よその血は!?」
口元を押さえるマーニャの白い手の隙間から、赤い鮮血がポタポタと滴る。
(もしかして…ど…毒!!?どうしょう…マーニャが…マーニャが…)
私は、混乱し慌てふためく。
「桜姫様、落ち着いてくださいませ。私は大丈夫でございます。ただお食事の中に硝子の破片が混入していたらしく、取り出す際に唇を切ってしまいました」
そう言うとマーニャは、キラリと輝く硝子の破片を私に差し出した。
「いったい誰がこんな酷いことを……」
私はすぐにある人物が頭に思い浮かんだ。
(ってメリナ様しかいないわよね……私だけならまだしもマーニャにまで……もう我慢の限界よ。絶対に許せないわ!)
私は怒りに任せて勢いよく部屋を飛び出すと、メリナ様を探して広い王宮の中を捜索する。
***
「メリナ様!!」
「あら、あなたの方から出向くなんて、珍しいこともあるのね」
色とりどりの薔薇の花が咲き誇る庭園で、白い大理石の柱と屋根で造られた、小さな丸い建物の中で、メリナ様は優雅にお茶をしていた。
私は脇目も振らずにメリナ様に詰め寄る。
「マーニャに謝ってください」
「ちょっと何を仰ってるのかわからないわ。どうしてこのわたくしが、使用人如きに謝らなきゃいけなくって?冗談はおよしになって」
メリナ様は、馬鹿馬鹿しいとばかりに鼻で笑う。
だが今回ばかりは、食い下がる訳にはいかなかった。
「メリナ様のせいでマーニャは怪我をしたのですよ。危うく飲み込んでしまうところでした」
「いったい、なんの事かしら」
「とぼけないでください。メリナ様が私の御膳に硝子の破片を忍ばせたのは分かっています。そのせいで毒味をしたマーニャが私の身代わりになって……」
マーニャの痛々しい姿を思い出しただけで、怒りが沸々と溢れ出し、拳を握る手に力が入る。
「なによ。突然やってきたかと思えば勝手に人を犯人呼ばわりして、無礼にも程があるわよ!それにわたくしがやったという証拠はあるのかしら」
「そ…それは…」
痛いところを突かれて、言葉を詰まらせる。
(確かに証拠などないわ。でも……)
「あら、さっきまでの威勢はどうしたのかしら。まさか証拠もないのに、勝手な思い込みだけでわたくしに罪を着せるおつもり?どうなのよ。さぁ、答えなさい!!」
待ってたとばかりにメリナ様は扇子を突き出し、勝ち誇った顔で私を見る。
「……証拠はありません。ですが今までのメリナ様の私に対する数々の非道な行いを見たら、疑われても仕方ないと思いますわ」
「ふんっ!やっぱり証拠などないじゃない。話にならないわね。今すぐここから出て行きなさい。茶が不味くなるわ」
だけど私は、まだ引き下がらない。
「メリナ様、お願いですからもうこのような事はお辞めください。幸いにも今回は怪我だけで済みましたが、次は何をされるのかと思うと恐ろしくて夜も眠れませんわ」
「もうっ!しつこいわね!そんなに不安なら、あなたも護衛をつければいいじゃない」
「護衛を?」
メリナ様の思いがけない返答に、私はキョトンとした表情をする。
「そうだわ。丁度、騎士団長からそれはそれはとても物珍しい新人の騎士が採用されたと聞きましたわ。あなた専属の護衛役に回すように、わたくしから頼んであげますわ」
感謝なさい!と含み笑いをするメリナ様に、違和感を覚える。
(いったいどういうつもり?あのメリナ様が私の為に、善意を行うとは到底思えないわ。何を企んでるのかしら)
私は、妙な胸騒ぎを覚えた。
王宮内の人目につかない場所に呼び出されて、罵声を延々と浴びせられたり、すれ違った際に足をかけられて転倒したこともあった。
だけど私は、決して涙を流したりなどしなかった。
それはマーニャの存在があったからだ。
メリナ様の私に対する振る舞い見た他の女中たちですら、私を蔑み、陰口を叩いていたが、マーニャだけは変わらず接してくれた。
どんなに傷つくことを言われても、マーニャはそれを否定して、私の為に涙を流し、時には怒り、慰めてくれる。
マーニャがいるから私は、挫けずにいられた。
けれど---
そんなある日、事件は起こった。
この日いつものように私に出された食膳の毒味をしていたマーニャが突然、悲鳴を上げた。
「いた…っ…」
「マーニャどうしたの……って何よその血は!?」
口元を押さえるマーニャの白い手の隙間から、赤い鮮血がポタポタと滴る。
(もしかして…ど…毒!!?どうしょう…マーニャが…マーニャが…)
私は、混乱し慌てふためく。
「桜姫様、落ち着いてくださいませ。私は大丈夫でございます。ただお食事の中に硝子の破片が混入していたらしく、取り出す際に唇を切ってしまいました」
そう言うとマーニャは、キラリと輝く硝子の破片を私に差し出した。
「いったい誰がこんな酷いことを……」
私はすぐにある人物が頭に思い浮かんだ。
(ってメリナ様しかいないわよね……私だけならまだしもマーニャにまで……もう我慢の限界よ。絶対に許せないわ!)
私は怒りに任せて勢いよく部屋を飛び出すと、メリナ様を探して広い王宮の中を捜索する。
***
「メリナ様!!」
「あら、あなたの方から出向くなんて、珍しいこともあるのね」
色とりどりの薔薇の花が咲き誇る庭園で、白い大理石の柱と屋根で造られた、小さな丸い建物の中で、メリナ様は優雅にお茶をしていた。
私は脇目も振らずにメリナ様に詰め寄る。
「マーニャに謝ってください」
「ちょっと何を仰ってるのかわからないわ。どうしてこのわたくしが、使用人如きに謝らなきゃいけなくって?冗談はおよしになって」
メリナ様は、馬鹿馬鹿しいとばかりに鼻で笑う。
だが今回ばかりは、食い下がる訳にはいかなかった。
「メリナ様のせいでマーニャは怪我をしたのですよ。危うく飲み込んでしまうところでした」
「いったい、なんの事かしら」
「とぼけないでください。メリナ様が私の御膳に硝子の破片を忍ばせたのは分かっています。そのせいで毒味をしたマーニャが私の身代わりになって……」
マーニャの痛々しい姿を思い出しただけで、怒りが沸々と溢れ出し、拳を握る手に力が入る。
「なによ。突然やってきたかと思えば勝手に人を犯人呼ばわりして、無礼にも程があるわよ!それにわたくしがやったという証拠はあるのかしら」
「そ…それは…」
痛いところを突かれて、言葉を詰まらせる。
(確かに証拠などないわ。でも……)
「あら、さっきまでの威勢はどうしたのかしら。まさか証拠もないのに、勝手な思い込みだけでわたくしに罪を着せるおつもり?どうなのよ。さぁ、答えなさい!!」
待ってたとばかりにメリナ様は扇子を突き出し、勝ち誇った顔で私を見る。
「……証拠はありません。ですが今までのメリナ様の私に対する数々の非道な行いを見たら、疑われても仕方ないと思いますわ」
「ふんっ!やっぱり証拠などないじゃない。話にならないわね。今すぐここから出て行きなさい。茶が不味くなるわ」
だけど私は、まだ引き下がらない。
「メリナ様、お願いですからもうこのような事はお辞めください。幸いにも今回は怪我だけで済みましたが、次は何をされるのかと思うと恐ろしくて夜も眠れませんわ」
「もうっ!しつこいわね!そんなに不安なら、あなたも護衛をつければいいじゃない」
「護衛を?」
メリナ様の思いがけない返答に、私はキョトンとした表情をする。
「そうだわ。丁度、騎士団長からそれはそれはとても物珍しい新人の騎士が採用されたと聞きましたわ。あなた専属の護衛役に回すように、わたくしから頼んであげますわ」
感謝なさい!と含み笑いをするメリナ様に、違和感を覚える。
(いったいどういうつもり?あのメリナ様が私の為に、善意を行うとは到底思えないわ。何を企んでるのかしら)
私は、妙な胸騒ぎを覚えた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

あなたへの恋心を消し去りました
鍋
恋愛
私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。
私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。
今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。
彼は心は自由でいたい言っていた。
その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。
友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。
だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。
※このお話はハッピーエンドではありません。
※短いお話でサクサクと進めたいと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる