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薔薇ノ国編
11.薔薇ノ婚姻
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そして二週間後、婚姻式当日。
薔薇ノ国の生活やしきたりにも段々と慣れてきた今日この頃。
結局オルフェオ様は、一度も私に会いにくることはなかった。
私と結婚するのが余程、嫌だったのだろう。
(まぁ、仕方ないわよね…政略結婚だもの…きっと私と同じで、嫌々と婚姻に応じたんだわ)
「桜姫様、これにお着替えください」
「これは……」
「ウェディングドレスでございます」
マーニャに渡されたのは、ドレス全体に金剛石|《ダイヤモンド》が散りばめられた純白のドレスだった。
目が痛くなるほど、眩い輝きを放っている。
(世の中には、こんな美しいドレスが存在するのね…)
私は恍惚した表情で眺める。
暑い化粧を施されて、髪を結い、侍女が数人がかりでドレスを着せてくれた。
頭には女性用の王冠を乗せて、裾まである薄い布を被った。
「まぁ、なんて美しいのでしょう!」
マーニャはドレス姿の私を見て、感嘆の声をあげる。
「何だか恥ずかしいわ。変じゃないかしら」
「とてもお似合いでございますよ。これならきっと、オルフェオ様もイチコロですわ」
(その肝心のオルフェオ様とは、まだ一度も会ったことすらないんだけれど…)
私はありがとうと苦笑いをした。
「さぁ、皆様お待ちかねです。参りましょう」
***
婚姻式は薔薇ノ国の大聖堂で行われ、司祭の祝福を受けて、互いに指輪を交換すれば終わるという簡素なものだという。
参列者は王族や貴族など総勢二千人以上の者達が集まっていた。
残念ながら療養中の国王陛下と、付きっきりで看病をしてるベスビアス王妃は不参加だった。
「凄い数の人ね…緊張してきたわ」
私は扉の隙間から大聖堂の中を覗くと、顔が強ばった。
(これから中央の通路を通って、祭壇まで歩いて行くのよね……)
こんなに大勢の者達に、注目されるのかと思うと流石の私も身震いした。
「本当に凄い人の数ですね。私まで緊張してきました……ところで桜姫様、オルフェオ様はどちらにおられるのでしょうか?もうすぐ式が始まるというのに…」
式には夫婦になる二人で入場するのが掟なのだが、肝心のオルフェオ様はまだ来ていなかった。
「それは私が知りたいわよ。オルフェオ様とは、なんて放漫な方なのかしら」
時間が迫るに連れ、辺りは騒がしくなる。
いよいよ私も焦燥に駆られる。
『おい!オルフェオ様はいたか?』
『いいえ。お部屋にはおりませんでした』
『 何だと!!一体どこに行ったんだ!?』
(まさかこのままオルフェオ様は姿を見せないつもり?)
一抹の不安が頭をよぎる。
もしこのままオルフェオ様が姿を現さなかったら、この婚姻はどうなってしまうのだろうか--
延期?それとも結婚そのものが破棄になるかも知れない。
(ようやく桜ノ国に平安が保たれたばかりだというのに…)
諦めかけたその時、背後から声がした。
「まったく騒がしい!オルフェオ様なら私がお連れしましたよ」
声につられて振り向くとーー
「「エクレール様…!オルフェオ様…!」」
翠色の髪に眼鏡を掛けた謹厳直実そうな男性と、その後ろには漆黒の髪に紫色の瞳をした、容姿端麗な男性が現れた。
(なんて綺麗な瞳なのかしら…まるで宝石のようだわ…)
私は紫色の美しい瞳の持ち主に、一瞬で目が奪われた。
「桜姫様、後ろにおられる方がオルフェオ様でございます」
マーニャが小声で耳打ちする。
(あの人がオルフェオ様…私の夫になるお方……)
思わず見惚れていた私はハッとして、すぐ様オルフェオのもとに駆け寄り、予め用意してた挨拶の言葉を述べる。
「初めまして。オルフェオ様。桜ノ国から参りました真桜と申し上げます。ずっとオルフェオ様にお会い出来る日を心待ちにしておりました。薔薇ノ国に来たばかりで、まだまだふつつかな者でありますが、どうぞこれから宜し……」
「黙れ」
私の言葉を遮ぎり、その宝石のように美しい瞳で鋭く睨み付ける。
私は聞き間違いかと思って--
「え……今、何とおっしゃいましたか」
と確認する。
「黙れと言ったのだ!誰もお前のことなど興味がない!耳障りだ!」
声を荒げて、威圧する。
「も、申し訳ございません。もし何か失礼を働いたのなら、いくらでも謝罪を致しま……」
オルフェオ様は私がまだ話してる途中だというのに、最後まで聞かずに、扉に向かってスタスタと歩き出す。
私の事など丸っきり興味がないといった感じだ。
(無視…された…!?散々人を待たせた挙句に謝罪の一言すらしないなんて、礼儀知らずもいい所だわ。どうやら冷徹非道だという噂は本当らしいわね)
「申し訳ありません。殿下は誰に対してもあんな感じなのです。どうか気を悪くなさらないでください」
「えっと…」
「申し遅れました。私は殿下の側近のエクレールという者です。どうぞお見知り置きを」
オルフェオ様の側近だというエクレールと名乗る男性は、眼鏡をクイッと持ち上げる。
「エクレール様ですね。畏まりました」
「殿下は決して悪い人ではございません。根は優しい人なのです。どうか噂などに流されず、オルフェオ様を見つめて上げてください」
「はぁ……」
にわかに信じ難いと思いつつ、私は相槌を打つ。
エクレール様がオルフェオ様を信頼してるというのが見て取れた。
そして速やかに婚姻式は執り行われる。
あれからオルフェオ様は私と一言も言葉を交わすことはなく、婚姻式は何事もなく終了した。
薔薇ノ国の生活やしきたりにも段々と慣れてきた今日この頃。
結局オルフェオ様は、一度も私に会いにくることはなかった。
私と結婚するのが余程、嫌だったのだろう。
(まぁ、仕方ないわよね…政略結婚だもの…きっと私と同じで、嫌々と婚姻に応じたんだわ)
「桜姫様、これにお着替えください」
「これは……」
「ウェディングドレスでございます」
マーニャに渡されたのは、ドレス全体に金剛石|《ダイヤモンド》が散りばめられた純白のドレスだった。
目が痛くなるほど、眩い輝きを放っている。
(世の中には、こんな美しいドレスが存在するのね…)
私は恍惚した表情で眺める。
暑い化粧を施されて、髪を結い、侍女が数人がかりでドレスを着せてくれた。
頭には女性用の王冠を乗せて、裾まである薄い布を被った。
「まぁ、なんて美しいのでしょう!」
マーニャはドレス姿の私を見て、感嘆の声をあげる。
「何だか恥ずかしいわ。変じゃないかしら」
「とてもお似合いでございますよ。これならきっと、オルフェオ様もイチコロですわ」
(その肝心のオルフェオ様とは、まだ一度も会ったことすらないんだけれど…)
私はありがとうと苦笑いをした。
「さぁ、皆様お待ちかねです。参りましょう」
***
婚姻式は薔薇ノ国の大聖堂で行われ、司祭の祝福を受けて、互いに指輪を交換すれば終わるという簡素なものだという。
参列者は王族や貴族など総勢二千人以上の者達が集まっていた。
残念ながら療養中の国王陛下と、付きっきりで看病をしてるベスビアス王妃は不参加だった。
「凄い数の人ね…緊張してきたわ」
私は扉の隙間から大聖堂の中を覗くと、顔が強ばった。
(これから中央の通路を通って、祭壇まで歩いて行くのよね……)
こんなに大勢の者達に、注目されるのかと思うと流石の私も身震いした。
「本当に凄い人の数ですね。私まで緊張してきました……ところで桜姫様、オルフェオ様はどちらにおられるのでしょうか?もうすぐ式が始まるというのに…」
式には夫婦になる二人で入場するのが掟なのだが、肝心のオルフェオ様はまだ来ていなかった。
「それは私が知りたいわよ。オルフェオ様とは、なんて放漫な方なのかしら」
時間が迫るに連れ、辺りは騒がしくなる。
いよいよ私も焦燥に駆られる。
『おい!オルフェオ様はいたか?』
『いいえ。お部屋にはおりませんでした』
『 何だと!!一体どこに行ったんだ!?』
(まさかこのままオルフェオ様は姿を見せないつもり?)
一抹の不安が頭をよぎる。
もしこのままオルフェオ様が姿を現さなかったら、この婚姻はどうなってしまうのだろうか--
延期?それとも結婚そのものが破棄になるかも知れない。
(ようやく桜ノ国に平安が保たれたばかりだというのに…)
諦めかけたその時、背後から声がした。
「まったく騒がしい!オルフェオ様なら私がお連れしましたよ」
声につられて振り向くとーー
「「エクレール様…!オルフェオ様…!」」
翠色の髪に眼鏡を掛けた謹厳直実そうな男性と、その後ろには漆黒の髪に紫色の瞳をした、容姿端麗な男性が現れた。
(なんて綺麗な瞳なのかしら…まるで宝石のようだわ…)
私は紫色の美しい瞳の持ち主に、一瞬で目が奪われた。
「桜姫様、後ろにおられる方がオルフェオ様でございます」
マーニャが小声で耳打ちする。
(あの人がオルフェオ様…私の夫になるお方……)
思わず見惚れていた私はハッとして、すぐ様オルフェオのもとに駆け寄り、予め用意してた挨拶の言葉を述べる。
「初めまして。オルフェオ様。桜ノ国から参りました真桜と申し上げます。ずっとオルフェオ様にお会い出来る日を心待ちにしておりました。薔薇ノ国に来たばかりで、まだまだふつつかな者でありますが、どうぞこれから宜し……」
「黙れ」
私の言葉を遮ぎり、その宝石のように美しい瞳で鋭く睨み付ける。
私は聞き間違いかと思って--
「え……今、何とおっしゃいましたか」
と確認する。
「黙れと言ったのだ!誰もお前のことなど興味がない!耳障りだ!」
声を荒げて、威圧する。
「も、申し訳ございません。もし何か失礼を働いたのなら、いくらでも謝罪を致しま……」
オルフェオ様は私がまだ話してる途中だというのに、最後まで聞かずに、扉に向かってスタスタと歩き出す。
私の事など丸っきり興味がないといった感じだ。
(無視…された…!?散々人を待たせた挙句に謝罪の一言すらしないなんて、礼儀知らずもいい所だわ。どうやら冷徹非道だという噂は本当らしいわね)
「申し訳ありません。殿下は誰に対してもあんな感じなのです。どうか気を悪くなさらないでください」
「えっと…」
「申し遅れました。私は殿下の側近のエクレールという者です。どうぞお見知り置きを」
オルフェオ様の側近だというエクレールと名乗る男性は、眼鏡をクイッと持ち上げる。
「エクレール様ですね。畏まりました」
「殿下は決して悪い人ではございません。根は優しい人なのです。どうか噂などに流されず、オルフェオ様を見つめて上げてください」
「はぁ……」
にわかに信じ難いと思いつつ、私は相槌を打つ。
エクレール様がオルフェオ様を信頼してるというのが見て取れた。
そして速やかに婚姻式は執り行われる。
あれからオルフェオ様は私と一言も言葉を交わすことはなく、婚姻式は何事もなく終了した。
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